20話
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“耐えねばならんのだよ”
少し前、イーストシティのはずれのスラムで傷を癒していた時、再会した師父にそう言われた。
「国軍のした事を許せと言うのですか」
「勘違いするな。“耐える”と“許す”は違う。」
世の理不尽な出来事を許してはいかん
人として憤らねばならん
あの時の師父の言葉をサヤも聞いていた。
まるで自分にも言われているような気がして。
「だが、耐えねばならぬ。憎しみの連鎖は誰かが絶たねばならぬ。怒りのままに流されればそれは獣・畜生と同じ。」
たとえ世界の全てがイシュヴァール人を否定しようとも我々は《人間》なのだ
獣の道に落ちてはいけない---。
「本部に連絡しますか?」
「あぁ。」
ブリッグズ兵が作戦本部に連絡を取る間、エドとアルはずっと心配そうにウィンリィを見ていた。
そんな2人に気づいた彼女は大丈夫だとひたすら言う。
だがその表情はとても大丈夫だとは思えなくて。
「おいスカー。ウィンリィはこうだけどな、オレ達はできる事ならてめぇを殴り倒してロックベル家の墓の前に引きずり出してやりてぇよ」
エドの言葉にスカーは黙り込む。
何も言える立場でもないし、そうしろとウィンリィが言えば状況次第ではきっと彼はするだろう。
そんな時、気になっていたのかスカーは色黒の軍人マイルズ少佐に同族と言った意味を問うた。
「マイルズと言ったか。ひとつ訊いていいか」
なんだ、とマイルズ少佐は銃口をスカーに向けたまま答える。
「己れのことを“同族”と言ったな」
「そうだ。祖父の代までイシュヴァールだった。…こんな会い方はしたくなかったな。赤い目の同胞よ」
マイルズ少佐はサングラスを外す。その向こうにはスカーと同じ赤い目が。イシュヴァール人の特徴だ。
彼が言うにはイシュヴァールの血筋は薄いのだが、祖父の血が色濃く出たためこの容姿になったという。
「なぜイシュヴァールの血を引く者がアメストリス国軍に加担する」
スカーの率直な質問にみなが息を飲んだ。それは誰もが気になる質問だったからだ。
マイルズ少佐は静かにそれに答える。
「この国の内側からイシュヴァール人に対する人々の意識を変えるためだ」
『(意識を、変える……。)』
そんなこと考えもしなかった…。
「…そう易々と人の心が変わるとは思えん」
「そうだ。いつまでかかるかわからん。…だが混血の私だからこそできる事があるだろう。この身はアメストリス国軍の中に投じられたイシュヴァールの一石であろう。投じられた小さな一石の波紋はやがて大きな輪となる」
その一石で一生を投げ込む価値がある。
そう気づかせてくれたのは皮肉にもアメストリス人だ、とマイルズ少佐は語った。
一生を投げ込む価値のあるもの。
つまりはスカーが言った“生かされた意味”だ。
見つけることが出来たなら、その時は自分も少しは変わることが出来るだろうか…。
『(一生を投げ込む価値のあるもの、か…、)』
「己れはあの内乱で生まれた憎しみという名の膿だ。神に祈ることも省みる事もしない。」
スカーの言葉はなぜがサヤ自身も傷つけられたような気持ちにさせた。
スカーは自分で自分を傷つけているのだ。
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