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そっちかよ

朝目が覚めたらそこには…


妖精がいた。


「ってんな訳あるか!!!なんだこれ!?!?」
「まぁまぁ落ち着いて。僕は妖精のベケス。藤村祐介(ふじわら ゆうすけ)君だよね。君にラッキースケベの魔法をかけるために来たんだ!」
「しゃ、喋った…。」

目の前にいる動いてしゃべる手のひらサイズの物体は俺の理解の範疇を超えていた。そいつが喋ったことで、高校生にもなって妖精なんていうものを信
じてる訳もなく玩具かなんかだろと思っていた俺は、驚きを隠せず口を金魚のようにパクパクさせて目を見開いた。

「あわわわわ…ど、どうしようなんだこれ誰か…」
「落ち着いてってば!僕は君にラッキースケベの魔法をかけに来たの!それ以外は何もしないよ!」
「ま、まずラッキースケベの魔法てなんだよ…そんな明らかにおかしいもんかけられたくないし…」
「んー、簡単に説明すると、某漫画みたいに転んだら目の前におっぱいが!とか、あ〜んなところやこ〜んなところに顔を突っ込んだりにゃんにゃんごろごろって感じだよ!」
「う、胡散臭い…」

そんなことが起こるのは漫画やアニメの中での話であって、ここは現実だ。そんなあっはんうっふんでいや〜んえっちなことがありえる訳…と思いつつも俺の脳内はピンク色の妄想でいっぱいになっていた。

「信じてくれたかな?」

妖精は俺の脳内を見透かしたかの様に問いかけてきた。その一言ではっと我にかえる。

「……つーかラッキースケベ云々の前にあんたが妖精で魔法を使えるっつー話が信じられないし。」
「えぇ!?困ったなぁ…どうやったら信じてもらえる?」
「いやいやいやどうやっても信じないから。現実的に考えてありえないから。」
「そう言われると僕も困るんだよ…そうだ、魔法がかかれば信じてくれるよね!僕がこれから魔法をかけるからラッキースケベが起きたら僕のこと信じてね………」
「は!?何すっ…うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

ドサッ

「ぅべっ!!!」

ベッドから落ちた。周りを見渡してもさっきの自称妖精は見当たらない。

「夢…か?」

さっきのラッキースケベ云々はすべて夢だったのだろうか、それにしてはいやにリアルな…とそこまで考えて、俺はふと時計を見た。

「っ!やべぇ!!学校!!!」

妖精だの魔法だののことを頭の隅に追いやって俺はドタバタと学校に向かうための準備を始めたのだった。

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「はよ、今日遅かったな〜。」
「はよ、いやぁ寝坊してよ。」

友人の沢渡陽(さわたり よう)と挨拶を交わし、自分の席につく。陽は小学校の頃からの腐れ縁で結構仲は良い…と、思っている。何せ平々凡々な俺と違って陽はキラキライケメンなのだ。

「なんだぁ〜?エロい夢でも見たのか?」

俺の通う学校は悲しいかな男しかいない男子校のため、こんな会話を大っぴらにしていても女子に引かれるという恐れは無いのだが、(そもそも陽はイケメンなので共学だったとしても女子は引かないだろうが)ニヤニヤしながら聞いてきた友人にいくら女の子がいないからって公共の場ででかい声で聞くのは如何なものか…と思いつつも答える。

「そうじゃねーよ、ただ変な夢?なら見た。」
「変な夢ぇ?どんな夢だよ。」
「それが…」

ガラッ「ホームルーム始めんぞー」

夢(なのかなんなのかわからないが)について説明しようとした瞬間担任の山村が教室に入ってきた。担任の山村は若い上にイケメン、ここが共学だったら女子にモテモテな筈だ。可哀想にご愁傷さま。

「あー、また後でな。」
「おう。」

ガタガタと立っていた生徒が席に着く。暫く連絡事項を話した後、日直に日誌を渡し担任は教室を出ていった。続きを話そうと思ったが、時計を見ると1限まで残り1分。あの先生話なげーよ…と思いつつも仕方なく1限の準備をした。しかし、お昼になる頃には朝の出来事などすっかり頭の中から吹っ飛んでしまっていたのだった。
昼休み、友達と向かい合って弁当を広げる。

「あ〜だりぃねみぃ帰りてぇ。」

おかずの唐揚げを箸でつまみながら溜息をつく陽。

「今日は比較的楽だろ。体育ねーし…俺の嫌いな数学もない!」
「体育はまだしも、数学はお前の個人的なあれだろ…つーか俺別に体育きらいじゃねーし…」
「へーへー俺はお前みたいに運動神経がいい訳じゃないんでね!」

何を隠そうこいつ陽はイケメンなだけではなく運動も勉強も人並み以上にこなせるのだ。ムカつく…

「まぁまぁ、そう怒んなよ。祐介には祐介のいいとこがあんじゃん!…多分。唐揚げ1個やるから機嫌直せって!」
「多分てなんじゃ多分て!!俺なんかいい所の塊だわ!!唐揚げ1個くらいで俺の機嫌が直ると思ったらなぁ…」
「まぁまぁ、ほら、あ〜ん。」

喋っていた俺の口に唐揚げを突っ込む陽。

「直ると思ったらなぁもぐもぐ大間違いもぐもぐなんだよごっくんまぁ、唐揚げごときじゃ許さんが今回は見逃してやろう!」
「ははっ、ありがとな。」

朝のニヤニヤ笑いとは違う爽やかな笑顔を浮かべている陽を見て俺がやっても女子に引かれて終わりだろうな、等と考え虚しくなりながら自分の弁当を平らげた。

「トイレ行ってくるわ。」

昼食も食べ終わり、俺はトイレに行くために立ち上がった。

「あ、俺も行く。」

陽も行きたかったようで俺と同様に立ち上がる。廊下を歩いていたら用事があるのか走っている生徒が後ろからぶつかってきた。

「ってて…」

ぶつかった拍子に倒れる俺と陽。

「悪ぃ!!」

ぶつかってきた奴は余程急いでいるのか一言だけ謝るとすぐに走り去ってしまった。

「ったく、人にぶつかったんだからせめて立ち止まるくらいしろよな…ってうわわ陽すまん!」
「ふぁ、ふぁいひょうふ…」

なんとまぁ俺と陽はとてつもない格好でこけていた。説明しにくいのだが簡単に言うと仰向けに倒れてる陽の顔面に俺が跨っているような感じ。男の股間を顔面に感じてしまった陽を可哀想と思いつつ慌てて上からどく。

「いや、なんか、ほんとすまん…」
「別に…」

若干陽の顔が赤い気がする。すぐにどいたつもりだったが苦しかったのだろうか、それとも怒っているのか。

「……………」

黙っている陽になんと声をかければいいのかわからず、俺はとりあえず本来の目的を達成することにした。

「あの、さ…俺…トイレ…」
「……俺やっぱいいわ。教室戻ってるから。」

何故か陽は1人で教室へ戻ってしまった。

「お、おう…」

うーん、そんなに嫌だったのだろうか。確かに俺が陽の立場だったらとてつもなく嫌だな。友達の股間が顔に押し当てられるなんて…うっ…もう考えるのやめよ…取り敢えず陽には後でジュースでも買ってやろう。


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