05話
夢小説設定
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落ち着きを取り戻し、かつ誤解も解けた所で、サヤ達はドクターの家にお邪魔していた。
中央にいた時の心境を辛そうに語るドクター。その苦痛の表情から肉体的にも精神的にも崖っぷちまで追いやられていた事が伺える。
無理もない。ドクターがいた機関の研究はサヤが知る限りでもろくでもないものとでしか到底思えない。しかし機関の連中はそれを人類の進歩だ、と犯罪紛いの行為に正当性を覆い被せていた。
まるで一種の宗教団体のようだった。神だの仏だのとは言わなかったが、…否、あれはまるで自分達が神かのような振る舞い方だった。自分達は偉いのだと。その為の犠牲も人類の進歩だと。
決して口にはしなかったが、サヤは機関の連中は皆地獄に堕ちてしまえ、と本気で思っていた。常々、そういった思いを込めた目を機関の連中に向けていたものだ。
「上からの命令とはいえ、あんな物の研究に手を染め…、
そして“それ”が東部内乱での大量殺戮の道具に使われたのだ…。」
本当に酷い戦いだった…。とドクターは付け足す。エドワードやアルフォンス、サヤ達が子供の頃にあった東部の内乱。どんな惨状だったかは想像もつかないが、とてつもなくひどいものだっただろうと思えるし、悲しいものであり、また多くの人の人生を狂わせた内乱だったと語った。
ドクターはその償いとして、この田舎町で医者として尽くしているのだと。そんなことをしても失った命は癒されない。そうわかっていてもドクターは何かをせずにはいられなかったのだろう。
「いったい貴方は何を研究し、何を盗み出して逃げたのですか。」
ドクターの研究は一部の人にか知られていない。少佐の耳にまでは届いていなかったのだ。
「………。
賢者の石を作っていた。私が持ち出したのは、その研究資料と石だ。」
『──…!』
「石を持ってるのか!?」
興奮気味のエドワードの問いにドクターは肯定した。そして席を立ち、医療品の棚から小さい小瓶を取り出して見せた。
小瓶の中には、“赤い液体”が入っていた…。
……え、液体?
「“石”って…、これ液体じゃ…」
見るが早いか。ドクターは小瓶の蓋を開け、テーブルの上に落として見せる。案の定、えぇ!?と驚くが、液体のように見えた賢者の石は液体ではなく、またテーブルの板目の隙間から染み落ちることもなく。
ただ…、たぽん。と一つに纏まって見せたのだ。実態は粘土よりは柔らかく、そして、スライムよりは堅そうで。
想像とは、かけ離れた賢者の石の姿にただ驚くばかりだ。
『これが…、』
…賢者の石…。初めて本物を見た…。
まるで血のように朱い賢者の石は不気味に鈍く輝いた。
ぷにぷに、とエドワードは賢者の石をつつく。
「《哲学者の石》、
《天上の石》、
《大エリクシル》、
《赤きティンクトゥラ》、
《第五実体》…、」
これらはすべて賢者の石を指す言葉。このように呼び名があるように、その形状は石であるとは限らない、とドクターは言う。
しかし、ドクターの言葉には続きがあり、この液体もどきの賢者の石は不完全品だそうで、いつ限界が来て使用不能になるかわからないものらしい。
「それでも、あの内乱の時、密やかに使用され絶大な威力を発揮したよ。」
『そ、そんな…、』
賢者の石が人殺しの道具に使われるなんて…。
そういう為にあるものではないと、信じて来ただけにショックは隠しきれない。
「不完全品とはいえ、人の手で作り出せるって事は…、この先の研究次第では完全品も夢じゃないって事だよな。」
『…エドワード?なにを…』
「マルコーさん!その持ち出しだ資料を見せてくれないか!?」
まるで暗闇に光が差し込んだかのようなエドワードの顔。それとは反面、悲痛に顔を歪めるサヤ。
これにはドクターも流石に驚きを隠せない。まだ少年とも言える、年端もいかない彼が、“悪魔の研究”とも言える賢者の石の研究資料を望んで見たいと申してきたのだから。
『エドワードっ、だめだ!だってあれは…っ』
「なんだよサヤっ、ようやく見つけた手がかりなんだぞ!」
『話を聞けっ!ドクターもあれは悪魔の研究だと言っただろう!』
「うるせっ!第一、お前には関係ねぇだろっ。」
『…っ!』
「!、 あ、…わりぃ。そういう、つもりじゃ…、」
兄さんっ。とアルフォンスに咎められ、ようやく冷静さを取り戻したエドワード。
興奮して立った席にストンと腰を下ろす。
「あれを見てどうしようというのかね。アームストロング少佐、この子はいったい…」
「国家錬金術師ですよ。」
そう聞いてドクターは悲痛な顔をする。愚かな事を…、と。
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