第20章
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キシュワードからの提案で専属護衛を付けたほうがよいのでは、と言われたのだがさすがに四六時中誰かに付かれるのは気が休まらない。
狙われているとわかったので、今後は自分でも十分警戒するから必要ないと丁重に(必死に)お断りしたことで不満そうな顔が消えないキシュワードであった。
彼からしたらエレンに大人しくしてて欲しいのが本音だろう。
キシュワードはエレンを王女殿下として守り尽くしたいのだから。
それをわかってて断ることは少しの申し訳なさが心の隅にあった。
騒動から一夜明け、夜明け前。
シンドゥラの一件で体力が失われた身体を取り戻すため、エレンは早朝噴水のある広場を訪れ、朝稽古をしようとやってきた。
するとそこには先客がおり、噴水の縁で身体を休めていた。
『――アズライール。』
名を呼ばれ、振り返るアズライール。
飼い主であるキシュワード様に朝の散歩に連れ出してもらったのだろうか。
ゆっくりと近づくエレンにアズライールはぴくりとも動くことはなく近づいてくる彼女をじっと見つめた。少し距離を取って同じように噴水の縁に腰掛ける。その距離約1mほど。
すました顔でちらりと隣を見る。
だが心の中では大興奮。しかしそれを悟られてはせっかく近づけたこの距離を保てなくなる。
ちょっとは気を許してくれた証拠だろうか?
その状態で時間が過ぎること数分。
アズライールを探してキシュワードが広場に姿を現した。
珍しい二人のツーショットを見て、長年懐くことのなかったアズライールに驚いてみせる。
「これはどういう風の吹き回しか。エレンのそばにいようとは…。」
『しー…っ。お静かに。――あ…っ!』
現れた飼い主の存在に気づいたアズライールはさっきまでの時間がなかったかのようにキシュワードの肩に止まる。
その様子に明らかに残念そうに肩を落とすエレン。
相変わらずにその様子にキシュワードはくっくと笑いを噛み締めた。
『せっかく近くにいられたのに…。』
「だ、そうだぞ?アズライール。お主、少しは気を許したのではなかったのか?」
しかし本人はそんなこと知ったことではないと言うかのように、小さくピィと鳴いて、もう一度狩りに飛び立ってしまった。
小さくなるその姿を残念そうに見送るエレンにキシュワードはここへ来た目的を話す。
「お主のことだから、またここで鍛錬をしているのではないかと思って来たのだ。」
『そろそろ体力を戻さないと、数カ月後にはエクバターナに向けての出兵ですから。』
シンドゥラの国都ウライユールでの出来事をエレンは後日キシュワードに話した。おかけで体力は空っぽ、一人でろくに馬にも乗れない帰路を辿り。派手にやからしたな、困ったように彼は苦笑いした。
「うむ。…そこで提案なのだが、俺がお主の朝の鍛錬の相手をするというのはどうだ?」
『――!』
つまりエレンを鍛えてくれるということ。
彼女を主将レベルの人材に育てるには戦う術も向上してもらわなければならない。
その手伝いの一環として、キシュワードはエレンの鍛錬の相手を申し出た。
シンドゥラ遠征前のエレンなら申し訳ないと言って断っていただろう。だが今は――。
『よろしいのですか?本当に私を鍛えてくださるのですか?』
「あぁ。俺で良ければな。」
これはまたとない機会だ。
エレンを鍛え上げるということは、ひいてはアルスラーン殿下のためにもなる。
エレンは彼の提案を受けることにした。
頭を深く下げ、請う。
『どうぞよろしくお願い致しますキシュワード様。』
「あぁ。女だからとて遠慮はせんぞ。サーム殿もそのつもりでお主を鍛え上げただろうからな。」
『はい。無論そのつもりです。』
その日からエレンの特訓がスタートする。
早朝はキシュワードから稽古をつけてもらい、その後はナルサス卿の補佐官として城内を駆け回る。その合間に勉強もこなしカーヴェリー河の西岸入植の進行も欠かさずチェックする。
畑に植える種はエレンから提案した保存の効く麦を中心とし、その他に生鮮野菜もいくか取り入れられた。
中でもナルサスを驚かせたのがエレンが河の決壊を防ぐ護岸工事に使われる石材の種類を指定してきたことだ。
パルスの地質には水に強い石材と弱いものがある。水に強い石材を護岸工事の基礎に取り入れれば万が一川が増水しても耐えられるというのだ。
そんなことを一日やっていると気づけば夜中になっていたという日々を送る毎日であった。
ある日、エレンはナルサスから軍議を行うと言われた。
『軍議、ですか?』
「あぁ。もちろんお主も出席する権利がある。ただ…、」
『ただ…?』
「女性が軍議に参加することに意義を唱える者もいるだろう。それでなくとも私の補佐官ということでお主は毛嫌いされておるからな。」
『それはなんとなく理解しています…。』
つい先日も廊下を歩いていると数名の官吏達から、
「そこの“侍女”。私の部屋に茶を持ってきてくれ。…あぁ、失敬。そなたは“侍女”ではなかったな。はっはっは!」
などとまあまあ品のある嫌味を言われてきたところである。
しかしここで問題を起こしてはナルサス様にもキシュワード様にも迷惑がかかる。ぐっと堪えて笑みを浮かべてその場を去った自分を褒めて欲しいくらいだ。
「だがそこで殿下や私が口を挟んではお主のためにはならぬ。」
『承知しております…。ナルサス様、お許しいただけるのでしたら私に任せていただけませんか?考えがあります。』
「官吏達を黙らせる方法をか?」
彼女からの意外な提案に少し驚くナルサス。
さてどうしたものかと考えていたのだがまさか彼女の方から対処法を考えると自ら言われるとは思わなかった。
『要は官吏達に私を認めさせればよいのでしょう?父の言いつけ通り、徹底的に叩きのめしてやります。女だからと言われることは予想していたのでそのための策は考えてあります。』
「それは楽しみだな。是非とも期待しておこう。」
不敵に笑うエレンに釣られ、悪いことを考えてそうな笑顔を見せるナルサスに、ダリューンが危惧していたとおりエレンがだんだん悪友に似てき始めてきたのだった。
もしかしたらその才能がすでに彼女に備わっていたのかもしれない…。それをナルサスが開花させた、といったところだろうか。
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