おまけのおはなし
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「いやぁあぁあぁあ〜〜〜っ!!」
悲鳴は、脱衣所から廊下を突き破り、リビングまで響いてしまったらしい。
しばらくするとバタバタという足音を伴って、
「どうしたの、和紗!?」
五条さんが脱衣所のドアを開けて入ってきた。
「いやーっ!」
バスタオルを身体に巻き付けただけの私は、再び悲鳴を上げる。
「入ってこないでーっ!五条さんのスケベーっ!」
「和紗が突然叫ぶから心配して来たんでしょ」
「い、いいから出て行ってーっ!」
それから、私は服を着てリビングに向かった。
すかさず五条さんが尋ねてきた。
「で、どうしたの?あんなでっかい声出して」
「〜〜〜っ」
私は赤面して口をつぐむ。
だけど五条さんがジーッと見つめてくるので、
「ふ、肥ったんです・・・」
渋々白状した。
すると五条さんは目を瞬かせた後、
「そりゃあそうでしょう〜。和紗ってば毎週のようにスウィーツの食べ歩きしてるし」
ヘラッと笑いながら言った。
「おまけに〜、僕がいない間の食事、トンカツ弁当ばっか食ってるでしょ」
「ど、どうしてそれを・・・!」
「ゴミ箱に空の容器捨ててるの見たの。あんだけ高カロリーなものばっか食ってりゃそりゃ肥るでしょ」
と、五条さんはザクッと図星をついてきた。
「だ、だって」
私は悔しくてせめてもの言い訳を始めた。
「スウィーツ巡りは勉強の一環なんだもの。トンカツ弁当は、おじいちゃんが肉と揚げ物が苦手だったから食べる機会がなくて、その反動でつい・・・」
「食べ過ぎてる自覚はあるんだね」
更に五条さんは追い打ちをかけてきた。
「で、何キロ増えたの?」
「・・・フツー訊きます?それ」
「パッと見じゃそれほど肥ったようには見えないからさ」
「・・・内緒!」
「ハハッ。でも少しぐらい肥ってても僕は構わないよ~。その方が抱き心地もいいしね~」
「・・・うそばっかり・・・」
「ん?」
私はキッと五条さんを睨みつけて言った。
「少しぐらい肥っててもいいなんて、絶対思ってないでしょ!『そのブヨブヨの醜い身体をこの僕の目の前に晒すんじゃねーよ、デブが』って思ってるでしょ、五条さんは!」
「ひっどいなぁ。僕、そんなに性格悪く思われてんの?」
まぁとにかく、と五条さんは続けた。
「気になるなら、食生活を見直した方がいいね~」
「・・・・・・」
五条さんの言う事は至極真っ当なことだ。
だけど、何となくムッとしてしまう。
「そういう五条さんこそ、食生活見直した方がいいんじゃないですか?」
「僕?」
「五条さん、お休みの日いつも甘いお菓子爆食いしてるじゃないですか!五条さんもうすぐ30歳でしょ?30超えたら代謝が衰えてみるみる肥っちゃいますよ!」
「それは大丈夫~。僕、ジムに通ってるから」
「えっ」
五条さんがジム通い・・・?
ストイックに運動してるところ想像つかないんですけど。
「僕、こうみえてしっかり鍛えてるんだよね~。着痩せするタイプなの。脱ぐとすごいよ?見てみる?」
「いや、結構です!」
そう突っぱねながらも、私は内心危機感を覚えていた。
(ズボラそうな五条さんでもしっかり自己管理している・・・)
上京して早2ヶ月が経ち、東京での暮らしにもすっかり慣れた。
浮かれて多少羽目を外していたことは否めない。
(でもまさか二か月で3キロも肥るとは・・・!)
何とかしなくては!
私はダイエットを決意した。
◆◆◆
「鶴來ちゃ~ん。今度の日曜はこの店行かへん?」
と、専門学校の友人・モイちゃんが私にスマホを見せてきた。
それは、パリに本店がある有名ショコラティエのホームページだった。
「日本に初めて支店がオープンしたんやって」
「そうなんだ!すごーい!行きたい!」
と言ったところで、私はハッとした。
(そうだ。ダイエット・・・!)
