盲目の錬金術師
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「うん。だからここにいるのが本当のロザリーだから。私はこの家の本当の子供にはなれないの…。」
「エミ…、」
「でもエミに戻ったらまた孤児院の暗い片隅で木の棒だけをおもちゃに過ごさなきゃならない。」
孤児院の暗い片隅でいつか現れるであろう本当の家族になってくれる人を待つか、偽りの家族を演じながら裕福な暮らしを手にするか。幼い少女が選ぶ選択はきっと決まっているのだろう。
そんな2人の会話を遠めから見ていたエドワードとサヤ。なかなかの内容に心境は複雑である。
すると背後から人の気配がした。
「やはり入りましたね。」
『「――!!」』
つい会話を聞き入ってしまっていたので夫人が来ていたことに気が付くのが遅れたのだ。
『あ、あの…っ、』
「……。」
言いつけを破った2人に叱るかと思った。しかし夫人から出た言葉は違った。
「亡くなった主人の言葉は守らねばなりません。…でも、あなた方には“これ”を見て欲しかったんです。」
『だからわざと行くな、なんていったのですか。』
「…はい。」
忘れもしないあの悲劇を。
血の涙を流すジュドウを。
錬成陣の中央で横たわる愛する娘・ロザリー。
しかし幼い少女はとうていロザリーと呼べる姿ではなかった。
「奥様っ…、旦那、様…っ、ロザリーお嬢様は…!何も、見えない…っ、教えてください!私の理論は完璧でしたか!?お嬢様、は!」
「ぅ…っ」
「ジュドウっ、」
両の目を失ってまで行ってくれた錬成に彼は失敗したなどと言えなかった。
…だから嘘をついた。
「安心しなさいジュドウ。娘は我々の元へ帰って来た。元の姿のまま。」
「…っ、ロザリーお嬢様…!」
*
『ジュドウさんってどんな人?』
「ジュドウ様は先代から当家に仕える錬金術師です。研究者と出資者。最初はそれだけの関係だったのですがいつしか本当の家族のようになりました。…それゆえに1人娘のロザリー様がお亡くなりになった時の奥様の落胆ぶりを見ていられなかったのでしょう。」
『だから、人体錬成をしたの…。』
「はい。ジュドウ様本人もロザリー様を取り戻したかったのでしょう。奥様もロザリー様も彼にとっては“家族”なのですから。」
「…執事さん、あなたも…、」
アルフォンスの気づかいに執事はただ笑うだけ。
それは門の前にいた警備員も同じ。
「我々使用人全員、彼をだましているのですよ。…そしてこれからもだまし続けるでしょう。それでみんながいつも通りならそれでいいのです。」
『本当に…、』
それでいいの?と言えなかった。
必要な嘘もあるのだと、この家を見ていると納得も出来たかもしれない。…でも、ならどうしてこんなにも後味が悪いのだろうか。
「さぁ、お部屋に戻りましょう“ロザリーお嬢様”」
「うん。…バイバイ。」
そして彼女もまただまし続ける。
本当の自分を隠して。
“ロザリーお嬢様”を演じ続けるのだ。
『(いつか…、本当の自分に戻れる日がくるのだろうか…、)』
必ずしもそれが彼女の幸せとは限らない。
本当の自分に戻ることで何かを失うかもしれない。
その時がきたらあの子はどちらを選ぶだろうか…。
『(やめよう…。私には関係のないことだ…。)』
サヤは考えていた思考を振り払うように頭を振った。
「バイバイ、ロザリー。」
「……。」
ゆっくりと門が閉じられていく。
こうして嘘で塗り固められた屋敷を3人は出て行った――……。
「みんな、良い人だね…。」
『うん…。だけど…、』
「だけど、みんな…救われねぇ…。」
なんだろうな…。
この心が晴れない感じは…。
「あーあ。なんだかなぁ…。」
「あてが外れたって感じ…?」
『仕方ないさ…。帰ろうか。』
「そうだな。…帰って飯でも食いに行こうぜ。サヤ、お前も付き合えよ。」
『奢ってくれるなら。』
「~~っ、しゃあねぇな。」
夕暮れ。
来た時と同じように3人はまた歩いた。
報告書、なんて書こうかな…。
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