chapitre.3
夢小説設定
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一歩踏み出した瞬間。
びたーん。
「「……。」」
『ち、力が…、』
大人二人の前で思い切り倒れ込むセイ。
秘妖が言ったとおり、相当派手に暴れたようだ。
やれやれ、と黒鋼は痛くないセイの右腕を掴んで背中に背負った。
「黒様やっさしー。」
「うるせ。おい、掴んでろ」
『す、すみません。お手数をおかけします。』
「体力なくなっちゃうほどの大技使ったの?秘妖さん言ってたよー。」
セイを背負った黒鋼の隣を歩きながらファイが尋ねる。
下の階にいたオレたちにも聞こえてきたからねーと。
セイは大技を使えるのは日に二回が限界だと説明する。その二回目も体力がほぼゼロになってしまうのでそれを使うのも賭けだと。
「まだまだ未熟だな。体力使い果たしちまったら意味ねぇだろ。」
『う。おっしゃる通りです。でも…』
「でも?」
『あいつが私の事を“小娘”って呼んだんです。それが無性に腹立って。ついムキになって大技を使ってました。』
「えー黒たんもたまにそう呼んでるよねー?それはいいんだー?」
『黒鋼さんはいいんです。私より強いですから。…失礼極まりないのは確かですが。』
「…。」
「ふーん。」
にやにやした笑みをファイは黒鋼に向けるのだった。
『私をそんな風に呼んでいいのはあとにも先にも黒鋼さんだけです。きっと。』
「いやー微笑ましいねぇー。黒たんっ。」
「うるせぇ!てめぇも気色わるいこというな!落とすぞ!」
「わー黒様照れてるーっ」
誰が照れてる!と黒鋼はセイを背負ったままファイを追いかけ始める。
ちょ、脱臼したところに響きますって。
ファイを追いかけながらも黒鋼の耳が少し赤かったのを誰も気づくことはなかった。
逃げるファイを黒鋼が追いかけながら、ようやく最上階に着く。
途中他にも敵が出てくるかと思ったが拍子抜け。誰とも出会うことはなく。結局あの秘妖とセイが倒したバカ息子だけしか出てこなかった。
しかしセイ達が最上階にたどり着いた時、そこは大勢の町の人で溢れ返っていた。
いつの間にか城にやってきていた春香とサクラを先頭に、町人達が武器を手に領主を睨みつけている。
「あれー?なんだか人いっぱい?」
『春香とサクラもいる?』
「三人共遅ーい!セイどうしたの!?怪我したの!?」
セイ達に気づいたモコナがまっさきに黒鋼に頭突きをかます。それを黒鋼はうるせ!と振りほどく。
『ちょっと疲れただけだから大丈夫だよ。』
セイは肩に乗るモコナに安心させようする。
領主に迫る小狼。
衣服はボロボロとなり、あちこちに傷を負いながらも、領主を剣呑な眼差しで見据えていた。
「…羽根を返せ。それは、サクラ姫のものだ。…返せ。」
「ま…待て!これを使えば、春香の母親を生き返らせられるかもしれん!わ、わしを傷つけたり殺したりすれば、それも出来なくなるぞ!この強大な力を使えば、きっと母親は…!」
春香の中で何かが外れるような気がした。
俯いていた顔を上げ、目一杯に涙を溜めて。
「お前が殺したんだろう!この町を守ろうとした母さんを!それに母さん言ってた!どんな力を使っても、失った命は戻らないって!!」
泣き叫ぶ春香。
隣にいたサクラが抱きしめる。
「どんなに私が会いたくても、もう母さんには会えないんだ!!それなのに、そんなたわごと!」
「……。春香」
「――…っ!」
小狼が春香に静かに問いかける。
「…仇を打ちたいか。」
「……っ。」
「それで気が済むならいい。けれど春香が手をかける価値のある男か?」
サクラの羽根を使い、
前領主を追い出し、
春香の母親を殺め、
蓮姫の民を苦しめ続けた…この男を…。
ぐっと涙をこらえる。
本当は今すぐにでも八つ裂きにしてしまいたい。
でもそれではだめなんだと、消えそうな理性が語りかける。
「こんな奴、…殴る手がもったいない!」
春香の覚悟に小狼はふっと笑い領主に詰め寄った。
「く…来るなー!」
自分よりはるかに年下の小狼に怯え、
情けなく腰を抜かし、後ずさる領主。
少し前まで町を支配する、恐れられていた人物とは思えないほどだ。
するとそこへ。
領主の背後から空間が裂け、そこから先ほどの秘妖が現れ、領主を連れ去ろうとする。
思わず止めようとする小狼だったがファイが信用して大丈夫だよーといったのでそのまま任せることに。
「よくもこの私をこんな城に閉じ込めてくれたな。この領主(ゲス)は私が預かろう。……ゆっくり礼をせねばならん。」
「いやだー!やめろぉお!」
無駄な抵抗を繰り返し、泣き喚く領主に怪しげな笑みを向ける。
そして秘妖は次に春香に視線を向けた。
「春香とやらはおまえか。」
「…そうだ。」
「お前の母親は良い秘術師だった。」
そういった秘妖はすこしだけ寂しそうな顔を見せた。
「この領主の卑劣な罠によって亡きものとなったが、私との戦いで己を磨き、おまえが成長してそんな己以上の秘術師になることを楽しみにしていると言っていた。」
秘妖は春香に微笑む。
「強くなれ、私と秘術で競えるほどにな。」
「…なる、絶対に!」
春香の答えに満足そうに頷き、秘妖は自分の背後に渦を出現させた。
「ではまたな、可愛い虫けらども」
秘妖とともに、渦の中に領主とバカ息子が吸い込まれていく。
最後に聞こえたのは、領主の怯えきった悲鳴だった。
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