chapitre.3
夢小説設定
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異次元を通る空間の抜けた先。
人が集まる風景が見えた。
瞬間。
ドサッ!
思い切り落ちた。
しかし強かに打ち付けた割に痛くない。周囲に野菜のようなものが散乱しているのが見える。これがクッション代わりになってくれたのだろうか。
「あぁ?次はどこだ?」
すぐそばで黒鋼の声がする。
人々の衣装や町の雰囲気、それだけを伺うとセイの故郷の市場のそれと似ていると思った。
しかし、飛び交っていたのは人々の活気の声ではなく怒号と悲鳴だった。
棒を持った集団が、何も持っていない人たちを追いかけ回しているのが見える。
なにやらよくない状況の最中のようだ。
「わー、なんだか見られてるみたいー」
「てへっ!モコナ、注目のまとー!」
ファイの言う通り、一行の周りにいる集団は持った得物をそのままに、驚いた表情でこちらを見ていた。
背に生えていた羽をしゅるんと消し、モコナはセイの頭の上に着地、嬉しそうに笑う。
そんなモコナに黒鋼さんは「妙な所に落としやがって」と言わんばかりに顔をしかめた。
「なんだこいつら!どこから出てきやがった!!」
武装した集団をかき分けて、一際体格の良い男が前に出てきた。
男が、近くにいたサクラの細腕を強引に掴み上げる。
刹那――。
ガッ!
男の横っ面に小狼の足蹴りが炸裂する。
巨体が大きく弧を描いて、吹っ飛んだ。
「お」
「あ」
「わ!」
『わぁお』
一連の流れを見ていた四人は、各々の反応を示す。
……自分以外が、少し楽しそうにしているのは何故だろうか。
小狼て時々、やっぱり過激だなと思う。そしてその小狼の行動を誰一人咎めず、称賛する辺この一行もなかなか過激である。小狼は相手の顔を蹴り飛ばしてなお、迷いのない顔でサクラ姫の前に立ち、鼻血を流しながら立ち上がる吹っ飛んだ相手の次の行動を警戒していた。
「おまえ!誰を足蹴にしたと思ってるんだ!?」
顔を赤く染め上げて怒鳴り散らす男を、小狼はサクラを庇いながら睨み返す。
わらわらと周りに得物を持った手下と思われる男たちが集まってきた。
ひと悶着の気配に、後ろの大人たちは口角を上げながらも警戒を高める。セイもそっとクナイに手を伸ばした。
ぴりぴりと一触即発の空気が場を包む。
「やめろ!!」
―――!!
降ってきた制止の声。その声を辿って屋根の上を見上げた。
『女の、子…?』
きっちりと纏め上げられた艶やかな黒髪。黒曜の瞳の目尻をつり上げて男を睨むのは、自分や小狼、サクラよりもさらに小柄な幼い少女だった。
屋根に片足を乗せ腕組する姿はなんとも勇ましいことこの上ない。
「誰かれ構わずちょっかいだすな!このバカ息子!!」
「春香(チュニャン)!」
大の男相手に啖呵を切る少女に、男は青筋を立てながら憎々しげに名前を呼ぶ。
あの勇ましい少女の名は春香(チュニャン)、というらしい。
「誰がバカ息子だ!!」
「お前以外にバカがいるか?」
「この……!」
「失礼な!!」
「高麗国の蓮姫を治める領主様のご子息だぞ!」
怒りに拳を震わせる男の後ろで、棒を構えた取り巻き達が口々に春香を非難する。
ふん、と春香はそれを軽く鼻で笑った。
「領主といっても、一年前まではただの流れの秘術師だったろう。」
「親父をばかにするかーっ!」
男は顔をさらに怒りで染めた。
「領主に逆らったらどうなるか分かってるんだろうな春香!!」
唾を飛ばし、己よりずっと小さな女の子を罵る男。男の言葉に、少女は下唇を噛み締める。
「この無礼の報いを受けるぞ!覚悟しろよ!!」
そう捨て台詞を吐いた男は、ぞろぞろと取り巻きを率いてその場から立ち去った。
嵐のように去っていく集団を横に、小狼はようやく庇っていたサクラを振り向いた。
「怪我は?」
「大丈夫です。ありがとう」
告げられたのは感謝の言葉と、微かな微笑み。
それでも彼の記憶の中の彼女ではないのだろう。
笑みを返す少年の顔は、どこか辛そうに見える。
「やー、なんか到着早々派手だったねー」
「っつか、なんだありゃ」
「小狼すごーい!跳び蹴りー!」
『……。』
国…、領主…、逆らう…、
今のやり取りでだいたいの状況は把握できた。
この町はセイがいた国と似ているようだ。
ただ、同じではないのは確かだが。
さっき少女が秘術師と言った。シン国では錬丹術をそのような言い方はしない。
物思いにふけっていたが、足元に散乱した野菜達にあ、となる。
「すみません!売り物なのに…」
一行が落ちてきた場所にあった木箱。いくつか壊れてしまった木片の他、中に入っていた果物や野菜の類が地面に散乱してしまっているのだ。
壊れた木箱はセイが直し、その中へ小狼達が落とした野菜達をどんどん回収していく。
頭を下げる小狼に露天の店主らしき人物は、なんともないというように笑ってくれた。
率先して品物を拾い上げる少年を合図に、周囲の人たちも散らばった品物を集め始めた。
「モコナもお手伝いするーー!」
「ほらー、黒ぴんも拾ってー」
「あー?めんどくせーなー!」
ぴょんぴょんと跳ねながら小狼の元に移動するモコナとサクラもぽーと船を漕ぎながらも、一つずつ手に取っていく。ファイに促され、めんどくさいと不満を漏らしながら黒鋼も手を動かした。
「あいつら、また市場で好き勝手して…!」
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