第19章
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《尊師…、尊師…、》
《静まれ。今私は歓喜に震えるているのだ…。》
パルスの西、エクバターナ付近の地下深く。
大量の巻物や書物に埋め尽くされた机で両手を広げて喜びを顕にする尊師と呼ばれた魔道士はまるで神に感謝するように祈りを捧げる。
もちろんその相手は崇拝する蛇王ザッハークだ。
《異国の地で“聖女様”が覚醒なされた。ここまで感じましたぞ。あなた様の力を…。あぁ…待ち遠しい…。血を…、“聖女様”の血を手に入れるのだ…。》
《我々にお任せください…。》
配下の魔道士はまるで地面に溶けるようにその場からいなくなった――。
* * *
エレンのベッド生活も、はや七日目が過ぎようとしていた。
とりあえず一人で歩行出来るまでは回復したのだが、剣を振るどころか馬に一人で乗ることも不可能であったため、シンドゥラの国都ウライユールを出発する時にはセトの馬に乗せてもらい、その後は負傷したパルス兵達が乗る荷馬車に一緒に乗せてもらうことになった。
同じ荷馬車に若い娘が乗ることに同乗者はそわそわする。
ウライユールからパルス軍に合流するまでの城下の道はうわさのエレンを一目を見ようと大勢の人が駆けつけており、ようやく姿を拝見できたシンドゥラの民は大いに歓喜した。
その様を無視することも出来ず、苦手な愛想笑いを無理やり作って手を振り返す。
本隊に合流する頃には顔が愛想笑いのしすぎで引きつりそうになる。
荷馬車に同乗したエレンは引きつった顔を解そうとマッサージをする。その隣でセトが馬に乗った状態で荷馬車と同じ速度で彼女の傍を離れず護衛する。
しかめっ面をするエレンにセトはじっと彼女を観察する。
その脳裏には軍師殿の言葉が繰り返されいた。
「よいかセト。アルスラーン殿下から聞いたのだがラジェンドラ殿はエレンを欲しているらしい。おそらくパルスをへ帰還する道中でなにか仕掛けてくるだろう。その際、おそらくエレンのことも連れ去ろうとするはず。」
「では私はなにをすれば?」
「うむ。ラジェンドラ殿の事はこちらで対処するゆえ、お主はエレンから片時も離れず守ってやってくれ。よいか、決して一人にさせるでないぞ。」
「…了解しました。」
そんなやり取りがあったことなど知る由もないエレンは同乗する荷馬車の兵と楽しげに会話をしていた。
どうやら奴隷から自由民になった歩兵部隊の者たちらしく、早く帰還して開墾した土地を耕したい、と待ちきれんと浮足立つ様子にエレンはあることを脳裏に過った。
『(帰ったらナルサス様に相談してみよう。)』
「ペシャワールを出てすぐ新年の儀だったから…、」
「異国に三ヶ月もいたのか。」
「このまま何事もなく帰れるといいなぁ。」
「ガーデーヴィ軍の残党が襲ってきたりしないだろうな?」
「なぁに、ラジェンドラ軍三千騎がついてきてくれているんだ。何かあったら奴らに任せりゃいいさ。」
パルス軍の最後尾をラジェンドラ陛下の“ご厚意”で騎兵隊五百騎のところ三千騎貸し与えてくれたのだ。
その気前の良さがかえって不気味でもある。
即位したばかりの不安定な情勢の中、三千騎も兵を割いては有事の際困るのでは、とアルスラーンも遠慮したのだが半ば無理やり押し付けられたように騎兵隊が付いてくるという形になった。
行軍すること丸一日。夜も更けた頃、数名の見張りだけを残してアルスラーン達は休眠を取った。
エレンもファランギース、アルフリードと同じ幕舎で休む。
その見張りをセトがする。
最初の頃はセトの存在に戸惑っていたアルフリードも(ファランギースは特になにもなく。)ようやく慣れてきたようで、気にせず自由な時間を過ごした。
するとしばらくしてから外の様子に異変を感じる。
ざわざわと騒ぐような気配に、始まったかとファランギースとアルフリードは手早く武装する。
何が起きているのか一人理解していないエレンは二人を交互に見た。
『な、なに?なにか起きるの?』
「お主はここで待機じゃ。」
「たぶんラジェンドラが夜襲にきたんだと思う。エレンはここでじっとしててね。」
まるでラジェンドラが夜襲をしかけて来ることを予想してたかのように二人は幕舎を出ていってしまう。
どうやらナルサスから何かしらの指示を受けていたのだろう。
ろくに体を動かせない自分は大人しくここで待っていた方が良いだろう。
「うわっ!」
「ぐはぁっ」
『――!?今度はなに!?』
幕舎のすぐそこで数名の兵士のうめき声がした。
すると慌てた様子のセトが中に入ってくる。
「エレン様っ」
『セト!?』
「ラジェンドラの兵がここまで来ました。」
『なんでここに…、』
言ってよいのか数秒考えた後、セトはナルサス卿からの指示をエレンに正直に話した。
「狙いはあなたです。ナルサス卿からあなたをお守りするよう片時も離れるなとの指示でした。」
『そう、だったの…。』
だからずっと自分のことを見ていたのか。
幕舎の見張りも名乗り出るし、必要以上に護衛されている気がした。
遠くで夜襲だ!火が出たぞ!と叫ぶ声が聞こえる。
そしてドドドという地響き。馬が駆ける音だ。
しかし突入したラジェンドラだったが、燃えていたのは焚き火で幕舎を覗けば、中はもぬけの殻。
「なんだこれは…」
この状況にラジェンドラも拍子抜け。
辺りは焚き火で明るいのにパルス兵が一人もいないのだ。
「幕舎が二つ三つ、派手に燃えているだけでパルス軍はもぬけの殻です!」
「三千の我が先兵はどこへ行った!?」
辺りをそれだけ見渡しても人の気配すらない。
混乱する状況の中、ころんとラジェンドラの足元に見覚えのある首が転がり落ちる。
それは三千騎を率いていた隊長だ。
「――!!」
「おぬしの送り込んだ三千騎は我がパルス軍の手に落ちた!」
黒衣の騎士の掛け声と共にわあぁあとパルス兵がラジェンドラの周りを囲むようになだれ込む。
「ふ…防げぇっ!」
「シンドゥラの横着者よ!おぬしの奸計はすでに破れた!アルスラーン殿下のお慈悲に縋ってせめて生命をまっとうすることだな!」
兵士を盾に逃げおおせるラジェンドラ。
それをダリューンが追いかける。
「まだ悪あがきするか!そのざまでガーデーヴィを笑えるのか!」
「俺はガーデーヴィとは違う!貴様らには捕まら…――」
そのさきの言葉を紡ぐことはなかった。
駆け抜ける道の先には待ち構えていたかのようにファランギースとギーヴが行く手を阻む。
その状況にもはや逃げられぬと悟ったか、顔が青ざめていくラジェンドラ。
「――…なんでこうなった…。」
* * *
ラジェンドラが兵士を貸し与えてくれるという話を聞いたときからこの作戦は始まっていたのである――。
先兵である三千騎の兵士は先立って見張りをするパルス兵に夜討ちを仕掛けようとしたのだが、まさかの返り討ちに遭い、三千騎ことごとく討ち取られ自ら幕舎を派手に燃やしあたかもシンドゥラの兵達が夜襲に成功したと見せかけるように工作をする。
それにまんまとかかってくれたラジェンドラ陛下。
今、再びお縄を頂戴したところである。
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