ACT.09
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『今思えば…あの頃は、くだらない理由でケンカ三昧の日々で…。ケンカをする度に、誰かを傷つける度に…カラッポになった心が痛みと悲しみで埋まっていくのを、私はやめられなかった…。』
傷つけて、傷つけられて──
なんでもいいから…。
カラッポな心が私を虚しくさせる。
その穴の開いた心には誰がいた?──
『父も母も…アーシェも、──あなたまでもいなくなってしまった事がとても悲しくて…、1人残されようで、』
…まるで誰も居なくなった現実から逃げるように、夜の道へ迷い込んだ…。
そんなくだらない日々を重ねて、いつしか2年の時が過ぎてしまった。
『そんな時にあなたに会ったんです、』
「……。」
バッシュはアルフィナの言葉に心静かに耳を傾けた。
彼女の苦悩がひしひしと伝わってくる。
『私が12の時に会わなくなってから、…5年ぶりに会った小父様はあの頃から何一つ変わってなくて…』
くすり、と笑みが零れる。嬉しくて…、
『国を想う気持ちもアーシェを大切に想う心も…。そんな小父様の姿勢が私の道標になったんです』
それは暗闇の世界に光が生まれた瞬間だった。
「私は…、投獄されたあの日から1日たりともダルマスカを想わなかった日はなかった」
容赦ない拷問に耐える時も、有無を言わせない尋問の時も脳裏に思い浮かべたのはいつもダルマスカの事だった。
先の見えない投獄生活にも、いつか終わりが来ることを信じて耐え抜いた。故に今、こうしてダルマスカ復興の為に戦う事が出来るのである。
「礼を言うのは私の方だ。あの時、君らが私の元へ現れなかったら、おそらく今も私は…」
きっと投獄生活を余儀なくされていただろう。これも運という名の偶然か、…それとも必然か…──。
『い、いえ、そんな…。お礼を言われる程じゃ…』
お礼を言うつもりが逆に言われてしまい、しどろもどろになる。
わかりやすい性格にバッシュはまたくっく、と笑うのだった。
『あの…、謝りたいことも…あるんです』
「…謝る?」
至極言いにくそう視線をさまよわせる仕草に、つい心当たりを探すが当然思い当たる節などなく。片眉を上げた。
『その…、う、疑ってしまった事…』
「疑った?、何の事だ?」
『小父様が…国を裏切ったって…』
あぁ…、そのことか。
ようやくアルフィナが言う“謝りたい”事がわかった。
アルフィナが言った“国を裏切った”というセリフの中には暗にバッシュが“陛下を殺害した”という事が含まれている。
ただ、直線言葉にするにはやはり気が引けたので遠回しにそういう。
たったそれだけで理解してくれたバッシュに感謝した。
『小父様がそんな事するような人じゃないって、わかってたのに、私…』
「気にするな。あの時の君の境遇を考えれば、それも仕方のない事だ」
『でも…、』
大きく顔を上げる。そこには、優しい目で見つめるバッシュがいた。その大きな手のひらで頭を撫でれば、アルフィナは大人しくなってしまう。
「今は信じてくれてるのだろう?」
アルフィナはコクンと頷いた。
その優しい目が父・スコールと重なって見え、胸が締め付けられる思いだった。
頷いたアルフィナに、ならそれだけでいい。とバッシュは目蓋を閉じる。その表情はまるで過ぎた過去は気にしない、と言っているようだった。
会話をしている内に、暖まった身体と脳が眠気を訴えてきた。うとうとし始めたアルフィナにバッシュは「もう寝なさい」と言う。
それに小さく頷いたアルフィナはゆっくりと立ち上がろうとした。
…が、眠気にフラついた足がガクンと崩れ落ちる。
「─っ!」
地面との衝突を避けようとバッシュはすぐさまアルフィナを抱き留める。ドサリと腕の中に落ちたアルフィナはすでに目蓋が閉じる寸前で、いつもなら飛び起きて必死に謝るだろうのに、今は眠気が勝るのか半分寝かかっていた。
「…まいったな」
呟いた独り言は虚しく砂漠の夜に消える。
見張りの交代まで、まだ時間はある。容易にここを動くわけにもいかないだろうし…。
…まいったな。
バッシュは心の中でまた呟くのだった。
すると、寝たと思っていたアルフィナは微かに目蓋を上げ、身じろいだ。膝枕状態でさらに温もりを求めるかのように。
寝言かそうじゃないかは分からないが、小さな声でアルフィナは言った。
『小父様の…名誉は…私が…取り戻して、みせます…、』
「──!」
その言葉は最近の出来事の中で一番驚いた。
『どんな手を…使ってでも…、…必ず…。…小父様は…私が……──』
それが今の私に出来る精一杯の償いです。…疑ったりしてごめんなさい。あなたは私が…
『──守ります…』
“ごめんなさい…──”
.