chapitre.7
夢小説設定
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その男の子が星史郎だったということ。鬼児であったのは彼女の方。
きっともう少し時間があれば、二人とも彼女ついた嘘に気付けたかもしれないが、結局、“イの一”の鬼児であった彼女は星史郎によって無理に引きずり出されてしまったのだけれど。
「遊戯(ゲーム)が面白くなるなら、“誤った情報をワザと与えること”もまた、イベントのうちよ。」
「そういったイレギュラーな対応ができるのも、貴方が“生きた人物(プレイヤーキャラクター)”だからですね。」
あの仮想現実の世界、桜都国には、“生きている者”が別の姿になって演じているプレイヤーキャラクター。つまりゲームを楽しみに来ている人たち。龍王や譲刃たちも小狼たちも、このプレイヤーキャラクターとなる。
そして、最初から設定されている、演じ手がいないノンプレイヤーキャラクター。鬼児がそれにあたる。ただの情報でしかないのだから、気配がなかったのだ。
黒鋼やセイが鬼児の気配に気づけなかったのも、セイが錬丹術を使えなかったのもそのためだ。
仮想世界なのだから生きている自然の力・龍脈を感じ取れなかったのも頷ける。
そう織葉が説明し、小狼は納得したように頷いた。
「鬼児に気配がないのは分かりました。でも、貴方には気配があります。」
「私は鬼児の役割を演じているけれど。桜花国にもちゃんと存在しているプレイヤーキャラクターだから。いつもは“白詰草”で歌っていて、参加者の誰かが鬼児を段階ごとに倒して、然るべき手順を踏めば、やっと“イの一”の鬼児として現れる予定だったの。」
そして、わたしを倒せば終了。と織葉は続けた。それから千歳を振り返り、茶目っ気を含んで言った。
「どんなに管理していても、予定は未定ってことね、千歳。」
それで、と今度は織葉さん尋ねる番。
「干渉者さんは私に何の用かしら?」
織葉は星史郎へと体ごと向ける。星史郎はゆっくりと質問を始めた。
「仮想現実である桜都国と現実世界では、姿形を変えることも可能なんですよね。」
「そうよ。」
「貴方の本当の姿は今と同じですか?」
「いいえ。」
「貴方は“永遠の命を与えられる”と聞きました。」
「ええ。」
淡々とイエス、ノーで答えていく織葉。星史郎の質問の意図が見えない。
「回りくどい質問の仕方はやめましょう。」
にっこりと笑みを浮かべると、真剣な声色で彼が一番聞きたかったことをそのままぶつけた。
「…貴方の本当の名前は、“昴流”ですか?」
「違うわ。」
「…吸血鬼の双子について何か知っていますか?」
「知らないわ。」
星史郎の質問に対する答えはノー。
「私も、この妖精遊園地のシステムを作ったひとりなの。“永遠の命を与える”というのは、最強の鬼児である私を倒した者には桜都国内での無敵状態、つまり何があっても死亡しない特権を制作者サイドから与えるという意味。
吸血鬼の伝説とは無関係よ。」
「今回も違いましたか。」
「ご期待に添えなくてごめんなさい。でも、この状況はちょっと困ったわね。」
「遊戯の世界が現実化しているのはこれのせいです。」
星史郎は、手中にある羽根を見せる。
「制御は出来ませんが、この世界から消えれば影響も消えますよ。」
もう一度にっこりと微笑むと、星史郎は織葉から視線を外し、セイの方に声をかける。
「さて、もう一人聞きたい方がいるのですが…。魔法が効きすぎたのか、起きないようですので後ほど聞くことにしましょう。」
星史郎は羽根を手にしたまま、足元に魔法陣を発動させる。それはセイの方にも。
このまま彼女も別の世界へ連れて行くつもりだ。
「待って下さい!」
星史郎がセイに手を伸ばしたとき、小狼が声を上げた。
「セイさんと、羽根を返してください。」
「この羽根は、小狼のものじゃないよね。」
「大切な人の、とても大切なものです。おれは、その羽根を探して旅をしているんです。」
「でも、返してあげれないな。ごめんね。」
星史郎はそう言うとにこりと笑みを浮かべた。
「僕と戦うのかな。」
小狼は、少し苦しそうに眉を寄せた。一瞬だけ、躊躇うように瞳の奥が揺れた。ぎゅっと緋炎を握り、視線を下げる。
「おれに戦い方を教えてくれたのは貴方です。今のおれでは貴方には勝てません。一度桜都国で戦って良く分かりました。けれど、」
顔を上げた彼の瞳にもう迷いは無かった。
「けれど、セイさんと羽根を渡すわけにはいきません。」
未熟なまま緋炎を抜かないようにと、黒鋼が縛った細い縄を解いた。
「まだ未熟なおれには、この剣はきっと扱いきれない。けれど、抜かないままでは万に一つも勝ち目はない。だから、僅かな可能性でもあるなら、それに賭けます。」
覚悟を決めて鞘から抜いた緋炎は、まるで小狼の心を表すように、紅い炎を纏っていた。
黒鋼の言葉を忘れているわけではない。
―刃物はな、相手を選ばねぇ。使い手が未熟なら、その未熟な切っ先のまま斬る必要のないものまで斬っちまう。例えば己自身。
例えば、守るべきもの。お前が斬るべきもののみを斬れるようになるまで、それは解くな。―
それでも、今、抜かなければいけなかった。大切なものたちを取り戻すために。
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