第20章
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そのあとしばらくして騒動は起きた。
エラムが慌てて紙切れ一枚を手にナルサスのいる部屋を訪れ、それを見せた。そこには“アルスラーン王子に加担せし愚者共に告ぐ。汝らの隠匿せる大将軍ヴァフリーズの密書はすでに我が手中にあり”――。
以後、これを教訓に油断慎むべし――。
そう書き記された紙を見てナルサスは慌ててバフマン老の部屋に駆けつける。
偶然居合わせたアルフリードとギーヴも一緒に向かうと、隠した密書を手に天井に消えようとする、噂の影いわく“手”。
消える寸前でナルサスがその腕を切り落とし、とどめにギーヴが身体があるであろう天井を突き刺した。しかし突き刺した感触は確かにあったがあと一息、とどめを指すことが出来ず逃す。
なにが起きているのか理解できないエラムは自分が大役を仕損じたと誤解する。顔が青ざめていくエラムにナルサスはようやく成り行きを説明した。それを聞いたあと、へなへなと足元から崩れ落ちるエラム。
致し方なかったとはいえ、エラムを騙すようなことなってしまいバツが悪いナルサスだった。
その事の顛末を後日改めて聞いたエレン。
噂の影の目的がバフマン老に宛てたヴァフリーズ老からの密書だと知る。しかしそれが何者なのか。誰に仕え命令されているのか…。
「密書は偽物だから実害はなかったが、捜索と警戒を厳重にするようキシュワード殿に依頼してある。エレン、おぬしも十分用心するのだぞ。」
『わかりました。』
偽の密書が奪われた日から数日。
キシュワードの命にてペシャワール城の警戒が厳重に敷かれたある日の夜。
とある書記官にカーヴェリー河の西岸の入植の進行具合を聞きに行っていた帰りのエレン。
彼女が歩く廊下のはるか遠く離れた場所で、突然侍女の叫び声が響き渡る。
駆けつけた兵によると、侍女は腕を何かで斬りつけられ、血を流していたという。その斬りつけた者というのが。
「噂の影と申しておりました。」
「なに?」
騒ぎを聞き駆けつけたキシュワード。兵士から詳しい状況を聞き出す。
それは突然壁から腕だけ出し、その手に握っていた刃物で侍女の腕を斬りつけたという。そして再び壁へと消えていった、と。
その時聞こえたのが…。
「セイジョじゃない、と言っておりました…。」
斬られた腕の応急処置を受ける侍女からその言葉を聞く。
その単語だけではすぐには理解出来なかったが、キシュワードは頭の中である言葉に変換される。
“聖女”と――。
その言葉に結びついたとき、顔が青ざめていく。
ナルサスから聞いた、奇妙な連中がエレンの事を“聖女”と呼んだことを。
つまりこの侍女はエレンと間違えられ襲われたことになる。そして、本人ではなかったと気づいた。
「エレンが危ない――。」
その場から慌てて駆け出すキシュワード。その手に双剣の片方を握りしめて。
この時間ならまだナルサス卿の執務室で補佐をしている頃だろうか。
慌ただしく彼の部屋に訪れるキシュワード。緊迫した表情の彼にナルサスは何事かあったのか訪ねた。
「エレンはおらぬかっ。」
「エレン?そういえばまだ戻っておりませんが…。どうされましたか?」
「侍女が何者かに襲われた。どうやらエレンと間違えられたらしい。噂の影が“セイジョじゃない”と呟いたのを聞いた。」
「――!」
切れ者のナルサス。その単語だけで彼女に危険が迫っていると理解する。乱暴に席を立つと、剣を片手にキシュワードと共に部屋を飛び出した。その際にダリューンにエレンを探すようエラムに伝える。
「エレンは確かカーヴェリー河の西岸の入植の事を聞きにナサール書記官のところへ向かったはずです。」
「わかった。手分けして探すぞ。」
頷くナルサスにキシュワードは城内を駆けながら二手に分かれた。
完全に密書のことばかりに気を取られ油断していた。
まさか影の目的にエレンが含まれていようとは。
「ナルサス!」
「ダリューンかっ。」
「エラムから聞いたぞ。エレンはまだ見つかっておらんのか。」
「あぁ。」
鉢合わせたダリューン。エラムから状況を聞いたのか焦りが見える。
エラムには他の者達にもこのことを伝えに回ってもらった。
当の本人はというと探されていることなどつゆ知らず。
何枚か書を手に呑気に廊下を歩いていた。
『なんだか城内が騒がしいような…?』
静まったペシャワール城で、どこからか騒がしい声がちらほら。
なにかあったのだろうか、と考える。
「エレン!!」
『?』
振り返ると緊迫した表情で駆け寄ってくるナルサスとダリューン。
二人とも様子がおかしい。もしかして殿下の身になにかあったのでは?という考えが過る。
「無事だったかエレン!」
『?私ですか?殿下になにかあったのかと…、』
「理由はあとで話す。とにかく部屋に戻る――、!!。」
部屋に戻るぞ、と言いかけて声が止まった。
なぜならまだ離れた距離にいるエレンの背後に黒いローブを纏い、仮面を付けた者が彼女に覆いかぶさるように姿を現したからだ。
その手には短剣が握られていた。
『――っ、』
いる――。
背後の不審な気配を察知する。
急いで振り返るが、反応が間に合わない。
エレン!と遠くでダリューンとナルサスの声がする。
さすがの二人もこの距離では彼女に襲いかかる剣を防ぐには遠すぎた。
ぱっと不審な者と目が合う。瞬間ぞくりと背中が震えた。
『(ダメだ――。反応が間に合わない――っ!)』
短剣が彼女の喉元を狙う。
もうダメかと思われたその時――。
『う゛――っ!』
ぐい!とエレンの上着のフードを誰かが床に向けて引っ張り、その勢いで強く背中を打ち付けたが、その上に覆いかぶさるようにして彼女に向けられた短剣を弾く。相手が強敵と認識した不審な者はあっという間に壁へと消えるようにいなくなった。
一瞬の出来事だった。
『はぁ…、はぁ…、』
「無事かっ。」
間一髪でエレンを凶刃から守ったのはキシュワードだった。
ナルサス、ダリューンらとは違う廊下から駆けつけエレンを守ったのだ。床に倒れた状態のエレンに手を差し伸ばし、上体を起こさせる。
「咄嗟のこととはいえ、手荒な真似をしてすまなかった。怪我はないか?」
『あ、ありがとうございました。大丈夫です。おかげで助かりました。でも、一体何が…、』
「侍女が先程の者におぬしと間違えて襲われたのだ。」
『え―?』
その言葉でだいたいの予想が出来た。
つまり自分も噂の影に狙われた、ということ。
それを知らせようと必死でナルサス、ダリューン、キシュワードは駆けつけてくれたのだ。
『私を狙って…。殺すつもりだったのでしょうか。』
「わからん。だが用心してくれ。警戒は厳重にするつもりだが…、万が一のことがある。」
「とにかく無事で良かった。」
と、ダリューンは息をつく。
この件によりナルサスの提案で彼女の部屋は補佐官ということもあり彼の隣に移ることになった。
もともとファランギースとアルフリードと相部屋だったのだが、いざというときのために万騎長らのそばに移すことが最善策と考えたのだ。
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