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シロナ

「あ」

 声が出た時には既に、私の人差し指から血が出ていた。買ったばかりの本だっていうのに、油断していたなぁ。

「ん……なに?」

 私の声を聞いて、隣で書類か何かを読んでいたシロナさんがこちらを覗き込んだ。

「指切っちゃった」
「あらら」

 絆創膏がいつも使っているポーチにあったはず、と立ちあがろうとしたけれど、シロナさんに手をがっちり掴まれてしまってそれは叶わなかった。

「……あの、シロナさん?」

 シロナさんは私の問いかけに返事をせず、血がぷっくりと膨れ上がる私の指先をじっと観察している。なんだか目が据わっているような気がするのは、気のせいだろうか……。
 そうしてしばらく私の指先を見ていたシロナさんは、不意にそれを口に含んだ。

「ひっ、し、シロナさん?!」

 温かい舌が傷口をぬるりと舐める。突然のことに私は混乱して、手に持っていた本をばさりと落とした。それに続けて、シロナさんもさっきまで手に持っていた書類を机の上にばら撒いて、そのまま私を押し倒した。ふわふわのラグマットが耳に当たる。もうとっくに血は治まっているはずだけれど、シロナさんは私の指を離さない。耳元で心臓の音がどく、どくと鳴っているのが聞こえた。さっき指を切った時に感じた痛みはほとんど無く、恥ずかしさと混乱とで体が浮くような感覚に襲われる。シロナさんの美しい瞳が私の瞳を捕らえるようになぞる。

「し、シロナさん?」
「んー……」
「な、なんでっ……ちょ、くすぐったい、」

 どのくらいそうしていたか分からないけれど、私がふにゃふにゃにふやけてしまった頃にやっと、シロナさんは私を解放した。私は自分の指を素早く抜くと、その辺にあったティッシュで濡れた手を拭いた。

「まったくもう! なんですか! びっくりした!!」

 顔を真っ赤にして叫ぶと、シロナさんはいたずらがばれた子供のようにふふふと笑った。

「だって貴方色っぽかったんだもの」
「なっ……」
「びっくりさせてごめんね? お詫びに私の指も舐めて良いから」
「いや結構で、んむ、んーーーっ!!」
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