サイトウ
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親戚にすごい子が居るというのは知っていた。自分と同じ地方に住んでいることも。
姉から噂で聞く程度で、会ったこともなければこれから会うことはないだろうと思っていた。親戚といっても、姉の旦那の従兄弟の子供って感じで、血の繋がりはないし。
それがどういうわけか、そのすごい子は今、私のコチャコチャした住まいの床にぺったりと正座をして、深々と頭を下げている。
「不束者ですが、しばらくのあいだよろしくお願いします」
「は、はあ」
本当にしっかりした子だ。
聞いたところによると、彼女のご両親(姉の旦那の従兄弟とその奥さん)が仕事でガラルを離れねばならないらしく、でも彼女は彼女でどうしてもガラルを離れたくないらしく、うんうん悩んでるときにわたしの姉が(わたしの預かり知らぬところで。わたしの預かり知らぬところで!)提案したらしい。
「ごめんね、汚くて。何せ話が急で」
あ、これは、機会がなきゃ片付けないみたいな言い方。
「いえ、お気になさらず。こちらは居候させてもらう側なので」
「一応、えーと、サイトウちゃん、の部屋はこしらえて、綺麗にしておいたから」
「わざわざすみません」
「えっと、じゃあ、どうぞ」
サイトウ。
テレビで聞いたことある名前。まさか本人に向かって口に出すことになるとは。
大きな荷物を持って、とてとてと着いてくるサイトウちゃんは女のわたしから見てもとてもかわいい。
部屋のドアを開けて、どうぞ、なんて言って招き入れると、僅かに目が輝いたのが見えた。
「ど、どお? わたしこの年齢にしては豪華な家に住んでる方だけど、あ、まぁでも全然君が住んでる家よりはボロいし狭いけど、一応うちで一番いい部屋なんだ」
気まずくて早口で捲し立てたけど、サイトウちゃんはふんふんと聞いてくれた。成る程、こういうところが大衆にウケるのか。
「そんな一番の部屋を、私に回してくれたんですか」
「あー、なんか………。一番いい部屋だったから、使うの勿体なくて、そもそもそんなに使ってなかったんだ、たまに絵を乾かすのに使うくらいで。ほら、陽当たりいいから」
「美大に通っているんでしたね」
「わたしは趣味のつもりで絵描いてたんだけど、いつのまにかね……」
「趣味をいつまでも楽しめるのは凄いことだと思います」
「あ、ありがとう」
入口付近で固まるわたしをちらりと一瞥してから、サイトウちゃんは部屋を歩き出した。
「………、カーペットはそれでいい?」
「はい、ふわふわしていて好みです」
「ベッドとかは明日くるんだっけ」
「はい、あと本棚とかも。すみません、ご迷惑かけます」
「いえいえ、全然、そんな。
……えっと、嫌かもしれないけど、今日はわたしのベッドで寝る?」
「えっ?」
あ、まずかった? これはまずかった?
馴れ馴れしすぎた?
