第31話
夢小説設定
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「約束…、」
『ん?』
ぽつりと零れた一言。
「北のアスベックでの約束を覚えているか…、」
『あ、うん。』
緊張が声色に現れる。
北のスラム、アスベックという村で2人は約束をした。
その時の事を思い出したのか、言った本人も緊張してきて。
どきどきと鼓動が早くなるのがわかる。
「この戦いが終われば、ともにイシュヴァールへ行かないか、といったな。」
『うん、言った。』
「今もその気持ちに変わりはないのか?」
『ない。』
きっぱりと言い切る彼女にそうか、となにか考え込むように言う。
躊躇いか、迷いか、復讐心が占めるのか。
「ずっと考えていた…。己れに何ができるかをずっと…」
『うん。』
「己れなんかが、そんな風に生きていていいのかと…」
『……。』
サヤ自身もその気持ちはわからなくもない。
だから彼の気持ちもよく分かる。
ものすごく悩んで、己と葛藤して。
そうしたいと思う自分と、そうしていいのかと引き留める自分が心の中にいるのだ。
『すごく悩んで、決められなかった時は私も一緒に悩むよ。』
「サヤ…、」
『一緒に悩んで、あなたが納得できる道を見つけられるように私も悩むから。それで見つけた答えがイシュヴァールじゃなくても構わない。』
だから、それまでの間だけでも。
少しでも長く共にいたいと望むのはわがままだろうか。
『以前バスクールの鉱山の町で、マイルズ少佐に言ってたの、覚えてる?』
「…?」
『自分はイシュヴァールの内乱で生まれた膿だ、と。膿は膿らしく神にも救われずドブに消えるのが似合いだろう…、と。』
彼が自分の事をそんな風にいったのが、サヤはたまらなく悲しかった。
自分をそんな風に傷つけないで欲しかったのだ。
『知ってる?捨てる神あれば拾う神あり、って。』
「……。お前が神だとでもいうのか…」
『そうは言わないけど…。今すごくまじめな話してたのに…、』
「茶化したのはそっちだろう…。」
『私はいたってまじめよ。』
ほんとだろうか、疑いたくもなる。
小さく笑い合う。
ほんの少しだけ心が軽くなった気がした。
たしかに彼女に救われたのかもしれない。
それを悪い気もしないと思う自分がいて。
「約束しよう…。ともにイシュヴァールへ行くと、」
『…!、ほんと?』
「あぁ。」
みるみるうちにサヤの表情が嬉しそうにほころんでいくがわかる。いまにも飛び跳ねてしまいそうな勢いだ。
『嬉しい!、約束だからねっ』
「”イシュヴァールの血”にかけて、な。」
『うん!私、頑張るからっ』
「…!」
それはいままで見たことのないくらいの眩しいくらい嬉しそうな笑顔だった。
胸に刺さるような彼女のその笑顔はきっとこの先も忘れることはないだろう。
ふとスカーはいままで疑問に思っていたことを聞いてみた。
なぜそこまでイシュヴァールにこだわるのかと。
スカーの質問にサヤの表情が一変する。
『…昔ね、この国に来たばかりの頃…、自分の命と引き換えに私に薬をくれた子がいたの。』
「…。」
その時のことを思い返すように語り始めた。
その子もイシュヴァール人だった。
自分と同じ年頃で。
体の弱い子だった。本当は毎日飲むことが出来れば完治できる病気なのだが、スラムで暮らすその家族にそんな財力なんてなく。
3日に一回薬を手に入れられたら奇跡だった。
そんな時、私がスラムに流れてきた。
長旅で弱り果てていた私に、その子が自分の
ための薬を私に与えてくれたのだ。
当然私は回復したが、その子はみるみるうちに
弱り、次の薬が手に入った時にはもうすでにその薬では回復できないほどに弱り果てて、結局そのまま…。
『…亡くなったの。息を引き取る直前に私に気にしないで、と言ってた。どのみち長くはない命だと悟ってたみたい。だったら生きる可能性のある私に薬を譲ってくれた。』
「……。」
『でもその時の私は、感謝なんて気にする余裕なくて…。後になって、そのスラムへもう一度行ったけどその子の両親の姿はなかった。周りの人に聞いても知らないうちにいなくなっていたと、亡くなったのか、他所へ移ったのか…』
結局会えずにいる。
いつかまた逢えたらいいな、と。
『もし逢えたなら、謝罪と感謝を伝えたい…。』
「…、そうか…。会えると、いいな。」
『うん。』
すこしだけ悲しそうにサヤがほほ笑んだのだった。
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