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そっちかよ

陽がおかしかった日から数日が経ち、いよいよ明日から夏休みである。

「陽!徹夜でゲームしようぜ!」
「負けた方がアイス奢りな。」
「そんなこと言って、後で吠え面かくなよ。ぬふふ……。」

帰りのホームルームが始まるまで皆そわそわしながら夏休みの予定について話している。
夏休みのために恋人を作った奴らもいるらしいが、俺はそんなあほらしいことはしないのだ。
別に恋人ができなかった訳じゃない、あえて作らなかっただけだもんね……。

夏休みの予定と言ってもほぼ陽との遊びの予定しかない……と自分の友達の少なさに少し悲しくなっていると、大量のプリントを持った担任が教室に入ってきた。

「プリント回せー、これに宿題とか全部書いてあるから、読んどけよ。いいかお前らー、夏休みだからって浮かれてハメ外してサツの世話になんかなるなよー。あとなー、お前らも2年生だから適度に勉強しとけよ。それからーー……。」

おいおい教師のくせにそんなてきとーな感じでいいのかよ。プリントを読んだ方がマシだと思い、俺は山村の話を聞くのをやめた。

「……ーーと、言う訳で宿題配る……のはめんどいから前の机に置くから順番に1枚ずつとってけ。宿題全部取った奴から帰っていいぞー。」

それだけ言うと山村はパイプ椅子に腰掛け、クラス名簿を眺め始めた……と思ったら中で漫画を開いていた。お前は授業中にこっそりスマホを弄る学生か。

「祐介、帰ろうぜ。」
「おう!じゃあ帰って着替えたら道具持ってお前ん家な。」
「あぁ、こないだ買ったやつ、忘れんな「おぉ〜い!陽〜!祐介〜!」……あ?」

教室から出ようとした俺達に声を掛けたのは同じクラスの中里だった。

「……んだよ、なんか用かよ。」
「ひぇ……。祐介~~陽が怖い~~。」
「なんか用?俺達これから予定あるんだけど。」
「ゆ〜う〜す〜け〜も〜つ〜め〜た〜い~~~!」
「チッ……いいから早く用件言えよ。」
「うぅ……いやね、そのね?明日から夏休みじゃん?だからさぁ……3人で海行こうぜ!!!」

中里とは陽程ではないが休日に遊んだりする仲だが、まさか海に誘われるとは思わなかった。

「海かぁ……。俺は別にいいけど、陽は?」
「祐介が行くなら……。」
「じゃあ決まりな!予定はまた後で連絡するから!」
「おう、じゃあな。」

嵐のような中里が去り、俺は暫く茫然としていた。

「祐介、俺達も帰ろうぜ。」
「あ、うん。」
「早く帰らないと、時間なくなる。」

そう言って陽は時計を指さした。見ればもういつも帰る時間から30分も経っていた。

「ほんとだ!走っていこうぜ、俺の家まで競走な!負けた方はアイス奢りで〜スタート!!」
「あっ、おい!てめー!」


結果から言えば俺はボロ負けだった。負けた方はアイス奢りなんて言わなければよかった……。

「はぁ……はっ、はぁ……お、お前っ……速すぎ……なん、だよっ!」
「勝手に走り出したのはそっちだろ……。仕方ないからアイス、奢られてやるよ。」
「くっ……くそ~~!!」

一旦陽と別れ、授業以外で運動しないのに急に走ったりしたせいで激しく痛む足を引きずりながら家に入った。

「ただいまー。」
「兄ちゃんおかえり!」
「おー、圭介珍しいな。」
「今日終業式だったから早く終わったんだ!」

圭介は俺の弟だ。少し歳が離れているためか少しブラコンのけがある気がする。
圭介は平々凡々な俺とは違い整った顔立ちで、運動もでき友達も沢山いる。(頭はそんなに……皆まで言うまい。)大体いつも友達と遊んでいるため、部活をしていない俺よりも家に帰るのが遅いのだ。

「にーちゃん!遊ぼー!」
「あー、圭介ごめんな?これから陽の家に行くんだよ。」
「えっ……陽くんとこ行くの。何しに?」
「何しにって、遊びに行くだけだぞ?」
「ふーん……。」

圭介と陽は仲は悪くない筈なんだけど、陽と俺で会おうとすると圭介は何故かいつも不機嫌になる。
やっぱりブラコンだからかな……兄ちゃんを取らないで!みたいな?可愛いなぁ圭介は。
なんて思いながらニヤニヤしていると圭介に睨まれた。

「何見てんだよ!」
「いやぁ、圭介は可愛いなと思って。」
「……もういい!兄ちゃんのばーか!!!」

そう言うと圭介は2階に行ってしまった。あっれれ〜?おっかしいぞ〜?もしかしてブラコンなのは俺の方だった……!?
少し悲しくなりながらも陽の家に行く準備をし、家を出る前に圭介に声を掛けた。