「あっ、いや、その! そんなんじゃなくて! わたしはソファでねるから」
「いや、でも、そんな」
「いーのいーの。〆切迫ってるときとかよく床で寝てるから。それよりマシ」
「ゆ、ゆか……?」
「あ、えへ、画家なんてそんなもんよ、うん」
「………………わかりました」
「沈黙長かったね、ほんとに?」
「私ソファで寝ます!」
「わかってない!」
「落ちたらどうするんですか!」
「サイトウちゃんも落ちるでしょ」
「体幹がいいので落ちません。家主なんですしベッドで寝てください」
「わたしが寝れません……」
「なぜですか」
「申し訳ない………」
「家主なのに」
「は、はあ……………」
爛々と光る白銅色の瞳を見つめながら、わたしはこれから自分の生活ががらりと変わっていくであろうことを認めざるを得なかった。薄汚い自分の住処に、自ら光を放つ星が転がり込んできたのだ。窓の外はもうすぐ完全に暗くなる。その前に彼女にとびきりのディナーを用意せねばなるまい。
姉から噂で聞く程度で、会ったこともなければこれから会うことはないだろうと思っていた。親戚といっても、姉の旦那の従兄弟の子供って感じで、血の繋がりはないし。
それがどういうわけか、そのすごい子は今、私のコチャコチャした住まいの床にぺったりと正座をして、深々と頭を下げている。
「不束者ですが、しばらくのあいだよろしくお願いします」
「は、はあ」
本当にしっかりした子だ。
聞いたところによると、彼女のご両親(姉の旦那の従兄弟とその奥さん)が仕事でガラルを離れねばならないらしく、でも彼女は彼女でどうしてもガラルを離れたくないらしく、うんうん悩んでるときにわたしの姉が(わたしの預かり知らぬところで。わたしの預かり知らぬところで!)提案したらしい。
「ごめんね、汚くて。何せ話が急で」
あ、これは、機会がなきゃ片付けないみたいな言い方。
「いえ、お気になさらず。こちらは居候させてもらう側なので」
「一応、えーと、サイトウちゃん、の部屋はこしらえて、綺麗にしておいたから」
「わざわざすみません」
「えっと、じゃあ、どうぞ」
サイトウ。
テレビで聞いたことある名前。まさか本人に向かって口に出すことになるとは。
大きな荷物を持って、とてとてと着いてくるサイトウちゃんは女のわたしから見てもとてもかわいい。
部屋のドアを開けて、どうぞ、なんて言って招き入れると、僅かに目が輝いたのが見えた。
「ど、どお? わたしこの年齢にしては豪華な家に住んでる方だけど、あ、まぁでも全然君が住んでる家よりはボロいし狭いけど、一応うちで一番いい部屋なんだ」
気まずくて早口で捲し立てたけど、サイトウちゃんはふんふんと聞いてくれた。成る程、こういうところが大衆にウケるのか。
「そんな一番の部屋を、私に回してくれたんですか」
「あー、なんか………。一番いい部屋だったから、使うの勿体なくて、そもそもそんなに使ってなかったんだ、たまに絵を乾かすのに使うくらいで。ほら、陽当たりいいから」
「美大に通っているんでしたね」
「わたしは趣味のつもりで絵描いてたんだけど、いつのまにかね……」
「趣味をいつまでも楽しめるのは凄いことだと思います」
「あ、ありがとう」
入口付近で固まるわたしをちらりと一瞥してから、サイトウちゃんは部屋を歩き出した。
「………、カーペットはそれでいい?」
「はい、ふわふわしていて好みです」
「ベッドとかは明日くるんだっけ」
「はい、あと本棚とかも。すみません、ご迷惑かけます」
「いえいえ、全然、そんな。
……えっと、嫌かもしれないけど、今日はわたしのベッドで寝る?」
「えっ?」
あ、まずかった? これはまずかった?
馴れ馴れしすぎた?
「あっ、いや、その! そんなんじゃなくて! わたしはソファでねるから」
「いや、でも、そんな」
「いーのいーの。〆切迫ってるときとかよく床で寝てるから。それよりマシ」
「ゆ、ゆか……?」
「あ、えへ、画家なんてそんなもんよ、うん」
「………………わかりました」
「沈黙長かったね、ほんとに?」
「私ソファで寝ます!」
「わかってない!」
「落ちたらどうするんですか!」
「サイトウちゃんも落ちるでしょ」
「体幹がいいので落ちません。家主なんですしベッドで寝てください」
「わたしが寝れません……」
「なぜですか」
「申し訳ない………」
「家主なのに」
「は、はあ……………」
爛々と光る白銅色の瞳を見つめながら、わたしはこれから自分の生活ががらりと変わっていくであろうことを認めざるを得なかった。薄汚い自分の住処に、自ら光を放つ星が転がり込んできたのだ。窓の外はもうすぐ完全に暗くなる。その前に彼女にとびきりのディナーを用意せねばなるまい。