サイトウ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※名前変換あり
「はい、これ。頼まれてたやつ」
私が赤とピンクのリボンで煌びやかに装飾された小さな小包を差し出すと、サイトウは目の輝きをいっそうと増し、まるで周囲に花が咲くようなうっとり顔を見せた。いつまで経っても惚けた顔のまま小包を受け取ろうとしないので、呆れてきらきらしたそれを彼女の手に押し付けると、彼女ははっと我に返って、恥ずかしそうにそれを受け取った。
「あ、ありがとうございます……」
「別に。たくさんあったし」
「いえ、このお店のバレンタインは毎年大人気で、手に入れられない人も多いんです。ヨモギさんがいなかったら、きっとお目にかかることもできませんでした」
「そうかな……」
「そうです!」
目がマジだ。
彼女の本気の眼光に私が気圧されていることに気がついたのか、彼女はまたはっと息を飲み、恥ずかしそうに身を引いた。
「すみません、お菓子のことになるとつい……」
「いえいえ。お役に立てて何より」
何故私のような普通の女子高生が、こんな特別な日にあのサイトウにお菓子を手渡しているのか。その理由はずばり、私の家がガラル有数のパティスリーだからである。偶然彼女が私の親のスイーツの大ファンだと知って以来、私はことあるごとに数量限定のメニューなどを彼女のために取り置きして、こっそり渡しているのだ。最初はサイトウもえらく遠慮していたし、事実あまりいいことでは無いのだろうけれど、普通のお菓子好きと彼女では、使える時間に雲泥の差がある。それに、売切れの看板を見た時に、あの凛々しい顔が悲しそうに歪むのを見て、気にしないでいられる人間が果たして居るだろうか。そういうわけで、私は今日も、人気のいないカフェで、バレンタイン限定の、かわいくデコレーションされたショコラの詰め合わせの小包をサイトウに渡している。
サイトウはまるで宝石でも扱うように小包を鞄にしまって、注文していたドリンクに手をつけた。
「しっかし、サンクスデーねえ……あちこちスイーツばっかりで、私としては嫌になっちゃうな」
「甘いものがお好きではないんですか?」
「うーん……嫌いじゃないけど……食傷気味っていうか、身近すぎていや……」
「ぜ、贅沢な……」
カフェの看板メニューであるホットサンドイッチを口にしながらそう愚痴ると、サイトウは信じられない、という視線を私に向けて、同じくカフェの看板メニューであるアップルパイにフォークを突き刺した。
「でもサイトウも、ファンから沢山もらってるんでしょ? 飽きない?」
「あ、それが……」
サイトウは私の質問を聞くと、少し顔を曇らせた。
「私のイメージ的に合わないみたいで……隠してるのもあるんですが、滅多に贈られて来ないんです。サンクスデーも、花とか手紙は沢山貰うんですけど」
「あ、そっか。忘れてた、隠してるんだったね、そういえば」
「誰にも言ってませんよね」
「言ってないって、近い近い」
「す、すみません……」
「へえー、でも花とか貰うんだ」
「はい。それに、花とか手紙は大丈夫なんですけど、手作り風のお菓子とかは衛生上はねられちゃうので、私のところまで来ないんですよね」
「えっ」
「はじめ聞かされた時はショックでしたけど……まあしょうがないことですよね」
「そ…………うだね。口に入るものだしね、うん……」
「そういうわけで、いつもヨモギさんには助けられてます」
サイトウはアップルパイを食べ終えて、フォークを皿の上に行儀良く置いて、微笑んだ。
「……あ! 何か忘れてると思ったら、お金渡すの忘れてました! すみません、今、」
「あー、いいよいいよ。私からのプレゼントってことで」
「そんな! せっかく用意してもらったのに……」
「いいって、私にできることこれくらいなんだから。いつも頑張ってるんだし、ご褒美ってことで」
「そ、それじゃあ……せめてこのお金は」
サイトウはそう言って伝票をするりと抜き取り、席から立ち上がった。
「私もうそろそろ帰らなきゃいけないので、ここで失礼します。払っておくので、ゆっくり食べててくださいね」
「あ……じゃあ、お言葉に甘えて……?」
「チョコ、ありがとうございました。またヨモギさんのお菓子楽しみにしてますね」
「えっ」
サイトウがくるりと背中を向けるのと、私が持っていたフォークを落とすのは同時だった。
「ちょちょちょちょちょ、ちょっ、ちょっと待っ、いつから、」
慌てて立ち上がる私を、サイトウはちらりと一瞥し、はにかんでから、店の入り口へと消えていった。私は魂が抜けたように座り込み、熱くなった頬に両手を当てて突っ伏した。こんなことになってもなお、自分の思考回路が次のスイーツのレシピを考えてしまっていることに気づいて、余計に恥ずかしくなった。人気がないとはいえ、公共の場であうあうと悲鳴を上げる私に、店の奥からひょっこり出てきた店主が声をかけた。
「スイーツのことばかり考えてるのはどっちだろうねえ」
「……うるさい」
顔を上げずとも、顔見知りの店主がにやにやと笑いながら私に話しかけているのがわかった。
「試作の食べ過ぎでお腹がいっぱいなんだったら、そのサンドイッチ包むよ」
「ほんとに、うるさい……」
図星という図星を突かれまくって、子供じみた言い返ししか出てこない。真っ赤な顔で食べかけのサンドイッチをテイクアウトしてきた私を見て、何を思ったのか、両親は黙って私に特製ショコラケーキを差し出した。スイーツは、もう、こりごりだ。
