第39話 死滅回游について
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「ああ、いかにも」
天元が頷く。
「彼女の名は、『蛤具 』」
「うぶみ・・・?」
それが、紗樹ちゃんに受肉した術師の名前か。
「蛤具の術式は、死者を一時的に蘇生する薬を創り出す、『魘魅呪法』。しかし、蘇生といってもそこに意思も魂もない、ただ本能のみで動く屍としてだが」
「・・その蛤具を、紗樹ちゃんから切り離して元に戻すことは出来る?」
という私の問いかけに、天元は少し間を置いて答えた。
「不可能だ」
端的な言葉に、私の目元はピクリと痙攣する。
「受肉された時点で故意であろうがそうでなかろうが魂は殺される。が、君は額多之君を身に宿らせつつも自我を保ち生きている。それは、額多之君が君の身体を乗っ取る意思がないということを置いても、君自身が呪いに対し一種の耐性があるからだ」
「・・・じゃあ」
「君と同じ血を半分引いている妹も、耐性がある可能性はある」
私は密かにグッと拳を握った。
薄っすらと探っていた可能性を引き寄せられた手ごたえがあったからだ。
「じゃあ、紗樹ちゃんはまだ完全に蛤具に受肉されてないのね?」
と言った私に、天元は諫めるように言った。
「あくまでも可能性がある、というだけだ。それも、限りなく小さな」
それでもいい。
はじめからその限りなく小さな可能性に懸けるつもりだった。
「わかりました」
私は言った。
「色々教えてくれてありがとうございます。私、そろそろ行かないと。陵 先生のこと、よろしくお願いします」
「・・・うむ」
続いて、私は九十九さんの方に顔を向けた。
「九十九さん、私、行ってきます」
すると、九十九さんは眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。
そうしてしばし黙り込んでから、
「和紗を見送って来る。すぐに戻る」
と天元に向かって言った。
「ああ」
と天元は答える。
それから、私と九十九さんは昇降機に乗り地上へ戻った。
「ずいぶん砕けた物の言い方でしたね」
と私は言った。
すると、九十九さんは「何のことだ」と言う顔をする。
「九十九さんの天元に話す言葉使い。ビックリしました。いくら九十九さんとはいえ・・・」
「あぁ、アイツとはずいぶん前からの知り合いだからな」
「え、そうなんですか」
「元『星漿体』だから」
「え・・・」
私はハッと息を飲んだ。
だけど、九十九さんは事も無げにもう一度言った。
「私、元『星漿体』だから」
「・・・どうして」
「どうして同化しなかったかって?」
「・・・・・・」
「それは、ひとりの男と恋に落ち愛し合うようになったからさ。私は、使命より愛を選んだんだよ」
と、九十九さんは感傷的な表情で語った。
「・・・そうなんですか」
そんな過去が九十九さんにあったとは。
意外だけど、どこか人間臭いエピソードが九十九さんにもあることが嬉しかった。
「それで、その男の人とは・・・」
「な~んてね、ウッソ~!」
「え・・・」
見ると、九十九さんはいつものおどけたような笑顔に戻っている。
「冗談冗談。そんなメロドラマみたいなことあるわけないじゃん!」
「・・・そうですか」
私は呆れかえって溜息をついた。
やっぱり、この人はこういう人だ。
が、すぐにまた九十九さんは改まった様子で口を開いた。
「・・・同じ時期にもう一人『星漿体』がいてね。特級術師の私より、非術師である彼あるいは彼女の方を同化させた方が都合良いって高専上層部が決定したんだ」
「・・・・・・」
「そのもう一人の『星漿体』は、私の身代わりになったようなもんだ」
そう言った九十九さんの口調は、どこか苦しそうだった。
「『星漿体』である必要がなくなった私は、代わりにあちこちの任務に飛ばされるようになった。『星漿体』でなくなった代わりに、高専にとって都合のいい呪霊駆逐マシンになった。それがある日、プチンときちゃってね。全ての任務をブッチして海外に出奔してやったんだ」