「ご、ごめん、モイちゃん。その日は用事があって行けないの」
「え、そうなん?残念やなぁ」
「うん、ごめんね」
マイナス3キロへの道程。
毎週末のスウィーツ研究(という名の食べ歩き)をやめる。
(そして!)
運動をしてカロリーを消耗し、脂肪を燃やす!
学校の帰り、私は駅前にあるジムに立ち寄った。
「今なら入会キャンペーンとして、入会金は無料。そして、会員費が二か月半額となっております!」
と、にこやかな笑顔のフロント係の人に説明を受ける。
私は尋ねた。
「あの、それでは通常の会員費はいくらなんですか?」
「一か月9240円になります」
「9・・・」
高い!
辟易する私をよそに、フロント係は話を進める。
「無料体験も今すぐ出来ますがどうされますか?」
「い、いえ。一度持ち帰って検討します・・・!」
と、パンフレットを貰ってフロントから立ち去る。
(ほぼ一万円の会費・・・。毎日通って元を取れたとしても、痛い出費だなぁ・・・)
そんなことを考えながら出入り口に向かっていると、
「鶴來さん?」
なんと七海さんが向かいから入ってきた。
「七海さん!」
「こんなところで会うとは。奇遇ですね」
「ですね。七海さん、もしかしてこのジムの会員なんですか?」
「いかにもそうですが」
「あ~、なんかわかります~」
「何がですか」
「七海さん、きちんと体型管理心掛けていそうだから」
「体型管理というよりは体力維持の為ですがね」
「なるほど」
「鶴來さんもここの会員だったんですね」
「いえ、私は入会説明を聞きに来ただけなんです」
「入会するんですか?」
「それが・・・思ったより会費が高くて。難しそうです」
「そうですか」
「はい。なのでガッツリ運動するよりも、食事量を減らして・・・」」
「食事量?」
「あ」
「なるほど、ダイエット目的ですか」
七海さんは渋い顔をする。
「どうしてこうも女性はすぐ痩せたがるのか・・・」
「はぁ。でも結構深刻な事態で・・・」
「人間食べれば肥る、食べなければ痩せる。それが自然の摂理です。が、いたずらに食事量を減らして痩せようとするのは感心しませんね」
「おっしゃる通り・・・」
「適切な量の食事、適度な運動。それが最も健康的で理に適った減量です」
「でも、七海さん」
私は言った。
「それが私には難しいんですよ。勉強のために甘いものは食べないといけないし、学校とバイトで家に帰ったらヘトヘトで自炊できなくてついついコンビニ弁当ばかり食べてしまうし・・・」
「言い訳ばかりですね」
「うっ」
「お忙しいことは理解します。が、昨今はコンビニでもカロリーや栄養素に配慮した弁当もありますし、一駅分歩く、エレベーターを使用せず階段を使う等、身近に出来る運動もあります。心掛け次第だと思いますがね」
「うぅ・・・」
正論オブ正論。
ぐうの音も出ない。
「・・・そうですね。七海さんの言う通りです」
私はグッと両の手を握った。
「私、目が覚めました!ありがとうございます!」
「別に礼を言われる事では」
「早速、一駅分歩いて帰ります!では!」
「はぁ・・・」
私は颯爽とした足取りでジムを出て、ひとつ先の駅に向かって歩き出した。
◆◆◆
一駅だけでなく三駅分歩き、更にマンションのエレベーターを使わず階段で部屋まで帰った。
玄関ドアを開けた時には、私の息はゼェゼェと上がっていた。
(は、張り切り過ぎたかな?でも、たくさん身体を動かしたってって感じがする・・・!)
