第18話
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
アルスラーン殿下とラジェンドラ陛下の訪問があった翌日も彼女の部屋に訪問者が立て続けに来た。
ちなみに部屋の前をセトが警護してくれていると殿下から聞いたときは驚いた。
セト!?とびっくりした声で呼ぶと何でしょう。と相変わらず淡白な返しにいつもと変わらない様子の彼になぜか安心した。
奇跡を起こした日からすでに五日が経とうとしているのに未だベッド生活を余儀なくされる彼女の下へ訪れたのは、意外な人物だった。
『え?宰相マヘーンドラ様の令嬢?』
「はい。」
それ以上の情報をくれないセト。
面会したいとやってきた来客を知らせるため、彼女に伝えに来たのだ。
『通してあげて。』
「はい。」
面会を許可すると、その扉の向こうから女性ともう一人、見知った人物が一緒に入ってくる。
『ジャスワント!?』
驚くエレンに女性の後ろに控えていたジャスワントは軽く会釈をする。
殿下が釈放するよう頼んだと言っていたが無事に出られたようだ。
それからエレンはマヘーンドラ様の令嬢へと視線を向ける。
『はじめまして、ですね。』
「えぇ。面会の許可をいただきありがとうございます。お会いできて嬉しいですわ。私はマヘーンドラの娘・サリーマと申します。ジャスワントから聞きました。我が父を瀕死から救って頂いたと。心から感謝申し上げます。」
大きな黒い瞳にすこし目尻が下がった印象的な目。
艶のある黒髪は彼女の日に焼けた健康的な肌を魅力的にさせる。
そして特徴的なのがふっくらとした艶のある唇は同性であるエレンでさえ見入ってしまうほど見惚れるものがある。
慎ましくお淑やかな、まさに深窓の令嬢という名に相応しい。
自分も数年前までは彼女のように慎ましく過ごしていたのだが、いつのまにか戦場を駆けるお転婆になってしまった。
自らそう望んだとはいえ、以前の自分の姿のような女性をみると少しだけ後ろ髪を引かれるような気持ちが顔を出す。
『私はアルスラーン殿下の臣下、エレオノールです。どうかお顔をお上げください。私はただ…、あの時は無我夢中だったので自分でも何をしたのかよく覚えていないのです。でもあなたのお父様が助かって良かった。どうかお父様を労って差し上げてください。』
自分はそれが出来なかったから。
だから余計に彼女にそうして上げて欲しいと望んだ。
本当はエクバターナで籠城戦の折、負傷した父の傍にずっと居たかった。それすらも放棄して私は自分の“願い”を叶えることを優先してしまったから。
「そのように致しますわ。この御恩は一生忘れません。」
そう話すサリーマ。長居してはいけないと手短に面会を終え、彼女は名残惜しそうに退室しようとする。しかしジャスワントだけはまだ何か言いたそうにし、サリーマ様、と声を掛けた。
「なに?ジャスワント。」
「申し訳ありません。先に屋敷に戻っていただけますか?私はまだエレオノール殿に話したいことがあるのです。」
「そう。でもあまり長話をしてはダメよ。」
彼女からの忠告を受けたジャスワントは、はい。とだけ返す。
そしてジャスワントを残して出ていったサリーマの後ろ姿を見届けた彼は目の前の恩人に視線を戻す。
エレンもジャスワントがまだ話したいことがあるだろうと感じていたので彼にベッドの傍の椅子へ腰掛けるよう促す。
素直に従う彼が、あの…、と会話を切り出した。
「私からもお礼を言わせてください。我が養父マヘーンドラ様をお救いいただき、まことに―」
『ストップ。それはもう聞いたわ。』
「あ…、えっと…、」
最後まで言えず不完全燃焼状態のジャスワントは次の言葉に悩む。
「あの…、ご無礼をお許しください。なぜマヘーンドラ様を救ってくださったのでしょうか?」
なぜ敵であるマヘーンドラを助けようとしたのか。
牢屋に入れられた時もずっとそればかり考えていた。けれどそれも聞くことは出来ず死ぬのだろうと思っていたところ、まさかアルスラーン殿下の願いで釈放されることに。
彼の問いにエレンは正直に答えることにした。
『聞いても、怒らないでね。…あの時はただ、嫌だったの。』
「…。」
『マヘーンドラ様を抱き、泣き崩れるあなたを見て以前の自分を思い出したから。あの日のことは一生忘れないし一生後悔して生きていくのだと悟ったわ。でも泣いているジャスワントを見てそう何度も同じ後悔を味わいたくない、と。そう心から願った。』
救えたかもしれない命。きっと出来たかもしれないことをやらなかった自分に今後ずっとこのことに苦しむんじゃないかと思うと怖かった。
ただ、それだけ。
泣いているジャスワントのためではなく。
自分の後悔を増やしたくないがため。
苦しみを増やしたくないがため。
人の命より自分勝手な思いが強かった。
『失望したでしょう?あなた以外にも大切な人を無くした人は大勢いるし、悲しんでいる人達だって大勢いるはずなのに。』
「い、いえっ。そのようなことは。…どんな理由であれ、マヘーンドラ様が救われたのは事実です。たとえあなたの自分勝手な理由であろうとあの時はマヘーンドラ様だけでなく、大勢の兵士が命を救われたのです。」
『ジャスワント…。』
「あなたは奇跡を起こした理由を自己嫌悪されているようですが、私にはそれのどこがいけなかったのか理解できません。」
そう話すジャスワントの姿が以前ペシャワール城で殿下に本当の自分を話したときの言葉を思い出した。
私にはエレンがどうして自分を身勝手というのかわからないよ。
お主は自分のことを身勝手というがそれで誰かが損をするだろうか?
結局はみなを助けるためであろう?その為に利用されるのであれば私はなんとも思わぬ。それのどこがいけないのか、私には理解出来ぬよ。
真っ直ぐな瞳で、なにかおかしな事を言っただろうかという表情で。
ジャスワントもそれと同じような顔をするのでつい笑いが込み上げてきた。
『ふふっ…、』
「な、なにかおかしな事を言ってしまったのでしょうか?」
『ごめんっ。ジャスワントの言葉がアルスラーン殿下とまったく同じなものだから面白くて…。』
目尻に浮かんだ泣き笑いの涙を拭きながら、ありがとう。と感謝の言葉を伝えるエレン。
笑みを浮かべた彼女につい顔を赤くしながらそっぽを向いてしまうジャスワントであった。
第18章・完 2025/09/29.