第20章
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「おぬしらが遠征に行ってる間に気味の悪いことがあってな…。」
『気味の悪い、ですか…。』
「ほう。双刀将軍キシュワード殿もあろう者が気味が悪いとおっしゃいますか。」
「いや、相手が人間であれば恐れぬつもりなのだが。“何か”がこの城にいるらしいのだ。」
それは、影のような正体不明のものだという。
壁や天上、床を自在にくぐり抜ける、と。
キシュワードが呟いた言葉に思い当たる節があるナルサスとエレンは目を大きく見開かせる。
『ナルサス様っ、』
「あぁ…。キシュワード殿詳しくお聞かせ願えますか。」
「うむ。兵士共が噂していたのだが、“それ”は糧食を盗み、井戸の水を飲み、兵士共を害する、と…。」
「人死にも?」
「出た。三人死んだ。」
『――…っ。人を殺めるのですか…。』
そういえばペシャワールに来る途中の村では村人が全員殺されていた。そう思えばこそ被害がまだ三人で済んでいるのはましなのかもしれない。しかし一体何が目的なのか…。
「最もその影とやらが犯人だという証拠は何もない。単なる事故だと俺は思っているが兵士共はそうは思わぬ。」
「ふむ…。」
おそらく何か目的があってこの城に潜り込んでいるのだろう。
壁や天上をくぐり抜けるというのであれば捕らえるのはそう容易ではなさそうだ。
「…ときにエレン。おぬし、俺とナルサス卿に話したいことがあると申していたな。」
「そうなのか?」
正体不明の影の存在から、意識を戻す。
二人がこちらをじっと見つめた。
『あ、はい。…実は、遠征前にキシュワード様に言われたことをずっと考えていたのですが…。ナルサス様、シンドゥラのグジャラート城で仰っていたこと、覚えていらっしゃいますか?』
「殿下にあらゆる方向の可能性とその対処法をいくつも考えている、というやつか?」
頷くように首を縦に振る。
その言葉を借りるようにエレンなりにあらゆる方向の可能性の一つ一つを考え、訪れるであろう未来をいくつか思いついたことがある。
『今現時点でルシタニア側に私の正体を知っているのは銀仮面卿なる人物です。このことが敵に広がっているかどうか…。それ以前に私なりに考えたのですが…。私の正体がアンドラゴラス陛下に知れ渡っている場合と…すでに知っている場合です。』
「――…っ!」
予想外の内容だったのか、言葉を詰まらせたキシュワードとナルサス。構わず言葉を続けるエレン。
『ダリューン様にもお話したのですが、十七年前の火事で私を救ってくださったのは他ならぬヴァフリーズ様でした。あの方が陛下に私の存命を伝えていたかどうか、…もしくはヴァフリーズ様に私を救出するよう命じたのが陛下だとしたら…、』
「陛下がおぬしの存在を容認している、と?」
続きの言葉をナルサスが付け足すように話す。
頷くエレンの隣でキシュワードは汗が流れた。
『十七年前のことは宮廷に宮仕えしたことがある者はたいていこの噂をご存知でしょう?アンドラゴラス陛下が兄王オスロエスを弑した、ということを。そしてヒルメス殿下と幼い王女を殺すよう命じた――。』
「それは、そうだが…。もしおぬしを救うよう陛下が申し上げたのならその意図はいったいなんなのか…。」
『どちらにせよ、突然このことが露見した場合、お二人には心構えをしていただきたく存じます。』
「…承知した。」
「わかった。」
キシュワード、ナルサスが真剣な眼差しで頷いた。
『私の正体が露見した場合ルシタニアを手引した疑いをかけ最悪その場で害されるか、地下にでも閉じ込めるでしょう。陛下が命じたのなら誰にもどうすることも出来ません。その時の為に私は自分の出来ることをしようと思います。』
* * *
ナルサスから頼まれた仕事をこなし、同じく彼と業務をこなす部屋に戻るとその主はいなかった。
『ナルサス様、どこへ行ってしまったのかしら…。』
軍議のことを相談しようと思っていたのに。
しかし一人執務室でいる時間はそう長くはなく、しばらくて部屋の主が難しい顔をして戻って来る。
『あ、ナルサス様おかえりなさい。』
「ん?あぁ、戻った。」
そしてそのまま席に着いたかと思うと、すらすらと一筆を書き始めるナルサス。
『どちらへ行かれてたのですか?』
「ギーヴからも城内に出る影の噂の話でちょっとな。」
『ギーヴから?』
どうやら彼にも思い当たることがあったらしく、ナルサスに相談しにきたそうだ。なんでも奇妙な気配を感じたらしく、ちょうどその場所が。
「バフマン殿の部屋の近く、だそうだ。」
『――っ!バフマン様の…、もしかして―っ!』
頷くナルサス。
察しの良いエレンに影の目的が例のヴァフリーズ老からの“密書”の可能性があると告げる。
一筆描き終えた紙を小さく折りたたみ、紐で結ぶ。
「エラム、エラムはいるか?」
「―はいっ。お呼びですかナルサス様。」
呼び出されたエラムは頼みがあるという主から例の手紙を受け取る。
「これをバフマン老の部屋のどこかに隠しておいてくれ。」
「手紙…ですか?」
「そうだ。ヴァフリーズ老がバフマン老に宛てた例の密書だ。」
「!―ナルサス様が持っておいででしたか!でもどうして…、」
「どこかに隠しておこうと思うのだが、俺はこの通り馬鹿に忙しい。代わりに隠しておいてくれ。」
責任重大な任務にエラムに緊張が走る。
そのやり取りを横で見ていたエレン。
さて、ナルサス様はなにをなさろうとしているのか。
すぐさま部屋を出るエラムの後ろ姿を見送った。
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