と、充足感を覚えリビングに向かうと、
「あ、おかえり~和紗」
と、五条さんが出迎えてくれた。
「あれ、五条さん?帰ってたんですね。珍しく早い・・・」
「うん、今日は半休」
「そうですか」
「早く手洗いしてきなよ。いいもの買って来たよ~」
「いいもの?」
「うん、コレ!」
と、五条さんはチョコレートの詰め合わせの箱を私に見せた。
「パリで有名なショコラティエのチョコ。今日、日本で初めて支店がオープンしたって話題だったからさ、買って来たの」
それは、先程モイちゃんから誘われた店のものだった。
「・・・・・・」
ピシッと私の表情が強張る。
そんな私を見て、五条さんは首を傾げる。
「どうしたの?」
「いえ・・・」
「これとかメチャ美味いよ~。外側をコーティングするビターチョコと内側の甘酸っぱいフランボワーズソースの組み合わせが最高~」
「ご、五条さんひとりで食べてください・・・。わ、私はいらないです・・・」
「え、なんで?」
「・・・・・・」
「あ、ダイエットするんだったっけ?」
「・・・え、えぇ・・・」
「いいじゃん、チョコ一個くらい食べたって。今更どうこうならないよ」
「い、いえ・・・」
「はい、お口アーンして~」
と、五条さんは私に宝石のようなチョコを一粒差し出す。
私はゴクリと喉を鳴らした。が。
「ダメーーーッ!」
と、五条さんの手を押し返した。
「その一粒がダメにするんです!絶対ひとつじゃ収まらなくなる・・・!」
そして、そっぽを向いた。
「ふーん、そっかぁ。残念だなぁ。こんなに美味いのに。でも、和紗がそう言うなら仕方ないね」
と、五条さんはそのままチョコを頬張った。
「んん~っ、うっまーい!!」
「・・・・・・」
私はそのままトボトボと自分の部屋に引き返した。
その間にも、五条さんの無神経な声は聞こえてくる。
「メチャクチャ美味~い!これを食べられないなんて人生損だよねぇ~」
絶対、聞こえるように言ってるでしょ。
(ム、ムカつく・・・・!)
だけど、負けない・・・!
絶対に元の体重に戻してみせる・・・!
私は決意を更に固くした。
◆◆◆
そして、ニか月後。
「戻った・・・!」
食事の見直しと、日常での運動と、週末のジョギングを続けた結果。私は元の体重に戻すことが出来た。
「やった、やったー!心なしか身体が軽い~!」
と小躍りしていたら、
「おめでとう~。よかったねぇ」
と、五条さんが私に向けてパチパチと拍手した。
「僕も辛かったよ~。僕が美味いもの食べてても、和紗におすそ分けできなかったからさ。何だか食べた気がしなかったし」
「いや、存分に味わってたでしょう・・・。っていうか嫌がらせしてましたよね!?」
「そんなことないって」
「・・・でも今回の件で私、反省しました」
「ん?」
私は少し俯いて言葉を続けた。
「私、東京に来てから毎日楽しくて。浮かれてたなって。糠田が森を護るために呪術を学ぶっていう目標があるのに。なのにそれを脇に置いて、はしゃぎ過ぎました」
今になって、そんな自分が恥ずかしい。
「別にいいんじゃない?」
五条さんがカラッとした口調で言った。
私は顔を上げて目を瞬かせる。
「え・・・」
「僕は嬉しかったけどね。和紗が自分の食べたいものをいっぱい食べたり、友達とあちこち色んな店に出掛けたり、ダイエットに一喜一憂したり、年頃らしく楽しんでるんだなってことがわかって」
「・・・?」
それの何が五条さんは嬉しいんだろう。
すると五条さんは私を見下ろして、
「若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ、何人たりともね」
と言って、二ッと笑った。
だけど、ますますわからない。
「・・・何なんですか、それ」
「要するにぃ、年相応にはしゃいでる和紗は可愛いなーってことだよ」
「・・・からかわないでください」
「からかってないよ~」
「と、とにかく!」
話題を切り替えるべく、私は言った。
「これで服の買い替えをせずに済みそうで良かったです!」
すると、今度は五条さんが不可解そうな顔をした。
「服?」
