chapitre.6
夢小説設定
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添えられた箸で料理をぱくり。
ピリッと舌にくる辛さがお酒を進ませる。
思わず、
「うまい。」
と零れた一声。
だがまさかその声を聞かれてるとは思わなくて。
『ほんとですか?よかったー。』
「――…っ!」
後ろから##NAME1##の声。
驚いた黒鋼は思わず喉を詰まらせる。
『だ、大丈夫ですか!?』
「おまっ、寝たんじゃなかったのかよ!」
声を掛けられて驚いたという事は、そこに##NAME1##がいることに気付かなかったから。
ようやく落ち着きを取り戻した黒鋼の隣へ彼女が腰を下ろす。手には何やら見慣れない道具を持っていた。
「寝るんじゃなかったのか。」
『せっかくだから私も晩酌にお付き合いさせてもらおうと思って。』
「手に持ってるそれはなんだ。」
『気にしないでください。髪紐を編もうと思って持って来たんです。』
なんだそれはと不思議そうな顔をする黒鋼に自分の結っている髪の毛の紐をほどいてみせた。
かなりぼろぼろで切れそうだから新たに作ろうとしたのだ。
これはそのための道具。組紐を編むためのものだ。
小さな円形のような形で真ん中に穴が開いていて、そこから何本もの紐が四方に出ており紐の先に重りがついている。これを左右上下と交互に重ねるように編んでいくのだ。
紐は食材の買い出しついでにファイさんにねだって購入した。
酒を一口仰ぐ黒鋼の横でカランコロンと重り同士があたって音を鳴らす。それが妙に耳に心地よい。
先ほどの騒ぎの様子を黒鋼から聞かせてもらう。
『小狼とサクラはお酒弱いだろうなとは思ったけどファイさんも意外と弱いのかな。』
「お前はどうなんだよ。」
『私ですか?んー少しくらいなら…てとこですね。そういう場も無くは無いですから…』
思い出すのは寒空の下で行われる遊戯会というなの我慢大会だ。
凍てつく風が吹きつける庭園で舞を見たり食事をしたり…
その話の内容に黒鋼は背筋が凍るような気がした。
『小狼はどうしてお玉なんか持ってたんでしょう?』
「酔って刀と間違えやがったんだよ。」
『刀…?』
はたまたどうしてそんなことを。小狼は武器なんて扱わないはずだが。
「成り行きであいつに剣を教えることになったんだ…。」
『え!?』
「…っ!なんだよ。」
『あ、いえ…。』
すみません…、小さくなる。
突然##NAME1##が声をあげるものだから思わず黒鋼も驚いた。
小狼、黒鋼さんから稽古つけてもらえるんだ…。
『いいなぁ…。』
「あぁ?」
『なんでもないです…。』
思わず出た本心。カランコロンと組紐を編む音が次第に止まる。
私も言えたらいいのにな…。稽古つけて欲しい、って。
『言えるわけないよね…。』
「さっきから何ぶつぶつ言ってやがる。」
独り言ばかり喋る##NAME1##に次第に黒鋼は痺れを切らす。
顔が不機嫌さを表していた。
『私も“男”だったらなぁ、て思って…。』
「何の話だ。」
『私も男だったら黒鋼さんに…、』
「俺に、なんだよ。」
見下ろしてくる視線。
月明りと相まって真剣な眼差しがより一層引き立つ。
所詮は私も“女”だ。それはどうしようもないことだけれど。
もし私が男だったら。
黒鋼さんに稽古つけてほしいって言えたのかな。
なんでもないです、とすこしだけ寂しそうに##NAME1##は笑う。その表情を見て何を思ったのか。それに関しては黒鋼はそれ以上何も言うことは無かった。
無いかわりに、下ろしていた彼女の横顔の髪を掬い耳にかき上げる。突然だったので思わずドキリとした。
『く、黒鋼さん…?』
つい声が裏返った。
平常心、平常心…と何度も心で唱える。
その深紅の優しい眼差しと視線がカチリと合う。
その瞬間、まるで心臓を鷲掴みされたような…、脳が痺れるような感覚に陥った。
うまく呼吸が出来ない。
息の吸い方を忘れてしまったかのよう。
「身体は…、」
『へ?』
「身体はもう平気か。」
『身体…?』
なんのこっちゃと首を傾げる。
はぁとため息を付かれた。ん?
「昨日気分が悪いっつってただろうが。」
『…あ。』
そうでした。
昨日の昼間、そんな話をしたのを思い出す。
龍脈が無いから変な感じがして気分が悪い、と。
ずっと気にかけてくれていたのか。
ようやく彼の言おうとしたことがわかる。
心配してくれているのだとわかるとくすぐったい気持ちになる。…そして嬉しいとも。
黒鋼さんに心配されるのはなんだか嬉しいな。そんなこと言うと気持ち悪いこと言うな、って怒ってしまうのだろうけど。
『まだ違和感はありますが…、少し慣れましたのでだいぶ楽ですよ。』
「そうか…。ならいい。」
ふっと口元を緩める。
その表情にもまたドキッとして。
耳に髪の毛をかけ、そのまま##NAME1##の髪をするりと掬い顔色を伺う。
その視線にだんだん耐え切れなくなってきて。
『~~。黒鋼さん、酔ってます?』
「あぁ?酔ってねぇよ。」
『いや、絶対酔ってますって。』
「酔ってねぇ。」
なんだこれは拷問か。
ただ髪の毛を触れられているだけなのにどうしてこんなにも心臓がドキドキするのだろう。
『今日の黒鋼さんはなんだか意地悪だ。』
「なんだそりゃ。」
へっとまた彼が笑う。
よくわからない雰囲気に耐え切れなくなってすくっと立ち上がる。
お。と黒鋼が##NAME1##を見上げた。
『私もう寝ます!おやすみなさい!』
「お、おう。なに怒ってんだ。」
『別に怒ってません!』
いや明らかに怒ってるだろうが、と思ったが言わないでおこうと胸にしまう黒鋼だった。
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