chapitre.6
夢小説設定
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「わー、可愛いお店ー。
ここがお家なんて、素敵ですね“ちっこいわんこ”さん。」
「え、いや、あの…」
「旨そうな匂いだな」
「チョコケーキの試作なんですー。開店は明日からなんですけど、良かったら食べてみてもらえませんかー?」
「「よろこんで!」」
黒鋼の攻撃を器用にかわしながら、来客に試食を頼むファイ。彼が攻撃を交わすたびに黒鋼さんの眉間のシワがだんだん増えていく気がする。
チョコケーキという単語を聞いた二人は、とても嬉しそうにそう答えた。
「悪いな“おっきいワンコ”!」
「ワンコじゃねぇ!!」
完全にその名前が浸透してしまった##NAME1##達でした…。
この国にいる間はその名前で生活しなければならないのか、と思うと先が思いやられる。
ケーキを食べて美味しいと喜ぶ二人は小狼達と同業者。鬼児狩りだ。
一人はセーラー服を着ている猫依譲刃(ネコイユズリハ)という少女、もう1人は彼女の相方である志勇草薙(シユウクサナギ)と名乗る男性だ。
全然普通の名前だし。…羨ましい。
「おいしー!」
あまりの美味しさに譲刃は悶絶する。
「桜都国には来たばかりなんですね」
「はい、昨日」
とサクラ。
「着いた夜、いきなり鬼児とかいうのに家宅侵入されて大変だったよー。
そういえば、市役所の子が鬼児の事説明してくれた時に言ってたんだけど、『段階』ってなにかなぁー?」
『段階?』
「鬼児の強さはイが一番上で、ロ・ハ・ニ・ホ・ヘ・トと下がっていくんです。それをさらに五段階に分けていて。
例えば、ホの一段階だとホのランクで一番強い鬼児。ホの五段階だとホのランクで一番弱い鬼児って事ですね」
「という事は、一番強いのは“イの一”」
と小狼。
「そう!鬼児狩りの皆、そのイの一段階の鬼児を倒す為に日々頑張ってるんです!」
「って事はー、昨日うちに来たハの五段階っての中間よりちょい上くらいー?」
「そりゃ妙だな。家に侵入できる鬼児はロの段階以上だぜ。」
草薙がポツリとこぼした台詞を小狼は聞き逃さなかった。
『――!』
譲刃の側にいた犬と同じタイミングで##NAME1##も不穏な気配を感じ取る。
「鬼児が近くに出たみたい!」
鬼児が近くにいる分かると、二人は急いでイスから立ち上がる。
「いくらだ?」
「今日はサービスで。また来て色々教えて欲しいなー」
「おう。是非寄らせてもらうよ」
そう言い残し草薙は店から出て行く。譲刃も『またね』とサクラにお別れを言って彼の後を追いかけて行った。
「もう常連さん候補出来ちゃったねぇ“おっきいワンコ”」
「……。」
ファイのわざとらしいからかいにスラリ…と刀を抜く黒鋼だった。
鬼ごっこ二回戦が始まる。
その夜――。
サクラは小狼の部屋にお邪魔していた。
ファイ直伝のチョコレートという飲み物をもって。
彼のベッドには桜都国のガイドブックや地図が広がっていた。それを見たサクラは申し訳なさそうな顔をする。
すべては自分の記憶の羽根を取り戻すためにしてくれていることだとすぐにわかったから。
『どうしたの…?』
開けっ放しの小狼の部屋の入り口で身を隠すように立つファイと黒鋼を通りかかった##NAME1##が見つける。
ファイは##NAME1##に向かって口元に人差し指でしー、仕草をした。
中からサクラの声がする。
二人に習って##NAME1##も身隠し、気配を消した。
「わたしと小狼君っていつ会ったの?
もしかして、小さい頃から知ってて、すごく大切な人なんじゃ…!」
パキン――…!
「姫!!」
何かが壊れるような音がした。
ぐらり…と倒れるサクラを小狼は慌てて抱える。
その目はどこか虚ろで。
「……今…、何のお話してたのかな…」
ここにきてまた“これ”を目にする時が来るとは思いもしなかった。
「そう…、ごめんなさいって言いたくて…」
その様子をただ静かに見守る。
「何だ、今のは」
「…対価っていうのは、そんなに甘くないってことだよ。」
黒鋼の問いにファイが答える。
##NAME1##はなにも言えなかった。
自分も、同じだから…。
「誰かがサクラちゃんと小狼君の間にあった事を彼女に教えても、サクラちゃんの中でその情報はすぐに消去されてしまう。
サクラちゃんが自分で思い出そうとしても同じだね。」
『……。』
「小狼君は分かってたのかもね、こうなるって。羽根を探してサクラちゃんが記憶を取り戻して、小狼君との関係に疑問を持っても、差し出した対価は戻らないって」
「だからガキは姫に言わなかったのか。以前、自分と姫がどういう関係だったのか」
「それでも“やる”って決めた事は“やる”んでしょう、彼は。」
すうっと小狼の腕の中で眠りながらもさくらは呟く。
「いつか…、羽根が全部戻ったら…、小狼君の事も思い出せるよね、きっと…」
意識が遠のく彼女の頭を、小狼は優しく触れる。
「その想い出におれがいなくても、必ず羽根は取り戻します」
「今回は泣かねぇんだな。」
黒鋼の視線の先は##NAME1##。
泣いてはいなかったが、手をぎゅっと握りしめていた。
『泣きません。小狼が泣いていないのに私が泣くわけにはいきませんから…。』
そう言って笑ったが、どこかぎこちなくて。
「(泣いてねぇがいまにも泣きそうじゃねぇか。)」
やれやれ、と黒鋼はわしゃわしゃを彼女の頭を撫でた。元気を出せ、と言わんばかりに――。
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