「はい、これ。頼まれてたやつ」
私が赤とピンクのリボンで煌びやかに装飾された小さな小包を差し出すと、サイトウは目の輝きをいっそうと増し、まるで周囲に花が咲くようなうっとり顔を見せた。いつまで経っても惚けた顔のまま小包を受け取ろうとしないので、呆れてきらきらしたそれを彼女の手に押し付けると、彼女ははっと我に返って、恥ずかしそうにそれを受け取った。
「あ、ありがとうございます……」
「別に。たくさんあったし」
「いえ、このお店のバレンタインは毎年大人気で、手に入れられない人も多いんです。ヨモギさんがいなかったら、きっとお目にかかることもできませんでした」
「そうかな……」
「そうです!」
目がマジだ。
彼女の本気の眼光に私が気圧されていることに気がついたのか、彼女はまたはっと息を飲み、恥ずかしそうに身を引いた。
「すみません、お菓子のことになるとつい……」
「いえいえ。お役に立てて何より」
何故私のような普通の女子高生が、こんな特別な日にあのサイトウにお菓子を手渡しているのか。その理由はずばり、私の家がガラル有数のパティスリーだからである。偶然彼女が私の親のスイーツの大ファンだと知って以来、私はことあるごとに数量限定のメニューなどを彼女のために取り置きして、こっそり渡しているのだ。最初はサイトウもえらく遠慮していたし、事実あまりいいことでは無いのだろうけれど、普通のお菓子好きと彼女では、使える時間に雲泥の差がある。それに、売切れの看板を見た時に、あの凛々しい顔が悲しそうに歪むのを見て、気にしないでいられる人間が果たして居るだろうか。そういうわけで、私は今日も、人気のいないカフェで、バレンタイン限定の、かわいくデコレーションされたショコラの詰め合わせの小包をサイトウに渡している。
サイトウはまるで宝石でも扱うように小包を鞄にしまって、注文していたドリンクに手をつけた。
「しっかし、サンクスデーねえ……あちこちスイーツばっかりで、私としては嫌になっちゃうな」
「甘いものがお好きではないんですか?」
「うーん……嫌いじゃないけど……食傷気味っていうか、身近すぎていや……」
「ぜ、贅沢な……」
カフェの看板メニューであるホットサンドイッチを口にしながらそう愚痴ると、サイトウは信じられない、という視線を私に向けて、同じくカフェの看板メニューであるアップルパイにフォークを突き刺した。
「でもサイトウも、ファンから沢山もらってるんでしょ? 飽きない?」
「あ、それが……」
サイトウは私の質問を聞くと、少し顔を曇らせた。
「私のイメージ的に合わないみたいで……隠してるのもあるんですが、滅多に贈られて来ないんです。サンクスデーも、花とか手紙は沢山貰うんですけど」
「あ、そっか。忘れてた、隠してるんだったね、そういえば」
「誰にも言ってませんよね」
「言ってないって、近い近い」
「す、すみません……」
「へえー、でも花とか貰うんだ」
「はい。それに、花とか手紙は大丈夫なんですけど、手作り風のお菓子とかは衛生上はねられちゃうので、私のところまで来ないんですよね」
「えっ」
「はじめ聞かされた時はショックでしたけど……まあしょうがないことですよね」
「そ…………うだね。口に入るものだしね、うん……」
「そういうわけで、いつもヨモギさんには助けられてます」
サイトウはアップルパイを食べ終えて、フォークを皿の上に行儀良く置いて、微笑んだ。
「……あ! 何か忘れてると思ったら、お金渡すの忘れてました! すみません、今、」
「あー、いいよいいよ。私からのプレゼントってことで」
「そんな! せっかく用意してもらったのに……」
「いいって、私にできることこれくらいなんだから。いつも頑張ってるんだし、ご褒美ってことで」
「そ、それじゃあ……せめてこのお金は」
サイトウはそう言って伝票をするりと抜き取り、席から立ち上がった。
「私もうそろそろ帰らなきゃいけないので、ここで失礼します。払っておくので、ゆっくり食べててくださいね」
「あ……じゃあ、お言葉に甘えて……?」
「チョコ、ありがとうございました。またヨモギさんのお菓子楽しみにしてますね」
「えっ」
サイトウがくるりと背中を向けるのと、私が持っていたフォークを落とすのは同時だった。
「ちょちょちょちょちょ、ちょっ、ちょっと待っ、いつから、」
慌てて立ち上がる私を、サイトウはちらりと一瞥し、はにかんでから、店の入り口へと消えていった。私は魂が抜けたように座り込み、熱くなった頬に両手を当てて突っ伏した。こんなことになってもなお、自分の思考回路が次のスイーツのレシピを考えてしまっていることに気づいて、余計に恥ずかしくなった。人気がないとはいえ、公共の場であうあうと悲鳴を上げる私に、店の奥からひょっこり出てきた店主が声をかけた。
「スイーツのことばかり考えてるのはどっちだろうねえ」
「……うるさい」
顔を上げずとも、顔見知りの店主がにやにやと笑いながら私に話しかけているのがわかった。
「試作の食べ過ぎでお腹がいっぱいなんだったら、そのサンドイッチ包むよ」
「ほんとに、うるさい……」
図星という図星を突かれまくって、子供じみた言い返ししか出てこない。真っ赤な顔で食べかけのサンドイッチをテイクアウトしてきた私を見て、何を思ったのか、両親は黙って私に特製ショコラケーキを差し出した。スイーツは、もう、こりごりだ。