砂礫の大地
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道の脇の木の影から、黒いドレスを纏った女性が音もなく現れた。
黒い髪が月明りに照らされて女性をさらに妖艶に引き立たせる。
『こんなとこまで呼び出しておいて何の用?』
「うふふ…、悪いわね。もうすぐここも引き上げようかと思ってたんだけど意外としぶといから面倒になっちゃって…」
『放棄するの?ラスト。』
“ラスト”と呼ばれた女性は、サヤの問いに妖しげに微笑んだ。
「ついてきて。」
『どこへ?』
その問いに答えることなくラストは背を向け、屋敷の裏側へと続く林の中を歩きはじめた。
無言で案内されたのは地下。
そこは光も通さない暗闇。狭く通路のような場所でほんのりを明かりを放つのは見覚えのあるものと同じ色をした水だった。
『これは…、』
こもった声が小さく聞こえた。
いくらホムンクルスといえど、ベースは人間のサヤにはこの水が放つ臭気が毒だとラストにいわれたので渡されたマスクを装備していた。
「赤い水よ。」
『赤い水…?』
「賢者の石のもとになる水、とも言えるかしら。」
『賢者の石っ、これが…!?』
「えぇ。ずいぶん前に中央(セントラル)で研究してたのだけど、いまいち成果がなくて第一人者のトリンガムという男も失踪したから放棄しようと思ってたんだけど…、」
『それがどうしてここに?』
「この屋敷のマグワールという人が研究の続きをさせてほしいと持ち掛けてきたものだから情報を与えて続きをやらせてたの…。」
『うまく、いってないのか…?』
ラストは笑って肩をすくめた。
うまくいってない、ということか。
「しばらくしたら私はリオールへ戻るけど、その後の事はあなたに任せるわ。完成したならそれでいいし、」
『しなかったら?』
「消して構わないわ…。」
“消す”ということがどういう意味か。
それを聞いた途端サヤの顔から表情が消えた。
2人で会話をしていると、誰かが降りてきたのか足音が聞こえてきた。
この場所を知る者は少ない。
ラストは恐らくあの人だろう、といった。
「おぉ。いらしてたのですか。…そちらの方は?」
「心配いらないわ。私の“仲間”よ。」
「そ、そうでしたか。」
この人物が屋敷の主・マグワールだ。
彼は日に何度か、この場所へ赴いてこの赤い水の水源を見に来るそうだ。
「それよりもぼーっとしてていいの?“偽物”が現れたそうじゃない。」
『“偽物”…?』
数刻前、屋敷に侵入者が現れたと騒ぎがあったそうだ。
この屋敷に研究のため滞在している“エルリック兄弟”が追い払った、というそうだが…。
「え、えぇご安心を。エルリック兄弟が追い払いましたのでっ。」
「どうかしらね…。“あの”坊や達こそ、とんでもない曲者かもしれないし…。」
「え…っ、」
「…まぁいいわ。こうなった以上“あれ”の研究が軍部に知れ渡るのも時間の問題だし、そろそろあんたには手を引いてもらおうかしらね…。…マグワール。」
「そうおっしゃらずにあと少しっ。もう少しだけ時間をくださいっ。“賢者の石”は必ず完成させてみせますっ。」
突き放す態度のラストにマグワールは跪いて時間を乞う。これを見越して彼女はあえて焦らすように仕向けているのだ。
「急いでよ。どんな手使ってもいいから…。なにかあればそこにいる彼女に伝えて。」
「彼女は一体…。」
赤い水が湧き出る噴水の傍でたたずむサヤをマグワールは心配そうに見る。
「言ったでしょう?私たちの“仲間”だって。ああ見えて国家錬金術師だから私みたいに突然現れることもないわ。しばらくこの街に滞在してもらうから…、」
ラストの言葉はずっと監視しているから、とマグワールを脅しているよう。
彼の額に汗が滲んだ。
『漆黒の錬金術師、サヤ・グレイスよ。初めましてマグワールさん。それとよろしくお願いしますね…?』
「こ、こちらこそ…、」
有無を言わせぬ彼女の凍てついた雰囲気にマグワールはごくりと喉を鳴らした。
その様子を見たラストはクスリと小さく微笑むと、暗闇に消えるように姿を消した。
その場にサヤとマグワールだけを残して…
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