盲目の錬金術師
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ロザリー。
話題になっている本人はアルフォンスと共に屋敷の廊下を駆け回っていた。
「私が人体錬成を行ってもう3年になります。見ての通り元気に育ってますよ。」
『……。』
「やっぱ可能なんだ!」
「エドワードさんは失敗してしまったのですか。」
「!…。う、うん。…母親を取り戻そうとして…。」
対価は払ったものの、成功したという人が目の前にいることにエドワードの気持ちが一気に上がるが、ジュドウの問いにそれはまた沈んでしまう。
「連れの鎧…さっきも言ったけどあれ、俺の弟なんだ。」
「魂を錬成したという。」
「…うん。だからっ、あいつだけでももとに戻したいんだっ。頼む!人体錬成の方法を教えてくれ!」
ジュドウは顔を俯かせる。
何も言えない彼に代わって夫人が答えた。
「それは出来ない相談です。」
「どうして!?」
「ジュドウは当家に仕える錬金術師。よって彼の力はこの家の為だけに使われるものです。外部の者に秘術を教えるわけにはまいりません。」
「…そんな…、」
目の見えないジュドウにもはっきりと伝わるエドワードの落胆ぶり。彼も申し訳なさそうにしていた。
「諦めてください。これは亡くなった主人の言葉なのです。」
ダメ元でジュドウに目線を送るが、主の意向であるならば従うのが道理。
「主の意向ですから…。こればかりは…。」
『仕方ない、ですね…。』
「……。」
「力になれなくて申し訳ない。それにこれではあのときの錬成陣を書いてお見せすることも出来ませんし…。」
これ、といって彼は視力を無くした両目を指さした。
酷い傷跡が3年経った今でもくっきりと残っている。まるで彼への戒めのよう。そのおかげでジュドウは一度も錬成に成功したロザリーを見ることが出来ない。それはこの先、一生だ。
「あなた方が元の身体に戻れるよう祈っています。」
その言葉を最後に会話は終わりを告げた…。
用も済んだので、屋敷を出ると伝えると夫人が付き添って案内してくれた。東屋にジュドウを1人残して夫人とエドワード、サヤは桟橋を渡る。
「あのさ…、」
「…ダメです。」
『「(まだ何も言ってないのに…)」』
2人の心境がシンクロする。
そんなエドワード達をよそに夫人が歩く足を止めた。つられて足を止める。
「エドワードさん、人体錬成なんておやめなさい…。」
夫人は振り返らずにエドワードにそういった。
彼女はどんな顔でそのような事を言ったのか。
「―!弟を元の身体に戻すと決めたんだ!だからジュドウさんにもう一度…っ」
「聞いても無駄です。」
『何故ですか?』
「無駄な事なんてない!現に成功してるじゃ…っ!」
「無駄なのです。」
「――っ!」
ずっと背を向けたままの夫人がようやく振り返った時、何とも言えない表情にエドワードは二の句を継ぐことが出来なかった。
彼女の顔は、悲しみと切なさとそして、憐れみを含んだ…そんな顔だった。
とても娘が生き返って幸せに満ち溢れている、そんな顔には見えなかった。
夫人の様子に諦めが付いたのかついに折れた。
「…わかったよ。アル連れて帰るわ。行くぞサヤ。」
『あ、うん。…失礼しました。』
軽く会釈し、辺りを見回すエドワードの後を追った。どうやら付近にはいなさそうだ。
「ロザリーと遊んでいらしたのでは…、」
「勝手に探すわ。いいだろ?」
「かまいません。…ですが、2階の奥の部屋だけは入らないように。亡くなった主人の思い出の部屋ですから…。」
『わかりました。』
「……、へいへい。」
*
「“奥の部屋だけは入らないように”っと。」
『あれじゃ“どうぞお入りください”といってるようなもんじゃない。』
「はい、そうですかーなんて言ってられるか。」
気持ち上着のフードをかぶってはみたが色がすでに派手なので忍んでも意味がないような気もするが。
2人してコソコソと2階への階段を上る。
踊り場に顔を覗かせると、突き当りの廊下でアルフォンスがロザリーに手を引かれ歩いてるのが見えた。
『今のロザリーとアルフォンス?』
「…。アルのやつ、どこいくんだ?」
『行ってみようっ』
アルフォンスの足音はすぐわかる。
ついて行くことは簡単だった。
ついた先はおそらく夫人が入らないようにと忠告した部屋だろう。
開かれた扉の陰から中の様子を伺った。
「ここは天国よ!」
天蓋の隙間から中にいるロザリーとアルフォンスの様子が見える。飾られたたくさんの花とぬいぐるみ。その中に椅子があり、そこに腰かけるなにか。
それはジュドウが人体錬成をして蘇ったであろうロザリー。では、今アルフォンスと話している彼女は一体誰なのか。
「私は孤児院から連れて来られた偽物。本当の名前はエミっていうの。」
「い、生きてるの…?」
「生きてると言えるのかどうかはわからない。もうずっとロザリーはこのままよ。でもこの身体の中にいるのが本当にロザリーかどうかは誰にもわからない。もしかすると彼女ではない“何か”がいるのかもしれない。」
「…本物、だよ…。」
アルフォンスはそれしか言えなかった…。
違うと、否定することはきっと今の自分の存在をも否定することになる気がした。それは兄・エドワードすらも否定することと同じことだ。
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