第38話 額多之君
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男達も額多之君の姿を見てはじめは驚いた顔をしていたが、すぐに暗く鋭い目で額多之君を見据えた。
「よくも俺たちを騙したな。手間を取らせやがって」
男の一人が言った。
「まぁ、いい。お前を探す手間は省けた」
そう言いながら、三人は額多之君を取り囲む。
「もう一人、ばばぁがいただろ?どこ行った」
「・・・何をする気じゃ」
「お前もばばぁも病を伝染されたんだろ?あの娘から」
「・・・・・・」
「これ以上、村に病を拡げないためだ。お前達も始末させてもらう」
「・・・きよは」
「あ?」
「きよに、何をした」
血走る目で、額多之君は男たちを見据えた。
男達は、短刀を鞘から抜き額多之君へ向けた。
「なぁに、すぐにあの世で会えるさ。これ以上病に苦しむことなくな」
その言葉が終わった瞬間、男の命も終わりの瞬間を迎えた。
男の身体がドサッと倒れ込んだ次の瞬間も、残りの二人に恐怖する間も与えることなく、殺めた。
「・・・きよ」
返り血を気にすることなく、額多之君は駆け出した。
帰り着いた時には、既に屋敷はまるごと炎に包まれていた。
「きよ!」
逃げてどこかに隠れているのではないかと大声で呼びかける。
しかし、返事は返ってこなかった。
屋敷の全てが焼け落ち灰になった頃、その中に小さな亡骸を見つけたのは、夜中のことだった。
「・・・あぁ・・・」
身体中に何かが渦巻き始める。
「ああっ、あ、ああああああっ!!」
まるで蛇がとぐろを巻く様に、どす黒いものが渦巻いて身体を埋め尽くしていく。
それが、人の赤い血の色を黒く塗り替えていく。
それは、憎しみであり、苦しみであり、悲しみであり、悔恨だった。
もう、生きていたくない。
そう思うのに、身体に力が満ち満ちていくのを感じる。
あぁ、これが呪いか。
呪いが、私を生かそうとしているのだ。
『姫様の中の呪いが姫様を中から食いちぎって、姫様自身が呪いとなってしまいます』
すまぬ、まつ。
ああ言って私を案じてくれていたのに。
私は抗えない。
私は、もう人ではなくなってしまう。
堕天の声が聞こえる。
『その身に渦巻く哀しみ、妬み、苦しみ、憎しみ・・・。何故それを己が身に向ける』
その言葉の後の、口にしなかった続きを。
『それを向けるべきは、お前を憐れみ貶めようとするものにだ。それらの全てを破壊し、蹂躙し、排除するために』
目が覚めると、泣いていた。
一筋の涙が流れて、頬を濡らしている。
(夢・・・)
いや、あれは額多之君の過去の記憶だ。
どんな言い伝えにも語られることのなかった、どの文献にも記されることのなかった、額多之君の真実。
涙が止まらない。
溢れる涙が額多之君のものなのか自分自身のものなのか曖昧になっていた。
私は、どこからか記憶の中で額多之君に深くシンクロしていた。
「・・・・・」
涙を拭いて、時計を見た。
夜中の4時。まだ夜明け前だ。
それでももう眠れそうになかった。
私はベッドから起き上がり、部屋を出た。
(いたた・・・)
全身が筋肉痛と打撲で痛む。
前日は真希ちゃんに稽古をつけてもらった。
リハビリ代わりといいつつも、真希ちゃんはフルスロットルで、私はぼこぼこにされる一方だった。
(たった一日でこのザマかぁ)
自分の貧弱さを情けなく思いながら、私は地下から地上階へ続く階段を駆け上がった。
ずっと地下に居るので気分転換がしたかった。
こんな夜明け前なら、総監部の人間と出くわすこともないだろう。
少しの間外に出て、新鮮な空気を吸うことにした。
「ん~~~っ!」
外に出て、思い切り背伸びをした。
冷たい空気は新鮮で、薄っすらと日が昇り始めた空は綺麗だ。
(なんだかラジオ体操したい気分だな~)
と、頭の中で音楽を鳴らし始めた時だった。
鳥居の向こうに人影が見えた。
人影は四つ。
朝日を背にして、こちらにゆっくりと近づいて来る。
「・・・・・・」
私は少し警戒して身構える。
しかし、その顔が見えてくると、私は安堵して警戒を解いた。
「伏黒君、乙骨君」
そして───。
「鶴來さん」
と伏黒君が呼んで、その傍で乙骨君が微笑む。
その少し離れた後ろに、脹相がいる。
だけど、私が真っ先に駆け寄ったのは。
「悠仁君」
一番後ろにいる悠仁君だった。
「和紗さん」
悠仁君は、叱られるのを怯える子どもの様な目で、私を見つめている。
だけど、私は両手を悠仁君の首に回して抱き着いた。
それは予想外だったようで、悠仁君はたじろいだ。
「和紗さん?」
「・・・で」
「え?」
「もう一緒に居られないなんて言わないで」
そう私が言うと、
「うん・・・ごめん・・・」
と、悠仁君は私を抱き返し頭を撫でた。
