砂礫の大地
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目的の人物は意外とすぐ見つかった。
屋敷の塀の向こうで弟に身を預け、横になっていたのだ。
やれやれ相変わらずせわしないこと。
『こんなとこにいたのか。』
「「――!?」」
聞き覚えのある声に驚く2人。
いやまさかあいつがこんなとこにいるわけない、と思うも振り返るとそこにはやっぱり脳裏に浮かんだ人物がいた。
「サヤっ!」
「なんでお前がここにっ、」
『それはこっちの台詞だ。“偽物”が現れたなんていうから来てみれば、だな。相変わらず騒ぎを起こすんだな。』
やれやれと肩をすくめるサヤ。
よく見るとエドワードの頬には思いっきり殴られた跡がくっきりと残っていた。
嫌味を言われ拗ねたのか、もう一度アルフォンスの膝に腫れた頬を当てるように横たわる。
アルフォンスの冷たい鎧が腫れた頬を気持ちよく冷やしてくれるんだと。
「お前こそ何やってんだよ。こんなとこで。」
『まぁ、調査、かな。』
「それって賢者の石のこと?」
『―!聞いたのか。』
うん、とアルフォンスが頷く。
どうやら2人はサヤが到着した一本後の汽車でたまたまこのゼノタイムに来たらしい。
着いた途端、たまたま錬金術を披露し、名を聞かれたのでエドワード・エルリックだ、と名乗るとなぜか“偽物”扱いされたので“本物”がいるというこのマグワールの屋敷に侵入し返り討ちに合い、まんまと追い出された、というのだ。
「ちっくしょー。おもいっきり殴りやがってー…、」
『兄貴の方はずいぶん背が高かったな。』
「うるせぇ!ちっこい言うな!」
「2人に会ったの?」
『あぁ。研究室に行ったからな。』
「会ったんならなんとか言えよ!そいつらのこと“偽物”だって。」
『それは私がすることじゃないだろう。2人の問題だ。有名人なら誰しも起こりうることなんだから。』
「う゛…、ちくしょー…。」
屋敷にいるのが偽物だと知っておきながらサヤは彼らになにも言わなかった。
それは当人同士の問題だからだ。
サヤが彼らを偽物だと言ったところで誰も信じないだろうし、そもそも街の人にとって些細なことかもしれない。
この街の人達は賢者の石が完成することを心待ちにしているのだ。
そうすればまた金が作れる。金が作れればまた街に富があふれ、豊かになる。
その期待を胸に今を生きているのだ。
『賢者の石の研究、かぁ。』
本当にあんな水なんかで完成するのだろうか。
ぼんやり考えていると背後から誰かがやってきた。
黒髪でくせ毛の男性だ。
誰だろう…。
「あんた夕方、店にいた…、」
「泊るところがないならうちに来い。」
「え…、」
それだけ言って男性は背を向け歩き出す。
顔を見合わせた3人はとりあえず後を追った。
男性の家は街からすこし離れた場所にあった。
農家を営んでいるようで家の周りから柑橘系の爽やかな香りがした。
「すみません。助かります。」
アルフォンスが礼儀正しくお辞儀するが、それに男性もといベルシオが平然と返す。
「子供を野宿させるわけにはいかん。」
ベルシオは水一杯の桶とタオルを貸してくれた。
エドワードの腫れた頬を冷やすためにと用意してくれたのだ。
しかしエドワードにはその親切がいまは信じられないようでじっとベルシオを見ていた。
街の人は揃ってエルリック兄弟だと名乗った2人を偽物と突っぱね、店から追い出したのだ。
誰も彼らの事を信じてないのだ。
「…聞かないんすか、俺らの事。」
「エルリック兄弟、なんだろ?」
「じゃあ信じてくれるんですねっ?」
思わずアルフォンスが期待のこもった目でベルシオを見る。しかし彼からの返事はNOだった。
その答えにアルフォンスは肩を落とす。
「ただ、人にはそれぞれ事情があると思ってな。責任を負うのは俺じゃない。お前達だ。」
『あなたは賢者の石に興味ないみたいですね。』
「この街の連中はいまだに金がもたらした富が忘れられず、マグワールに振り回されているんだ…。」
『…。』
早く目が覚めればいいのに、と思っているんだろうか…。
夜が明けていく…。
「おはよーベルシオのおじさん!」
「うちへ来りしたらまた親父に叱られるぞ。」
「平気平気!」
朝から元気よくやってきたのはエリサだ。
父親に行くなと何度も言われるが、少女は気にせずこうしてベルシオのもとを訪ねるのだ。
『おはようございます。』
「あ、お姉ちゃん!屋敷に行ったんじゃなかったの?」
『おはようエリサ。そのつもりだったんだけど、夜出歩いてたらベルシオさんが泊めてくれて、』
「そーなんだ。」
「おはようございます。」
サヤに続いて、アルフォンスとまだ眠そうなエドワードもキッチンへやってきた。
「お兄ちゃんたちここにいたんだ。あー、痛そう…、嘘なんかつくからバチがあたったのねー。」
彼の腫れた頬をみてエリサは笑う。
エドワードは気まずそうに頬を手で隠した。
「嘘ついてんのは俺らじゃねぇっての。なのにぼかすか殴りやがって…っ」
「まさか昨日マグワール様のお屋敷に忍び込んだのってお兄ちゃん達!?」
「ったりめぇだろっ、偽物のさばらせてちゃいかねぇからな!だいたい賢者の石で金を作ろうなんざろくなもんじゃねぇ!」
「兄さんっ」
「―!」
アルフォンスに注意されてようやく彼はエリサを見た。
その顔はとても悲しそうなをしていた。
ばつが悪いエドワードはごまかすように街の様子を見てくると言って、1人ベルシオの家を出て行った。
「兄さん!」
「おい、そこのでかいのっ。」
「―はいっ!」
呼んだのはベルシオ。
アルフォンスは振り返る。
「お前、薬屋に行って来てくれないか。エリサの薬も取って来てもらいたいし、…兄貴の湿布薬もいるだろう?」
「あ、はぁ…。」
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