第4章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
エクバターナ陥落から一夜。
とある少女がエクバターナの街中を歩いていた。
その視線の先はパルス騎兵隊の列。
先頭を元・万騎長カーラーンが率いる。
街の人達が話すには、逃げた王太子を捕まえるために出ていくのだという。
しかし王太子がどこにいるかまでは把握できていないようだ。
少女がここにいる理由が他にもある。
ある人から、他のパルス兵や万騎長の生存の確認。エレオノールという娘の安否だが、どうやらこれ以上は掴めそうにもない。
そう判断した少女は足早にエクバターナを脱出し、主のもとへと急ぐのであった。
「王都は完全にルシタニアに堕とされておりました。」
そう話す先ほどの少女こと少年・エラム。
視線の先にはアルスラーン殿下が。
無事アトロパテネの戦場からダリューンと共に逃げ延びていたのだ。
その二人に加え、あらたにダリューン卿の古い友人・ナルサスとその侍童・エラムが加わっていた。
さきほどの少女はこのエラムが扮装して潜入していたのだ。
「父上は!?」
「兵士も街の者も王がどこにいるのか知らぬようでした。」
「…はぁ…、そうか。」
肩を落とすアルスラーン。
「それからカーラーンが殿下を捕えようと城を出ました。千騎以上はいましたね。」
「私を捕える為に…、いささか大げさではないか?」
アルスラーンはナルサスを見上げた。
「彼らは我々の数を知りませんから。それに殿下は歩く大義名分。あなたを陣頭に押し立てればルシタニアに抵抗する勢力を糾合できます。」
「ルシタニアにとっては甚だまずいことですね。」
だが、自分が隠れているこの場所をどうやって見つけるのかという問いにナルサスは村を焼く、という容赦ない答えをアルスラーンに聞かせた。
あまりの残酷さに言葉を失う。
本当にあのカーラーンがそのようなことをするのか、と。
「王と国を売った模範的な武人、ですな。」
「――っ!」
決断を迫られるアルスラーン。
果たしてこのまま隠れて、身を守ることが正解なのか。
それとも…、
「ナルサス…。カーラーンがどこの村を襲うか、わかるか…。」
「わかりますとも。」
「どうやって…?」
「彼の部隊が案内してくれます。後ろに付けばよろしい。…そうなさいますか?」
ナルサスの言葉にアルスラーンは覚悟を決める。
「すぐに出る!鞍の用意を!」
彼は決めた。逃げずに立ち向かうことを。
裏切ったカーラーンと決着をつける為に。
アルスラーンとエラムが鞍の用意に勤しんでいる時、ダリューンはナルサスと続きを話していた。
「ナルサス、カーラーンは単純な男ではない。白昼あからさまに隊を組んで王都を出るなど…、」
「殿下を誘い出す罠か…。あり得ることだな。」
「そう思うのなら、なぜお止めせぬ。」
「ダリューンよ。俺は結構あの王子の技量に期待しているのだ。…どのみちカーラーンの口からでなくては裏面の事情も知りようもない。」
カーラーンの裏切りは故あってのこと、とダリューンにも、そしてサームにいっていた。
それが一体なんなのか。直接彼に問いたださなくては知りようもないのだ。
「獅子の子を捕えるためだ。獅子の巣に入りこむことも時にやむを得ぬだろうよ。」
ナルサスの考えがわかったのか、ダリューンはふっと笑みを零した。
「お前、殿下が村を救いに行かぬ時は君主たる者の資格なしとみなして見放すつもりだったのではないか?」
友の推測にナルサスもその通りと言わんばかりに笑みを返すのだった。
「ダリューン、ナルサス!早く出よう!こうしてる間にも村が襲われているかもしれない!」
馬の手綱を手に意気込むアルスラーン。
アルスラーン殿下のご決断にダリューンは嬉しく思う反面、頭の中ではとある人物の安否を気にかけていた。
「(結局エラムはなにも情報をつかめなかったか…。無事でいてくれればよいが…。)」
遠征直前、ご武運をと別れた知人の娘。
つい数日前のことなのにもうずいぶん昔のことのように思える。
ダリューンは遠いエクバターナの方角をふと見つめるのだった。
カーラーンがアルスラーン殿下を捕えるべく出陣する数刻前。
彼はとある一室にいた。
『……。』
「…。」
寝台の上でうつ伏せにして眠る女性。
うつ伏せになっているのは背中を斬られ負傷しているためである。
あの夜、エクバターナが陥落した時、銀仮面卿は娘を殺さぬよう指示を下した。
もとよりサーム共々、助命嘆願するつもりだったのでカーラーンにはありがたかった。
『ぅ…っ、』
「―っ!」
小さくうめき声がした。
うっすらと開かれた目はぼーとしながらも、カーラーンの姿を捉えた瞬間、覚醒する。
『あなたは…っ!、うぅ…つ、』
がばっ、と勢いよく身体を起こしたせいで斬られた背中に激痛が走った。
痛みに悶えるエレオノールにカーラーンは再び寝台に横にさせる。
「背中を斬られていること忘れるな。命に別状はないが重症には変わりない。」
『なぜ…。わたしは…、エクバターナは…』
痛みに意識が朦朧とするなか、それでも少しでも現状を理解しようとカーラーンに問いただす。
「エクバターナは陥落した。すでにルシタニア配下だ。お主の身柄は銀仮面卿が預かることになっておる。」
『銀仮面卿…、』
王宮にいた銀仮面の男か。
不気味な男だった。仮面のせいでその表情は読めず、またその目はすこしも温もりを感じられぬほど冷たいものだった。
『父上、は…、』
「案ずるな。別室で手当てを受けておる。あ奴の方が重症ゆえまだ油断は出来ぬが…」
『よかった…、父上…、』
カーラーンのその言葉にエレオノールは静かに涙を流したのだった…。
「エレンよ、父サームと共に銀仮面卿にお仕えするのだ。さすれば命だけは助けられよう。お主ら親子は失うには惜しいゆえな。」
『…。』
考える素振りは見せたが、エレオノールはなにも言わなかった。
考えておくのだ、と言い残し彼は部屋を出ていく。
そのまま意識を失うようにまた眠りについたエレオノールを目に焼き付けカーラーンはアルスラーン殿下を捕えるべく出陣する。
.