私はグスッと鼻を鳴らして言った。
「おかえり、悠仁君」
つづく
「よくも俺たちを騙したな。手間を取らせやがって」
男の一人が言った。
「まぁ、いい。お前を探す手間は省けた」
そう言いながら、三人は額多之君を取り囲む。
「もう一人、ばばぁがいただろ?どこ行った」
「・・・何をする気じゃ」
「お前もばばぁも病を伝染されたんだろ?あの娘から」
「・・・・・・」
「これ以上、村に病を拡げないためだ。お前達も始末させてもらう」
「・・・きよは」
「あ?」
「きよに、何をした」
血走る目で、額多之君は男たちを見据えた。
男達は、短刀を鞘から抜き額多之君へ向けた。
「なぁに、すぐにあの世で会えるさ。これ以上病に苦しむことなくな」
その言葉が終わった瞬間、男の命も終わりの瞬間を迎えた。
男の身体がドサッと倒れ込んだ次の瞬間も、残りの二人に恐怖する間も与えることなく、殺めた。
「・・・きよ」
返り血を気にすることなく、額多之君は駆け出した。
帰り着いた時には、既に屋敷はまるごと炎に包まれていた。
「きよ!」
逃げてどこかに隠れているのではないかと大声で呼びかける。
しかし、返事は返ってこなかった。
屋敷の全てが焼け落ち灰になった頃、その中に小さな亡骸を見つけたのは、夜中のことだった。
「・・・あぁ・・・」
身体中に何かが渦巻き始める。
「ああっ、あ、ああああああっ!!」
まるで蛇がとぐろを巻く様に、どす黒いものが渦巻いて身体を埋め尽くしていく。
それが、人の赤い血の色を黒く塗り替えていく。
それは、憎しみであり、苦しみであり、悲しみであり、悔恨だった。
もう、生きていたくない。
そう思うのに、身体に力が満ち満ちていくのを感じる。
あぁ、これが呪いか。
呪いが、私を生かそうとしているのだ。
『姫様の中の呪いが姫様を中から食いちぎって、姫様自身が呪いとなってしまいます』
すまぬ、まつ。
ああ言って私を案じてくれていたのに。
私は抗えない。
私は、もう人ではなくなってしまう。
堕天の声が聞こえる。
『その身に渦巻く哀しみ、妬み、苦しみ、憎しみ・・・。何故それを己が身に向ける』
その言葉の後の、口にしなかった続きを。
『それを向けるべきは、お前を憐れみ貶めようとするものにだ。それらの全てを破壊し、蹂躙し、排除するために』
目が覚めると、泣いていた。
一筋の涙が流れて、頬を濡らしている。
(夢・・・)
いや、あれは額多之君の過去の記憶だ。
どんな言い伝えにも語られることのなかった、どの文献にも記されることのなかった、額多之君の真実。
涙が止まらない。
溢れる涙が額多之君のものなのか自分自身のものなのか曖昧になっていた。
私は、どこからか記憶の中で額多之君に深くシンクロしていた。
「・・・・・」
涙を拭いて、時計を見た。
夜中の4時。まだ夜明け前だ。
それでももう眠れそうになかった。
私はベッドから起き上がり、部屋を出た。
(いたた・・・)
全身が筋肉痛と打撲で痛む。
前日は真希ちゃんに稽古をつけてもらった。
リハビリ代わりといいつつも、真希ちゃんはフルスロットルで、私はぼこぼこにされる一方だった。
(たった一日でこのザマかぁ)
自分の貧弱さを情けなく思いながら、私は地下から地上階へ続く階段を駆け上がった。
ずっと地下に居るので気分転換がしたかった。
こんな夜明け前なら、総監部の人間と出くわすこともないだろう。
少しの間外に出て、新鮮な空気を吸うことにした。
「ん~~~っ!」
外に出て、思い切り背伸びをした。
冷たい空気は新鮮で、薄っすらと日が昇り始めた空は綺麗だ。
(なんだかラジオ体操したい気分だな~)
と、頭の中で音楽を鳴らし始めた時だった。
鳥居の向こうに人影が見えた。
人影は四つ。
朝日を背にして、こちらにゆっくりと近づいて来る。
「・・・・・・」
私は少し警戒して身構える。
しかし、その顔が見えてくると、私は安堵して警戒を解いた。
「伏黒君、乙骨君」
そして───。
「鶴來さん」
と伏黒君が呼んで、その傍で乙骨君が微笑む。
その少し離れた後ろに、脹相がいる。
だけど、私が真っ先に駆け寄ったのは。
「悠仁君」
一番後ろにいる悠仁君だった。
「和紗さん」
悠仁君は、叱られるのを怯える子どもの様な目で、私を見つめている。
だけど、私は両手を悠仁君の首に回して抱き着いた。
それは予想外だったようで、悠仁君はたじろいだ。
「和紗さん?」
「・・・で」
「え?」
「もう一緒に居られないなんて言わないで」
そう私が言うと、
「うん・・・ごめん・・・」
と、悠仁君は私を抱き返し頭を撫でた。
私はグスッと鼻を鳴らして言った。
「おかえり、悠仁君」
つづく
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