天元が頷く。
「彼女の名は、『
「うぶみ・・・?」
それが、紗樹ちゃんに受肉した術師の名前か。
「蛤具の術式は、死者を一時的に蘇生する薬を創り出す、『魘魅呪法』。しかし、蘇生といってもそこに意思も魂もない、ただ本能のみで動く屍としてだが」
「・・その蛤具を、紗樹ちゃんから切り離して元に戻すことは出来る?」
という私の問いかけに、天元は少し間を置いて答えた。
「不可能だ」
端的な言葉に、私の目元はピクリと痙攣する。
「受肉された時点で故意であろうがそうでなかろうが魂は殺される。が、君は額多之君を身に宿らせつつも自我を保ち生きている。それは、額多之君が君の身体を乗っ取る意思がないということを置いても、君自身が呪いに対し一種の耐性があるからだ」
「・・・じゃあ」
「君と同じ血を半分引いている妹も、耐性がある可能性はある」
私は密かにグッと拳を握った。
薄っすらと探っていた可能性を引き寄せられた手ごたえがあったからだ。
「じゃあ、紗樹ちゃんはまだ完全に蛤具に受肉されてないのね?」
と言った私に、天元は諫めるように言った。
「あくまでも可能性がある、というだけだ。それも、限りなく小さな」
それでもいい。
はじめからその限りなく小さな可能性に懸けるつもりだった。
「わかりました」
私は言った。
「色々教えてくれてありがとうございます。私、そろそろ行かないと。
「・・・うむ」
続いて、私は九十九さんの方に顔を向けた。
「九十九さん、私、行ってきます」
すると、九十九さんは眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。
そうしてしばし黙り込んでから、
「和紗を見送って来る。すぐに戻る」
と天元に向かって言った。
「ああ」
と天元は答える。
それから、私と九十九さんは昇降機に乗り地上へ戻った。
「ずいぶん砕けた物の言い方でしたね」
と私は言った。
すると、九十九さんは「何のことだ」と言う顔をする。
「九十九さんの天元に話す言葉使い。ビックリしました。いくら九十九さんとはいえ・・・」
「あぁ、アイツとはずいぶん前からの知り合いだからな」
「え、そうなんですか」
「元『星漿体』だから」
「え・・・」
私はハッと息を飲んだ。
だけど、九十九さんは事も無げにもう一度言った。
「私、元『星漿体』だから」
「・・・どうして」
「どうして同化しなかったかって?」
「・・・・・・」
「それは、ひとりの男と恋に落ち愛し合うようになったからさ。私は、使命より愛を選んだんだよ」
と、九十九さんは感傷的な表情で語った。
「・・・そうなんですか」
そんな過去が九十九さんにあったとは。
意外だけど、どこか人間臭いエピソードが九十九さんにもあることが嬉しかった。
「それで、その男の人とは・・・」
「な~んてね、ウッソ~!」
「え・・・」
見ると、九十九さんはいつものおどけたような笑顔に戻っている。
「冗談冗談。そんなメロドラマみたいなことあるわけないじゃん!」
「・・・そうですか」
私は呆れかえって溜息をついた。
やっぱり、この人はこういう人だ。
が、すぐにまた九十九さんは改まった様子で口を開いた。
「・・・同じ時期にもう一人『星漿体』がいてね。特級術師の私より、非術師である彼あるいは彼女の方を同化させた方が都合良いって高専上層部が決定したんだ」
「・・・・・・」
「そのもう一人の『星漿体』は、私の身代わりになったようなもんだ」
そう言った九十九さんの口調は、どこか苦しそうだった。
「『星漿体』である必要がなくなった私は、代わりにあちこちの任務に飛ばされるようになった。『星漿体』でなくなった代わりに、高専にとって都合のいい呪霊駆逐マシンになった。それがある日、プチンときちゃってね。全ての任務をブッチして海外に出奔してやったんだ」