砂礫の大地
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『私は一度屋敷へ戻る。あの兄弟に会ってくるよ。』
「うん、わかった。またね。」
『うん、また。ベルシオさんお世話になりました。』
「あぁ。」
軽く会釈して、サヤはベルシオの家を出た。屋敷に向かう為街中を歩いていると後ろからサヤ、と声をかけられた。
聞き慣れた声ではなく、誰だろうと後ろを振り返った。
声をかけたのは偽物のエドワードの方だった。
エドワードと呼ぶのも違和感があるし、かといって彼の本当の名を知らない。
『えっと…、』
「ラッセルだ。」
ここは屋敷でもないし、周りに誰もいなかったので彼は本当の名を名乗った。
『ラッセル。…どうしたんだこんなとこで。』
「弟と一緒に気分転換さ。」
『そう。』
それだけいうとサヤはまた屋敷に向かって歩き出す。ラッセルはつれないな、と思いながら付き添うように彼女の隣を歩いた。
「あんた昨日、屋敷に泊まらなかったのか?」
『…ベルシオさんのところに泊めてもらったんだ。』
「へぇ、あの兄弟も一緒に?」
『あぁ。』
さも当然のように隣を歩く彼にサヤはだんだん苛立ちを募らせていった。
無性に腹が立ってだんだん歩調を早めるが、それすらも顔色ひとつ変えずに余裕な表情でついてくるものだからなお腹が立つ。
『なんでついてくる。』
「なんでって僕も屋敷で世話になってるんだから屋敷に行くのは当然だろ?」
『だとしても、もうすこし離れて歩いてくれないか?』
なんせ距離が近い。
今にも肩と肩が触れそう。
これじゃまるで恋人同士の距離間だ。
恥ずかしいというよりも、無性にイライラする。
馴れ馴れしい、というか。
「君はエルリック兄弟と仲がいいんだろ?これくらい当然じゃないか。」
『~~、エドワードはそんなことしないっ!』
「そうなのか?」
すかした様子のラッセルにさらに腹が立った。
エドワードじゃないけれど、殴りたくなる気持ちがものすごいわかった気がした。
昨日の冷静な態度とは一変した様子の彼女にラッセルは思わず肩を揺らせて笑った。
彼女はなんというか、ついからかいたくなるようなそんな気持ちにさせる。
「なぁ、ひとつ聞かせてくれ。」
『なんだ。』
ぶっきらぼうに彼女は返す。
「どうして僕達兄弟の事、偽物だって言わないんだ?」
『……。』
ピタリと足を止める。
サヤはまっすぐな目でラッセルを見つめた。
『あなた達兄弟にどういう事情があるかは知らないけれど、なんであれ私が口を挟むことではないからだ。…あなた達とあの兄弟の問題だから。…心配しなくても偽物だなんて言いふらしたりしない。』
「……。」
彼らの“事情”――。
知りたかったはずなのに、いざ聞くとラッセルは難しそうな顔を見せた。
どこか辛そうで、苦しそうに。
ラッセルはそれっきりなにも話す事なくだまって研究室へと戻ってしまった。
サヤはなにか気に障ることを言ってしまったか、と思いながら遠のくラッセルの背中をじっと見ていた…。
…その夜、再びエドワード達は屋敷へ侵入を試みていた。
その頃サヤは研究室で赤い水の書籍を読んでいた。
赤い水を凝縮させて石にする。しかしそれは賢者の石とは言えるほどの力は無さそうだ。
しかし興味深い内容である。
研究書を没頭して読んでいた時だった。
ラッセルの弟・フレッチャーが慌てた様子で研究室に戻ってきたのだ。
何事だろうか。
「早くこっち!」
「待って!」
『この声…、』
フレッチャーに続いて慌てて入ってきたのは気を失ったエドワードを抱えたアルフォンスだった。
2人が入ってすぐフレッチャーは研究室のドアのカギを閉めた。
ぐったりした様子のエドワード。
アルフォンスが必死に呼びかける。
『アルフォンス!どうしたんだ!?エドワードは!?』
「わからないんだっ。赤い水の場所に出た途端、気を失って…。」
「あの赤い水は人間にはすごい毒なんだ…。」
『赤い水の臭気を吸ったのか…、』
アルフォンスがエドワードを鎧の身体の膝に横たわらせる。小柄な彼は大きい鎧姿のアルフォンスにすっぽり収まってしまう。
「うっ…、」
「あ、兄さんっ、しっかり!」
しばらくしてエドワードに意識が戻ったのか、目が開いた。
焦点が合わない目で辺りを見回す。
顔を覗き込むアルフォンスのほかにサヤと、そしてフレッチャーが目に入る。
そこでエドワードの脳が覚醒した。
「なんでお前がここに!?」
「ひ…っ、ご、ごめんなさいっ!」
あまりの剣幕にフレッチャーの目に涙が浮かぶ。
まさかの反応にエドワードも尻込みしてしまった。
『エドワード、具合はどうだ?』
「あ、あぁ。しかしなんだったんだ。」
「フレッチャー…、なにか知ってるなら話してよ。ほんとは君だってこんなことしてるの嫌なんでしょ?」
アルフォンスが優しい声でフレッチャーに問うた。
エドワードは2人が顔見知りになっていたのを知らなかったようで交互に顔を見る。
フレッチャーは恐る恐る口を開いた。
「あの赤い水は人間にはとっても危険な水なんだ。…でも赤い石を作るにはどうしても必要で…、」
「まさか街の人が咳をしてるのってそのせいなの?」
『赤い水の成分が街にしみ出してるってこと?』
「…ごめん…、ごめんよぉ…、」
罪悪感に押しつぶされそうなのだろう。
涙が止まらないフレッチャーにサヤはそっと肩を支えた。
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