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三國無双

貴方の好きな香り


荀彧殿の漆のような美しい黒髪が寝床に散らばる様はいつでも私の興奮をくすぐる。
彼の首元に顔を近づけ、すん、と鼻を動かせば彼が焚いた香の香りがした。

「華やかな香りだね。でもどこかで嗅いだことのあるような…」
「あ、あぁ、それはその…」

言葉をくぐもらせる荀彧殿を不思議に感じ顔を上げる。
彼の視線を逸らせて頬を紅潮させる様は愛らしいが少し寂しい。

「なにかあるのかな?良ければ私に教えてほしい。」

吐息を多く混ぜ込めた甘える声を出せば荀彧殿は観念したように此方を向く。

「…先日、郭嘉殿が女中を口説いている姿をお見掛けして…」
「……あれは挨拶だよ?」
「いえ、貴方のそういうところは理解していますので今更弁明は不要です。」
「はい…」
「続きですが、その時の言葉で女中のつけていた香の香りが好みだとおっしゃっていたのが聞こえまして…」
「!…確かにそう言った覚えがあるね。なるほど、その香り…」

もう一度顔を荀彧殿の首元に近づかせ嗅げば、確かにあの女中と同じ香りだと認識できた。

「香はどうしたんだい?」
「女中に教えてもらい、同じものを買いましたよ。」
「そう…」
「…郭嘉殿がはっきりと好みの香りと言うのが珍しくて…正直今回ばかりは嫉妬しました。」
「嫉妬だなんて…ふふ、荀彧殿はとてもかわいいね。私は荀彧殿の匂いならなんでも…」
「それです。」
「え?」
「貴方はいつも私の香りなら何でもよいとおっしゃいます。それは…とても困ります。」
「荀彧殿…」
「貴方に愛されているときは貴方の好きな香りをまとっていたいというのに…」

そう言いながら私の髪を梳く荀彧殿。
私としては本当に荀彧殿の香りならどのような香りでも好みになるというのに…
貴方はとてもいじらしい。

「あぁ、荀彧殿は私を煽るのがお上手だ…今日は貴方を寝かせてあげられそうにもないかな。」
「郭嘉殿…」

するり、と荀彧殿の頬を触り見つめあえばどちらからともなく接吻をする。
そのまま彼の頭を抱えるようにすれば、少し蒸れた汗の匂いと香の香りがこの後の甘い夜を予感させた。


しかし、女中と揃いの香、か…
それはそれで、今度は私があの女中に嫉妬してしまうかもしれないね。







薄黄金の君


郭嘉殿の髪はこの国ではとても珍しい薄黄金色。
さらりとした真っ直ぐな髪は触れば上等な絹のようで私は小さいころから彼の頭を撫でるのが好きだった。
憧れ、というのもあったかもしれない。手入れは怠りはしなかったが地味な黒髪に癖の付きやすさから寝ぐせには今でも苦労する。

「地味?荀彧殿、貴方の綺麗な髪をそう言う人なんてなかなかいないよ。」
「癖の付きやすい髪も、ふふ、朝に見ると愛らしくて私は好きだよ。」

口の上手な人。そんなことを思ってはいても郭嘉殿がそうおっしゃるならと嬉しさが募るのは惚れた弱みか。

陽に当たって煌めくように輝く貴方の髪はどの宝石よりも美しい。
寝床で落ちている髪の一本を見つけては陽に翳す度、美しさに何度もため息をついた。

「荀彧殿って真面目な顔で恥ずかしいことをするね。」
「私の髪を見つめる貴方の視線は焦がすほど熱いけれど…そんなに見つめていると流石にこちらも見てほしくなってしまうね。」

少し拗ねたような表情を見せる郭嘉殿。
大丈夫ですよ、貴方のことも愛してますから。と呟けば軽々と押し倒されて寝床に沈む。
郭嘉殿に頬を撫でられ、近づく精悍な顔を見ながら静かに目を閉じた。


「…」

目を開けて部屋の暗さに気づく。

「夢、でしたか…」

久しぶりにあの方の夢を見た。
もぞりと身体を動かし隣を見る。誰もおらず冷たい空間があるだけ。薄黄金色の髪はもう一本も落ちてはいない。

郭嘉殿が亡くなってから何年経っただろう。
もう最近は声も顔も思い出せなかった。それほど年月も経ち、周りの環境も変わった。
今の私は病を患い、床に伏せなければならないほど酷くなっていた。
自分でもわかっている。もう私は長くない。そんな状態に見た夢が愛し合った郭嘉殿のことだった。

「かくかどの」

久方ぶりに呼んだ名前。声は震えてまともに言えた気がしなかった。
ひゅるり、とどこからか入ってきた風が顔に触れる。
どこか優しさを感じる冷たさに懐かしさを感じていつの間にか涙があふれていた。

「かくかどの」

迎えに来てくれたのですか。
どうか応えてください。



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