chapitre.6
夢小説設定
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パタパタ。…パタン。
不自然な態度で彼の前から去り、急いで、でも静かに部屋に戻った。
向こうのベッドではサクラがぐっすりと眠っている。
閉めたドアにずるずるともたれるように座り込んだ。心臓が張り裂けそうなくらい早鐘を打つ。
さっきの黒鋼さんの視線を思い出すとなお早まる。
触れられた髪の毛を自分でもそっと握りれば顔が熱く。
どうして。
あんな顔をしていたのだろう。
初めてだった。あんな真っ直ぐな視線を向けられたのは。
女だから、子供だからと言っていた大人たちのものとは全く違っていた。
『(どうしてこんなにも心臓が騒ぐの…、)』
胸が痛くて、耐えきれなくて。両手で心臓を掴むように胸の前で握った。その痛みは熱を持って駆け上がって、目の奥がつんとして呼吸ができなくなった。まるで呼吸の仕方を忘れたみたいに。
どうして。知らない、こんなの。ゆっくり、ひとつ、深い息を吐いた。
今夜は眠れそうにないな、とひとつ息を吐く##NAME1##だった。
今宵も美しい満月が夜空に輝いていた──。
翌朝。
げっそりした表情の顔を見せたファイが二階から降りてきた。すでに陽は真上に昇っている。
「あ~~う~~」
『おはようございますファイさん。』
「おはようございます。お客様がいらっしゃったんで、お店開けたんですけど足大丈夫ですか?」
「おはよーファイ」
ぴょんとモコナがファイの頭の上に乗る。それがトドメだったようでふら〜とカウンターにぐったりと倒れ込んでしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
「なんか頭の中で鳴ってるー」
「ファイ二日酔いだー」
『昨日そんなにお酒飲んだんですか?…はいお水。』
##NAME1##がコップに水を入れて渡す。ファイはよろよろとカウンターに手をついて起き上がり、コップを受け取る。
「##NAME1##ちゃんありがとー。二人は平気ー?」
『私はお酒、飲んでませんので。』
「はい!今日は寝坊せずに起きられました!」
「……。」
これはお酒に強い、と言えるのだろうか。
いつも以上にキラキラした笑顔で答えるサクラにファイは眩しそうに目を細め、##NAME1##は苦笑した。
「そういえばー、“ワンココンビ”はー?」
ファイが訪ねた小狼と黒鋼の行き先。
小狼はファイと同じく頭を抱えながら出かけて行ったが。完璧な二日酔いだ。
彼らは今、刀剣が並ぶ店に来ていた。
小狼に剣を教えるためと黒鋼の新たな刀を手に入れるために。
そして今日もたくさんの来客に慌ただしく時間が過ぎ、日が暮れ始めて行く…。
客足が途絶えたところで喫茶店「猫の目」は「閉店」の看板を出した。
残りの食器を片付けたり、テーブルを拭いたり、椅子を元の位置に戻したり。大きなお店ではないので、三人とモコナで十分に手が足りた。
ファイは二日酔いの頭の痛さも収まってきたようだが、昨晩痛めた足はまだ回復には遠く今日はあまり動かずキッチンの方での仕事を担当していた。
そのおかげがずいぶん顔色の方は良くなってきてように見える。
「ファイ、平気ー?」
『今日はお客さん多かったですしね。』
「うんー。随分ましになったよー。頭も痛くなくなってきたしー」
そこへ、カランカランとドアの開く音。
「閉店」の今、そのドアを鳴らすのは“ワンココンビ”しかいない。
「お帰りなさ──小狼君!!」
サクラが笑顔で出迎えようとした。しかし帰ってきた小狼の恰好に驚きの声をあげた。服はボロボロで、池に飛び込んだようにびしょ濡れだ。
おまけに擦り傷だらけ。
「小狼いっぱい怪我してる!」
「また鬼児に出会したー?」
「いえ。あ、着替えてきますね。」
モコナとファイが心配して声をかけるも彼は多く語らず、そそくさと二階の自室へ行ってしまう。
心配そうに小狼が入った扉を見つめるサクラに、ファイが声をかける。
「サクラちゃん、これ。」
差し出したのは小さな瓶。
「傷薬。もってってあげて。」
高麗国で春香からもらった傷薬だ。彼女の言う通りよく効く薬。国を離れる前、少しだが分けてもらったのだ。
「はい!」
サクラはそれを受け取ると、モコナと一緒に小狼を追いかけた。
『お帰りなさい、黒鋼さん。』
「おう。」
カウンターに座った黒鋼に##NAME1##が緑茶を出す。
昨夜のこともあるのでいつも通りに接する事ができるか心配だったが案外平気だったことに心の中で安堵する。
ただ、ふとした瞬間に昨夜の事を思い出して人知れず顔を赤くするシーンが接客中に何度かあったのだが。
赤くなった顔を冷ますように首を振る仕草をファイに何度か見られてたなんて##NAME1##は知らない。
「あれは、剣の訓練のせいー?」
「…酔ってたんじゃなかったのかよ。」
「あの時はまだちょっと意識あったんだー。その後は目が覚めたらベッドの上だったけどー」
あははーと笑うファイに、黒鋼は昨晩の苦労を思い出して、ムッとした。
『初日からずいぶん厳しいんですね。』
「あのガキがそう望んだからな。」
夕食を出しながら、##NAME1##がいった。
小狼のあの様子ではかなりきつい修行だったことが伺える。今頃、サクラが手当てをしているはずだ。モコナがタオルを持って行ったから、風邪をひかないように拭いているのだろう。
##NAME1##はその様子を思い浮かべた。
今まで素手で戦ってきた彼が一から剣術を習うというのはとてつもない時間が要する。
黒鋼もそれをわかっては教えている。
そう思うとやはり羨ましいという気持ちが前に出てきてしまう。##NAME1##の表情にファイは小さく笑うのだった。
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