「私の持ってる服って、中三の頃から着続けてるのがほとんどなんです。肥っちゃってキツくて、このままじゃ全買い替えしなきゃと思ってたから良かった~。出費が重なるとこでした!」
「・・・・・・」
すると、五条さんは深々と溜息を吐きながら言った。
「なるほど。それで和紗の私服はちょっとダサいのか」
「ダサッ!?し、失礼な!」
「よーし。今度洋服買いに行こう!僕が見立ててあげるよ」
「い、いりませんよ!」
「ダーメ。明日にでも買いに行くよ!」
私服センスアップ編につづく・・・かもしれない。
おわり
悲鳴は、脱衣所から廊下を突き破り、リビングまで響いてしまったらしい。
しばらくするとバタバタという足音を伴って、
「どうしたの、和紗!?」
五条さんが脱衣所のドアを開けて入ってきた。
「いやーっ!」
バスタオルを身体に巻き付けただけの私は、再び悲鳴を上げる。
「入ってこないでーっ!五条さんのスケベーっ!」
「和紗が突然叫ぶから心配して来たんでしょ」
「い、いいから出て行ってーっ!」
それから、私は服を着てリビングに向かった。
すかさず五条さんが尋ねてきた。
「で、どうしたの?あんなでっかい声出して」
「〜〜〜っ」
私は赤面して口をつぐむ。
だけど五条さんがジーッと見つめてくるので、
「ふ、肥ったんです・・・」
渋々白状した。
すると五条さんは目を瞬かせた後、
「そりゃあそうでしょう〜。和紗ってば毎週のようにスウィーツの食べ歩きしてるし」
ヘラッと笑いながら言った。
「おまけに〜、僕がいない間の食事、トンカツ弁当ばっか食ってるでしょ」
「ど、どうしてそれを・・・!」
「ゴミ箱に空の容器捨ててるの見たの。あんだけ高カロリーなものばっか食ってりゃそりゃ肥るでしょ」
と、五条さんはザクッと図星をついてきた。
「だ、だって」
私は悔しくてせめてもの言い訳を始めた。
「スウィーツ巡りは勉強の一環なんだもの。トンカツ弁当は、おじいちゃんが肉と揚げ物が苦手だったから食べる機会がなくて、その反動でつい・・・」
「食べ過ぎてる自覚はあるんだね」
更に五条さんは追い打ちをかけてきた。
「で、何キロ増えたの?」
「・・・フツー訊きます?それ」
「パッと見じゃそれほど肥ったようには見えないからさ」
「・・・内緒!」
「ハハッ。でも少しぐらい肥ってても僕は構わないよ~。その方が抱き心地もいいしね~」
「・・・うそばっかり・・・」
「ん?」
私はキッと五条さんを睨みつけて言った。
「少しぐらい肥っててもいいなんて、絶対思ってないでしょ!『そのブヨブヨの醜い身体をこの僕の目の前に晒すんじゃねーよ、デブが』って思ってるでしょ、五条さんは!」
「ひっどいなぁ。僕、そんなに性格悪く思われてんの?」
まぁとにかく、と五条さんは続けた。
「気になるなら、食生活を見直した方がいいね~」
「・・・・・・」
五条さんの言う事は至極真っ当なことだ。
だけど、何となくムッとしてしまう。
「そういう五条さんこそ、食生活見直した方がいいんじゃないですか?」
「僕?」
「五条さん、お休みの日いつも甘いお菓子爆食いしてるじゃないですか!五条さんもうすぐ30歳でしょ?30超えたら代謝が衰えてみるみる肥っちゃいますよ!」
「それは大丈夫~。僕、ジムに通ってるから」
「えっ」
五条さんがジム通い・・・?
ストイックに運動してるところ想像つかないんですけど。
「僕、こうみえてしっかり鍛えてるんだよね~。着痩せするタイプなの。脱ぐとすごいよ?見てみる?」
「いや、結構です!」
そう突っぱねながらも、私は内心危機感を覚えていた。
(ズボラそうな五条さんでもしっかり自己管理している・・・)
上京して早2ヶ月が経ち、東京での暮らしにもすっかり慣れた。
浮かれて多少羽目を外していたことは否めない。
(でもまさか二か月で3キロも肥るとは・・・!)
何とかしなくては!
私はダイエットを決意した。
◆◆◆
「鶴來ちゃ~ん。今度の日曜はこの店行かへん?」
と、専門学校の友人・モイちゃんが私にスマホを見せてきた。
それは、パリに本店がある有名ショコラティエのホームページだった。
「日本に初めて支店がオープンしたんやって」
「そうなんだ!すごーい!行きたい!」
と言ったところで、私はハッとした。
(そうだ。ダイエット・・・!)