「圭介〜、兄ちゃん行ってくるな。」
「……いってらっしゃい。」
「母ちゃんももうすぐ帰ってくるからいい子にしてろよ。」

渋々という感じで部屋のドアを開け出てきた圭介の頭を撫で玄関に向かう。

「にーちゃん!気を付けてね!」
「おー!」

玄関のドアを開けたところで階段の上から圭介に声を掛けられ振り向きざまに返事をする。良かった、もう機嫌は直ったらしい。


陽の家に着きインターホンを押す。陽の家は俺ん家とは違い綺麗で新しい為、ピンポーンと音だけのチャイムではなく、カメラ付きのインターホンがついているのだ。

『開いてるから入ってこいよ。』

暫くするとインターホン越しに陽の声が聞こえた。どうやら鍵はかかっていなかったらしい。

「おじゃましまーす。」
「いらっしゃい。明後日まで誰もいないから、自由にしていいぞ。」
「まじか、じゃあお言葉に甘えて……。」

陽の言葉を聞いてリビングのソファの真ん中に座る。いつもは陽の部屋で遊ぶことが多いためリビングのふかふかのソファに座れるチャンスは少ないのだ。

「ふぉ〜やっぱこのソファ最高。うちのとは全っ然違う!」
「はいはいそうですか。いいから早くゲームやろうぜ。」
「そうだった!ゲーム!」

家から持ってきた買ったばかりの対戦ゲームをゲーム機に入れ、テレビをつける。

「忘れてないとは思うが、負けた方がアイス奢りだからな。」
「分かってるっての!ふっふっふ……笑ってられるのも今のうちだ!覚悟しろよ!」

陽と俺のゲームの腕前は五分五分(と、以前陽に言ったら「百歩譲って7:3だろ。」と鼻で笑われた……馬鹿にしやがって!)だし、今回のゲームは新作のため陽も慣れていないはず。
なんて思っていたのもつかの間、あっという間に負けてしまった。

「ま、負けた……。」
「アイス1本なー。」
「なっ!?そういう制度なの!?最終的な成績で決めませんか陽さん!?」
「ふーん……別にいいけど。どうせ俺が勝つし。」

(ぐぬぬ……今に見ておれ陽め……。)

俺は全力を出す為にソファから降り、気合を入れてその後もゲームを続けたが結局俺が勝てたのは2回だけ。おまけに今は陽は終わっているのに俺はまだ半分しか終わっていないという状況だ。

「まだ終わんないのかよ。アイス食う?」
「うるせー!てかアイスあんのかよ!なんであんのに賭けに使うんだよ!」
「暑いじゃん。夏といえば、アイスだろ?」

アイスを持っていながら人にアイスを奢らせようとするとはこいつ。

ゲームが終わったところで陽がアイスを持ってきたが、手に持っていたのは所謂たまごアイスと言うやつだった。

「たまごアイスか〜普通の棒アイスないの?」
「他のアイスは全部なくなってた。これ、家だと人気ないんだよな。」
「じゃあ誰が買ってきたんだよ……。ま、いっか、1個くれ。」
「ほらよ。」

アイスを受け取り、口の所をハサミで切った時だった。アイスが溶けていたのか、中身が俺の顔面めがけて飛び出してきたのだ。

「うわわわわわ!!」
「わり、溶けてた?」

陽は俺のアイスがはじけたのを見て自分のアイスを開けるのをやめ、タオルを取りに行った。
ソファや床を汚さないように風呂場か何処かに移動したい。しかし全身がアイスまみれのため下手に動くと寧ろ汚してしまいそうで動くに動けない。
近くに拭けそうなものもないため大人しく陽が戻ってくるのを待つことにした。

「タオル持ってきたから、これで拭いて。服は脱げ。洗ってやるから。」
「ひゃい……。」

勿体ない……と思いながら口周りのアイスを少しだけ舐め、大人しく言われた通りに服を脱ぎ陽に渡す。
服の中にもアイスが垂れていて、陽にシャワー貸してと言おうと顔を上げたところで陽の様子がおかしい事に気付いた。
何故か若干前屈みなのだ。

「陽?」
「何?早く拭けよ。」
「腹でも痛いのか?」
「は、はぁ?別に痛くないし。」
「いやだってなんか前かが「うるせぇ!いいから早く拭いてシャワーしてこい!!」は、はい……。」

(こ、こえ〜、なんで陽の奴いきなりキレてんの!?)

怒鳴られた俺はそそくさとアイスを拭いたタオルだけ持って風呂場へ向かった。

急に陽がキレた理由がわからずあれこれ考えながらシャワーを浴び、そう言えば着替えどうすればいんだろと思いながら浴室のドアを開けた。
陽の家に泊まるのは初めてではないがいつもはタオル等は用意してくれている。そのためどれを使ってもいいのかも分からず固まっていると脱衣所のドアが開いた。

「これ、タオルと着が……。」

タイミングよく陽がタオルと着替えを持ってきてくれたのだ。

「あ〜ん!の○太さんのえっち〜!これで覗くの何回目よ~~!」

某猫型ロボットアニメのヒロインの真似をして陽のツッコミを待ったが、陽は俺の方を見て暫く固まった後、無言でタオルと着替えを置いてすごい勢いでドアを閉めて出て行ってしまった。
こうして俺は、またしても全裸で悲しい思いをするのであった。
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