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そっちかよ

トイレから戻ると教室に陽の姿はなかった。

(教室に戻ってるって言ったよな……?なんでいないんだ?)

携帯を見るがなんの連絡もなく、クラスメイトに聞いても見ていないと言われた。

「どうした?保健室か?」

とだけLINEで送り、自分の席についてゲームでもしようかと時計を見ると既に授業開始の5分前。教科書とノートを机の上に適当に置き陽の席を眺める。
陽は見た目は若干チャラいが意味もなく授業をサボるような奴じゃない。それに保健室に行くなら行くで教師に伝えるために誰かに言ってから行くはずだ。

(鞄はあるから早退ではないよな……。)

やはりさっきのあれが……と、色々と考えを巡らせているといつの間にか授業開始の号令がかけられていた。慌てて立ち上がり級長の声に合わせ礼をする。


結局、陽が教室に戻ってきたのは午後の授業が全て終わった後だった。
心配して送ったメッセージに返信すらしなかったことを責めてやろうと思い、帰る準備をしている陽に近付く。

「おい」

反応がない。

「陽?おい。おーい!大丈夫か!!」
「あぇっ!?ゆ、祐介!?」
「そうだよ俺だよ親友が何の連絡も寄越さずいなくなったから心配してLINEしたのに返信も貰えなかった祐介だよ!!!!」
「あー……ごめん。それは悪かった。」

陽は素直に謝ってきた。まぁ本気で怒ってる訳じゃないし、俺も昼休み申し訳ないことをしてしまった訳だし、許してやるか。
と、若干上から目線で考えながら帰る準備を始めたが、急に陽が声を上げた。

「でも元はと言えばお前が……っ!!」

元はと言えば俺が??

「俺がなんなんだよ。」
「……っ、なんでもねぇよ。」

変な奴。言いたいことがあるなら言ってくれればいいのに。そんなに浅い仲でもないんだから。
少し気まずくなりながらも、帰る方向は一緒なので2人で教室を出る。
ポツポツとくだらない会話をしながら、俺は朝の妖精とやらの話を思い出していた。信じるわけではないが某トラブル漫画の主人公の様な目に合えたらいいなぁと、少しだけ、ほんの少しだけ思ったりもしたので何も起こらなかったことに少しがっかりしていた。

(やっぱり夢だったんだな……。現実味のない話だったしな。そもそもあれは漫画の中だから許されてるけど現実で起こったら最悪捕ま……。)

そこで考えるのをやめ、様子がおかしかった陽を見る。

(現実でもイケメンなら許されたりするんだろうか……。)

許されなくてもイケメン滅べ等と思いながら陽に負の念を送っていると、ふと目が合った。

「……何見てんだよ。」
「べっつにぃ〜?なんでもありませんけどぉ?」
「はぁ〜?うざっ!こっち見んなばーか。」
「バカっていう方がバカなんだよばーか!」
「どう考えてもお前の方がバカだろ。」
「やめろよ……!急に真顔になるのやめろよ……!!」

ふざけた会話をしながら歩いていると前方に同じ学校の制服を着た女子が歩いているのを発見した。

「あれはまさか……!学年一可愛いと噂の白木さん……!?」
「誰だよ。」
「かーっ!お前白木さんを知らないとは!まじか!」

知らないなどと宣う陽に、白木さんについて説明してやろう(と言っても名前とクラスと可愛いということしか知らないが)と口を開いた。次の瞬間急に強い風が吹き俺はピンと来た。

(もしかして白木さんのスカートが……!?)

なんだかんだ妖精もどきの言うことを忘れきれなかった俺は瞬きもせず白木さんのスカートを見つめた。
しかし待てど暮らせど、白木さんのスカートがめくれることはなかった。気付けばさっきまで吹いていたはずの風もいつの間にかやんでいる。

「なんでだよっ!!!!今ほどのチャンスはないだろ!!!」
「お前まじキモいよ……?」

どうやら陽にすべて見られていたようだ。口元を抑えながらよよよとよろける様なフリをしている陽を小突く。
そのまま暫くふざけながら歩いていると、俺の家まであと数百メートルというところで突然雨が降り出した。

「うわっ!雨降ってきた!陽、傘持ってる?」
「持ってねぇ……。とりあえずお前ん家まで走るぞ!」
「天気予報じゃ雨降らねーって言ってたじゃん!!」

強くなる雨にさらされながら、天気予報のお姉さんへの文句を言いつつ家まで走る。陽の家まではまだしばらく歩かなければいけないため、俺の家に避難することにした。

「うわー、びしょ濡れじゃん……。陽、俺着替えとか用意しとくし先にシャワーすれば?」
「まじで?わりーな、じゃー先行くわ。」
「おー。」

勝手知ったるという感じで風呂場に向かった陽を見送った後、とりあえず着替えだけ済ませ、新品のパンツと自分の服の中では大きめのものを脱衣所のかごに入れた。
暇なので特に見たい訳でもないテレビをつけ、ボーッとしていると20分もしない内に陽が戻ってきた。

「服、明日洗って返すから。」
「おう。じゃ、俺もシャワーしてくるわ。」

陽と交代に俺は濡れた制服を持って風呂場に向かった。制服をしぼってハンガーにかけ、ふと下を見ると自分のものではない制服が置いてある。

(陽のやつ制服忘れてるし…しょうがない、干しといてやるか。)

同じ様に陽の制服もハンガーにかけ、やっと入れる……と思いながら服を脱ぎ、全て脱ぎ終えたところで突然脱衣所のドアが開いた。

「悪い、制服忘れて、た……。」
「干しといたぜ!お礼?お礼なんていいさ。まぁ〜陽がどうしてもって言うなら……っておい!」

陽は入ってきたと思ったら俺を見るなり目を見開いて出ていってしまった。陽が居なくなったことにより、俺は1人でドヤ顔をしながら全裸で手を腰に当て偉そうにしている奴になってしまった。悲し過ぎる……。

「なんだよ変なやつ……。」


シャワーを終え頭を拭くのもそこそこに、陽に文句のひとつでも言ってやろうとリビングに向かったが、どうも陽の様子がおかしい。ブツブツと何かを呟きながら頭をテーブルにぶつけているのだ。

「俺は………じゃない……俺は…………じゃない………」
「よ、陽さん?大丈夫です?」
「俺は…………ってうわっ!な、なななんだよ!?」
「いや、なんだよはこっちのセリフ…てか頭赤くなってんぞ?」

何故かはわからないが壁にぶつけていた陽の額は、真っ赤になっていた。

「お前大丈夫か?色んな意味で……。」
「はっ、お前に言われたら終わりだな。」
「なんだとう!お前の制服を干してやったのはこの祐介くんなのだよ!感謝したまえ!」
「……っ、大体お前が……!いや、やっぱなんでもねぇ。」

俺?そういえば帰る前も同じ様な事を言われた気がする。もしかして、俺知らない間に陽になにかしてしまったのだろうか。

「雨も弱くなってきたし今の内に帰るわ。」
「じゃあ制服取ってきてやるよ。」
「あぁ……さんきゅ。」

制服を畳んで適当な袋に入れて陽に渡した。

「じゃあな。」
「おー。明日な。」

小さくなっていく陽の背中を見ながら俺は、今日一日陽がおかしかった原因について考えていた。
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