「ご、ごめん、モイちゃん。その日は用事があって行けないの」
「え、そうなん?残念やなぁ」
「うん、ごめんね」
マイナス3キロへの道程。
毎週末のスウィーツ研究(という名の食べ歩き)をやめる。
(そして!)
運動をしてカロリーを消耗し、脂肪を燃やす!
学校の帰り、私は駅前にあるジムに立ち寄った。
「今なら入会キャンペーンとして、入会金は無料。そして、会員費が二か月半額となっております!」
と、にこやかな笑顔のフロント係の人に説明を受ける。
私は尋ねた。
「あの、それでは通常の会員費はいくらなんですか?」
「一か月9240円になります」
「9・・・」
高い!
辟易する私をよそに、フロント係は話を進める。
「無料体験も今すぐ出来ますがどうされますか?」
「い、いえ。一度持ち帰って検討します・・・!」
と、パンフレットを貰ってフロントから立ち去る。
(ほぼ一万円の会費・・・。毎日通って元を取れたとしても、痛い出費だなぁ・・・)
そんなことを考えながら出入り口に向かっていると、
「鶴來さん?」
なんと七海さんが向かいから入ってきた。
「七海さん!」
「こんなところで会うとは。奇遇ですね」
「ですね。七海さん、もしかしてこのジムの会員なんですか?」
「いかにもそうですが」
「あ~、なんかわかります~」
「何がですか」
「七海さん、きちんと体型管理心掛けていそうだから」
「体型管理というよりは体力維持の為ですがね」
「なるほど」
「鶴來さんもここの会員だったんですね」
「いえ、私は入会説明を聞きに来ただけなんです」
「入会するんですか?」
「それが・・・思ったより会費が高くて。難しそうです」
「そうですか」
「はい。なのでガッツリ運動するよりも、食事量を減らして・・・」」
「食事量?」
「あ」
「なるほど、ダイエット目的ですか」
七海さんは渋い顔をする。
「どうしてこうも女性はすぐ痩せたがるのか・・・」
「はぁ。でも結構深刻な事態で・・・」
「人間食べれば肥る、食べなければ痩せる。それが自然の摂理です。が、いたずらに食事量を減らして痩せようとするのは感心しませんね」
「おっしゃる通り・・・」
「適切な量の食事、適度な運動。それが最も健康的で理に適った減量です」
「でも、七海さん」
私は言った。
「それが私には難しいんですよ。勉強のために甘いものは食べないといけないし、学校とバイトで家に帰ったらヘトヘトで自炊できなくてついついコンビニ弁当ばかり食べてしまうし・・・」
「言い訳ばかりですね」
「うっ」
「お忙しいことは理解します。が、昨今はコンビニでもカロリーや栄養素に配慮した弁当もありますし、一駅分歩く、エレベーターを使用せず階段を使う等、身近に出来る運動もあります。心掛け次第だと思いますがね」
「うぅ・・・」
正論オブ正論。
ぐうの音も出ない。
「・・・そうですね。七海さんの言う通りです」
私はグッと両の手を握った。
「私、目が覚めました!ありがとうございます!」
「別に礼を言われる事では」
「早速、一駅分歩いて帰ります!では!」
「はぁ・・・」
私は颯爽とした足取りでジムを出て、ひとつ先の駅に向かって歩き出した。
◆◆◆
一駅だけでなく三駅分歩き、更にマンションのエレベーターを使わず階段で部屋まで帰った。
玄関ドアを開けた時には、私の息はゼェゼェと上がっていた。
(は、張り切り過ぎたかな?でも、たくさん身体を動かしたってって感じがする・・・!)
