chapitre.5
夢小説設定
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重苦しい雰囲気が町全体を覆う。
前回感じたものとは明らかに違う、こちらをじっと見つめる視線。
町に入った途端、バタン。と閉じられていくドア、窓。
「歓迎されてないって感じがビシバシするねぇ」
『……。』
この町の雰囲気が昔、セイが暮らしていた領地の町の雰囲気と似ていて少し気が重くなる。
たまたま通りかかった家の前に女の子がいたので小狼はこんにちは、と声をかける。
「聞きたいことがあるんだ。この町の…」
「外に出ちゃダメって言ったでしょ!」
話を聞く間もなく、母親に家の中に連れ戻されていった。
唖然となる小狼。
「これはやっぱりあの酒場で聞いた話のせいかなぁ」
『きっと…。これじゃあ伝説を確認しようがないね。』
バタンと虚しく閉じたドアを見ていると、これほどの拒絶に少し悲しくなる。
「せめて金髪の姫がいたという城の場所だけでも教えてもらえるといいんですが…」
と小狼。
でも聞く相手もいないしなぁ、と思っていると突然向こうから何人もの足音が聞こえていた。
物騒な雰囲気がする。
手には武器。ただ、人を殺めるものというよりどちらかというと猟銃のような狩りに使うようなものだ。それらを手にした大人達が小狼達の前に立ち塞がる。
慌てて駆け付けたのか、ずいぶん息を切らしている様子が伺える。セイ達が町に入ったのを見て誰かが知らせたのだろう。
「おまえ達何者だ!?」
武装した若い男性集団に四方を囲まれたこの状態。一気に緊迫した空気に包まれた。
素直に旅行者だと言っても納得はしてくれなそうだ。
そんな時小狼の口が開く。
「旅をしながら各地の古い伝説や建物を調べてるんです。」
――?
小狼があまりにも堂々と言うもんだから、え、そうだっけ。とつい自分も思ってしまった。
「そんなもの調べてどうする!」
「本を書いているんです。」
「本?」
「はい」
小狼のどこまでも冷静な対応に驚いたのは町の人達だけでなく一行も同じだった。
「おまえみたいな子供が!?」
「いえ、あの人が。」
小狼は手のひらでファイを指す。
ファイも小狼のアドリブという名の芝居にさらっと対応する。
「そうなんですー。で、その子が俺の妹でー」
とサクラを。
「その子が助手でー」
いかにも真面目な小狼。
「そっちの子が助手の姉でー」
『ん?』
私か?
なぜか小狼の姉設定にされたセイ。
反論はしなかったが首を傾げてしまった。
そして最後に、
「で、こっちが使用人。」
「誰が使用人――――がっ!?」
突然の衝撃に言葉がつまる。
犯人はモコナだ。
町の人達から見つからないように黒鋼の服の中に隠れていたモコナが何かしたようだ。
その時だった。
「やめなさい!!」
――!?
その場に現れたのは、長い髪を一つに結んだ、眼鏡をした、物腰柔らかで優しそうな男性で。彼らはその人を「先生」と呼んだ。
「旅の人にいきなり銃を向けるなんて!」
「しかし今の大変な時期に余所者は…!!」
「余所から来た方だからこそ無礼は許されません!」
街の人たちを一喝し、先生は小狼達に優しい笑みを向けた。
「ようこそ“スピリット”へ」
警戒する町の男達を説き伏せ、先生と呼ばれる人の案内で小狼達は彼の診療所兼宿泊施設へと招かれた。
「先ほどは失礼しました。私はこの町の医師、カイル=ロンダートと申します」
「ありがとうございます。泊めていただいて」
「気にしないで下さい。ここは元は宿屋だったので部屋は余っていますから」
元宿泊施設である診療所をぐるりと見渡す。
入院するほどの患者は誰もいないのかと少し安堵した。
だがいくら小さな町とはいえ、町の診療をカイル先生一人で切り盛りしているのかと思うと大変だなぁとセイは思った。
すると突然診療所のドアがバン!と開く。入ってきたのは先ほどの人達の中にはいなかった人だった。
「どういうことだ先生!こんな時に素性の知れない奴らを引き入れるなんて正気か!」
一息つく暇もなくやってきた二人の男性。
一人はロングコートをなびかせた杖をついた貴族のような男性で、もう一人は大人しそうな初老の男性。
知った顔なのかカイル先生は冷静になるよう訴える。
「落ち着いてグロサムさん」
「これが落ち着いていられるか!町長!!まだ誰も見つかっておらんと言うのに!」
「だからこそです」
興奮した男性、グロサムさんとは反対に、カイル先生は静かな声で彼をなだめた。
「この方たちは各地で伝説や伝承を調べてらっしゃるとか。今回の件、何か手掛かりになることをご存知かもしれません。」
「どこの馬の骨とも分からん奴が何を知ってると言うんだ!」
「この地で暮らす者では分からないことを。」
「…っ。」
冷静に返すカイルになおもグロサムさんは「これ以上何かあった後では遅いんだぞ!」と最後まで怒鳴り、出ていった。
「と……とにかくその人たちを、夜、外に出さんようにな、先生!」
町長と呼ばれた老人も後を追うように退室していくのを小狼達はぽかんとした様子で見守った。
グロサムとは何者だろうか…。
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