第4章
夢小説設定
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カーラーンがアルスラーン殿下を捕らえるべく出陣した日の夜。再び目を覚ましたエレオノールのもとに新たに来客がいた。
『…。』
「…。」
銀仮面卿である。
背中の痛みに耐えながらも毅然とした態度で彼を見つめていた。
「命を拾ったようだな。」
『…礼など言わない。』
「ふん。期待しておらん。」
『なんの用だ。』
「…。カーラーンが死んだ。」
『―!?』
その凶報にエレオノールはすこし目を開く。
しかしもっと驚いたのがカーラーンに対して反応してみせた自分だ。
少なからずまだあの人に情が残っていたということか…。
裏切り者の、あの人に…。
父と年も近いゆえ、他の万騎長に比べて交流があったのだ。だから私のこともエレンと愛称で呼んでくれていた。
『(悲しい、のかな…。)』
わからない。
裏切られた気持ちと、亡くなった悲しみ。
頭の中がごちゃごちゃだ。
父上に、会いたい…。
『なぜそれを私に言う?代わりに私に自分に仕えろとでも言いに来たか。』
「貴様にカーラーンの代わりが務まるとは思っておらんよ。…だが、そうだ。この俺に仕えよ。」
『断る。』
「ふっ。よく考えることだな、この先のことを。どちらにつくほうが賢明か…。カーラーンもお主のことをかっていた。阿呆ではなさそうだからな。」
この先のこと…。
それはつまりイアルダボート教に改宗して生きる、ということか。
本当にそれが正しいのだろうか。
『父に…、父上に会わせてほしい…。』
「…。いいだろう…。」
『―!』
お互い負傷者同士。
なにも出来ないと思ったのだろう。
意外にもあっさりと父サームとの面会が許された。
ついてこい、といい部屋から出ていく銀仮面卿の後を慌てて追いかけた。その道中ではルシタニア兵が堂々と歩きまわっていて、あぁ本当にパルスは負けたんだと実感する。
「ここだ。」
『…。』
入れ。と促す銀仮面卿をちらりと目をやりながらもゆっくりとその部屋のドアを開けた。
『―!父、上…っ、』
部屋の奥。寝台の上で横になる父サーム。
手厚く手当をされたのか、身体中包帯だらけだった。…私もひとの事は言えないのだが…。
深い眠りにつく父の手をそっと握り締めた。
トクン、トクンと弱々しくもしっかりと脈打つその身体が父がまだ生きていることを教えてくれた。
その様子を見届けた銀仮面卿は静かにその場立ち去り、すれ違ったルシタニア兵にニ、三言告げると姿を消した。
おそらく面会したあと、私を部屋に戻すよう指示したのだろう。
『よかった…、父上…。』
大恩あるあなたになんの恩もお返し出来ず、別れてしまうのではないかと気が気でなかった。
父の左手を両手でぎゅっと握りしめ、祈るように額に当てる。
『(彼のものを助けよ…、光よ甦れ…。)』
その言葉とともにエレオノールの手に小さく光が宿る。その光は血の気のないサームの顔に色味を差した。
エレオノールのこの力は生まれつきだった。
幼い頃、すでにこの力を発揮しており、だがこのことを知っているのはごく一部の人間のみ。
すでに亡くなったエレオノールの血の繋がった本当の父。そして歳の離れた兄一人のみ。そのどちらもすでにこの世にいない。ゆえに知るものはもはや本人のみ。
結局サームの部屋にエレオノールは一時間ほどいた。
しかしサームが目覚めることはなく。
だが父が無事であることを確認出来ただけでもよかった。不安だった心が落ち着いていく。
『(聞けばカーラーンを討ち取ったのがアルスラーン殿下とその仲間だと…。きっとそこにはダリューン様もおられるはず…。)』
エレオノールの心は決まっていた。
左耳につけていた耳飾りをそっと父の枕元に残した。いつか父が目覚めた時、自分は無事であることを伝える為に。
それは父が贈ってくれたエレンの大切なもの。ほかに欲しいものはないのかと散々聞かれたのだがエレンは結局これ以外を欲しがろうとはしなかった。
これだけでいいのだと。
この耳飾りだけで十分なのだ。
『(父上…どうかご無事で、いつか必ずまた再会しましょう。)』
私がただ望むのは父上と二人、あの邸で穏やかに過ごすこと。
どうかそれまでは…。
おそばを離れることをお許しください。
寝台のそばから立ち上がると、目線の先にいたルシタニア兵に顎で指示される。部屋に戻れ、と。
その意図を理解するとエレオノールは素直にそれに応じた。
パタリと閉められた部屋のドア。
再び押し込まれた無機質でなにもない部屋をぐるりと見渡した。
あるのは寝台と本棚のみ。
部屋の窓から見える景色は王宮の、しかもかなりの離れに位置する。
だが、ここから抜け出すことなど容易だ。
今はただ休息するのみ。行動を起こすのは明日だ。そう考えたエレオノールは倒れるように寝台に身を沈めたのだった。
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