と、充足感を覚えリビングに向かうと、
「あ、おかえり~和紗」
と、五条さんが出迎えてくれた。
「あれ、五条さん?帰ってたんですね。珍しく早い・・・」
「うん、今日は半休」
「そうですか」
「早く手洗いしてきなよ。いいもの買って来たよ~」
「いいもの?」
「うん、コレ!」
と、五条さんはチョコレートの詰め合わせの箱を私に見せた。
「パリで有名なショコラティエのチョコ。今日、日本で初めて支店がオープンしたって話題だったからさ、買って来たの」
それは、先程モイちゃんから誘われた店のものだった。
「・・・・・・」
ピシッと私の表情が強張る。
そんな私を見て、五条さんは首を傾げる。
「どうしたの?」
「いえ・・・」
「これとかメチャ美味いよ~。外側をコーティングするビターチョコと内側の甘酸っぱいフランボワーズソースの組み合わせが最高~」
「ご、五条さんひとりで食べてください・・・。わ、私はいらないです・・・」
「え、なんで?」
「・・・・・・」
「あ、ダイエットするんだったっけ?」
「・・・え、えぇ・・・」
「いいじゃん、チョコ一個くらい食べたって。今更どうこうならないよ」
「い、いえ・・・」
「はい、お口アーンして~」
と、五条さんは私に宝石のようなチョコを一粒差し出す。
私はゴクリと喉を鳴らした。が。
「ダメーーーッ!」
と、五条さんの手を押し返した。
「その一粒がダメにするんです!絶対ひとつじゃ収まらなくなる・・・!」
そして、そっぽを向いた。
「ふーん、そっかぁ。残念だなぁ。こんなに美味いのに。でも、和紗がそう言うなら仕方ないね」
と、五条さんはそのままチョコを頬張った。
「んん~っ、うっまーい!!」
「・・・・・・」
私はそのままトボトボと自分の部屋に引き返した。
その間にも、五条さんの無神経な声は聞こえてくる。
「メチャクチャ美味~い!これを食べられないなんて人生損だよねぇ~」
絶対、聞こえるように言ってるでしょ。
(ム、ムカつく・・・・!)
だけど、負けない・・・!
絶対に元の体重に戻してみせる・・・!
私は決意を更に固くした。
◆◆◆
そして、ニか月後。
「戻った・・・!」
食事の見直しと、日常での運動と、週末のジョギングを続けた結果。私は元の体重に戻すことが出来た。
「やった、やったー!心なしか身体が軽い~!」
と小躍りしていたら、
「おめでとう~。よかったねぇ」
と、五条さんが私に向けてパチパチと拍手した。
「僕も辛かったよ~。僕が美味いもの食べてても、和紗におすそ分けできなかったからさ。何だか食べた気がしなかったし」
「いや、存分に味わってたでしょう・・・。っていうか嫌がらせしてましたよね!?」
「そんなことないって」
「・・・でも今回の件で私、反省しました」
「ん?」
私は少し俯いて言葉を続けた。
「私、東京に来てから毎日楽しくて。浮かれてたなって。糠田が森を護るために呪術を学ぶっていう目標があるのに。なのにそれを脇に置いて、はしゃぎ過ぎました」
今になって、そんな自分が恥ずかしい。
「別にいいんじゃない?」
五条さんがカラッとした口調で言った。
私は顔を上げて目を瞬かせる。
「え・・・」
「僕は嬉しかったけどね。和紗が自分の食べたいものをいっぱい食べたり、友達とあちこち色んな店に出掛けたり、ダイエットに一喜一憂したり、年頃らしく楽しんでるんだなってことがわかって」
「・・・?」
それの何が五条さんは嬉しいんだろう。
すると五条さんは私を見下ろして、
「若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ、何人たりともね」
と言って、二ッと笑った。
だけど、ますますわからない。
「・・・何なんですか、それ」
「要するにぃ、年相応にはしゃいでる和紗は可愛いなーってことだよ」
「・・・からかわないでください」
「からかってないよ~」
「と、とにかく!」
話題を切り替えるべく、私は言った。
「これで服の買い替えをせずに済みそうで良かったです!」
すると、今度は五条さんが不可解そうな顔をした。
「服?」
「私の持ってる服って、中三の頃から着続けてるのがほとんどなんです。肥っちゃってキツくて、このままじゃ全買い替えしなきゃと思ってたから良かった~。出費が重なるとこでした!」
「・・・・・・」
すると、五条さんは深々と溜息を吐きながら言った。
「なるほど。それで和紗の私服はちょっとダサいのか」
「ダサッ!?し、失礼な!」
「よーし。今度洋服買いに行こう!僕が見立ててあげるよ」
「い、いりませんよ!」
「ダーメ。明日にでも買いに行くよ!」
私服センスアップ編につづく・・・かもしれない。
おわり