chapitre.2
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シン国では“錬丹術”
砂漠を挟んで西方の国
アメストリス国では“錬金術”
そう呼ばれている――。
『錬金術のことは私も詳しくないのですが、地殻運動のエネルギーを使うと書で読んだことがあります。地震とかあと、火山の噴火とか。』
「では錬丹術が使うエネルギーは?」
小狼が興味深々に尋ねる。
『はい。私達は“龍脈”と呼んでいます。正しくは山の頂から噴出し大地へと潜り、土地を潤していく力で、大地の中を流れる力の河…といえば伝わるかな?』
「なるほど…。」
「同じ錬金術だろう。なぜそんなに違いが出来る。」
『お国柄…ですかね。シン国は医療に特化したものです。ですが隣、アメストリス国は軍事転用が目立ちますね。』
錬金術に関してはセイもわからないことがまだ多いので、いつかは行ってみたいと思う。
ざっくりと錬丹術の話をしていると正義君がここです、と一軒の店の前で止まった。
“風月”と書かれた看板。
そこからなんとも魅力的な香が漂ってくる。
席を小狼・正義君・セイ、
向かいにファイと黒鋼で座る。
目の前でじゅーっといい音を立てて焼かれているのは“おこのみやき”というらしい。
シンにもこういったものはなかったので初めて見る料理だ。
「これって…、」
「僕、ここのお好み焼きが一番すきだから…!」
「“おこのみやき”ていうんだこれー。」
『はじめて見る料理ですね!興味深いです!』
なにより香りが食欲をそそられる。
黒鋼さんも興味があるのかじーと見つめたままだ。意外と子供…?
「お好み焼きは阪神共和国の主食だし、知らないってことは外国から来たんですか?」
「んー外といえば外かなぁー。」
正義君の問いに正直に異世界から来ましたーなんて言えるはずもないのでファイがそれっぽく濁してくれた。
『そ、そういえばさっきの人達、いつもあそこで暴れたりするの?』
「あれは…、ナワバリ争いなんです。チームを組んで自分達の巧断の強さを競ってるんです。」
「―で、強いほうが場所の権利を得る、と。」
とファイ。
「でもあんな人が多い場所で戦ったら他の人に迷惑が…」
「そうだねぇ、現に正義君危なかったもんねぇ」
「あれは僕がどんくさいからですっ」
『でも平気で建物壊すし、私はどうかと思うけどなぁ』
「セイちゃんそういうの許せないタイプだもんねぇー」
「でもあの、悪いチームもあるんですけど、いいチームもあるんです!
自分のナワバリで不良が暴れないように見回ってくれたり、悪いヤツがいたらやっつけてくれたり!」
特にさっきのゴーグルをかけたチームは人気らしく、彼も憧れの人なんだとか。
急にスイッチが入ったのか、さっきとは別人なくらい熱の籠った言葉に呆然とするセイ達(黒鋼は除く)にあっけに見られていたことに気づき、一気に熱が冷めたのか、す、すいませんと席に着く正義君。
「憧れの人なんだねー」
「は、はい!」
赤面しながら着席した正義に、ファイはにこやかに返す。吃りながらも肯定する隣の少年の顔は、まだやや高揚していた。
「でも、小狼君にも憧れます」
「え?」
「特級の巧断が憑いているなんて、すごいことだから」
『特級って?』
昨日の空汰さんの話にそういった単語は無かった気がする。
「さっきのゴーグルチームのリーダーもそんなこと言ってたねぇ」
首をかしげる小狼とセイ。
ファイは笙悟の言っていた言葉を思い出し頷いていた。
黒鋼は以前、お好み焼きに夢中だ。
「巧断の『等級』です。」
巧断には強さによって五つの位に分かれるのだと正義君が言う。
四級が一番下で、三級、二級、一級と上がっていく。そして、その一番上に座するのが特級なのだとか。
「巧断の等級付け制度はずっと昔に国によって廃止されてるんですけど、やっぱり今も一般の人達は使ってます」
「じゃあ、あのリーダーの巧断ってすごい強いんだー」
「はい。…小狼君もそうです。強い巧断、特に特級の巧断は本当に心が強い人にしか憑かないんです。
巧断は自分の心で操るもの。強い巧断を自由自在な操れるのは、強い証拠だから…」
『なるほどねぇ、それなら納得かな。』
「僕のは……一番下の四級だから」
「正義君…」
唇を噛みしめる正義。
どう言葉をかけたものか。小狼は名前を呼ぶことしかできなかった。
「でも、いったいいつ小狼君に巧断が憑いたんだろうねぇ」
『そうですね。私達昨日来たばかりなのに…』
正義君を気遣ってか、ごく自然に話題を変えたのはファイ。
「…そういえば、昨日の夜夢を見たんです」
小狼はそれに乗っかるように昨日自分が見たと言う夢の話を始めた。
夢、と言われてそういえば私も見たような気がする。
『(わすれちゃった…。)』
巧断の話や、夢の話そっちのけでお好み焼きに手を出そうとするのは黒鋼さん、その人。
が、しかし…、
「待ったーー!」
突然聞こえてきた制止の声。
驚き、一同は動きを止めた。
店の奥から二人の店員が近づいてくる。
その顔に一番親しみがあるのは小狼だ。
信じられないくらいびっくりしている。
「お…、王様!と神官様!どうしてここに!?」
困惑した様子の小狼。なんたって昨日会ったのだから驚くのも無理はない。
小狼の言葉に、王様呼ばわりされた桃矢は眉をひそめた。
のちにこの阪神共和国での彼のあだ名として定着してしまうのは後日談である。
「…誰かと間違ってませんか?
俺はオウサマなんて名前じゃないですけど。
…お客さん、こっちでひっくり返しますんでそのままお待ち下さい。」
「お、おう!」
黒鋼は黒鋼で大きな声で待った!と叫ばれたことにびっくりしたようだ。
「王様って前いた国の?」
「はい…。」
「で、隣の人が神官様かー」
ファイと小狼の会話を耳だけで聞く。
セイの目はずっと先ほどの二人の青年を追いかけていた。
私もいつか出会うのだろうか。
元いた世界の誰かに――…。
「次元の魔女が言ってたとおりだねぇ。
“知っている人、前の世界で会った人が別の世界では全く違った人生を送っている”って」
「…なら、あの二人はガキの国の王と神官と同じってことか」
ここで黒鋼が初めて会話に参加した。
どうやら話だけは聞いていたみたいだ。
お好み焼きから気が反れたのだろうか?
「んー、同じだけど同じじゃない、かなぁ。
小狼君の国にいた二人とは全く別の人生をここで歩んでるんだから」
頭に疑問符を飛ばす正義を置き去りにして、二人の話は続く。
「でも言うなれば。『根源』は同じ、かなぁ」
「根源?」
ファイの言葉にようやくセイは青年達から目を離した。
腕を組み眉間にしわを寄せる忍に、魔術師は指で心を模る。
「命のおおもとー。性質とかー、心とか」
「『魂』ってことか」
『なるほど…。』
そういう言い方ならわかりやすい。
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