第38話 額多之君
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「きよ!」
額多之君は縁側から飛び降りると、きよの元まで走っていった。
駆けつけると、きよは嬉しそうにふっと笑った後、ふらりと額多之君に倒れかかった。
「きよ!」
なんとか抱き留めると、額多之君は驚き息を飲んだ。
きよの身体が燃えるように熱い。
「姫 様・・・」
「まつ、きよの身体が熱い」
「え・・・」
「屋敷に運ぶ。まつは身体を冷やす水を用意しておくれ」
「は、はい」
まつは一足先に屋敷へ戻っていく。
額多之君はまるで焼いた炭のように熱いきよの身体を抱き上げて、覚束ない足取りでその後に続いた。
「・・・父 が・・・」
はぁはぁと荒い息遣いの合間に、きよが話し始めた。
「父が町から帰ってから・・・熱を出して、そしたら母 も、そしたら、ウチも妹も弟も・・・」
「話さなくていい。体力をうしなうぞ」
「看病したけど・・・みんな動かなくなって・・・」
「もういい」
額多之君は断ち切る様に言った。
「お前はもう何も不安がることはない。わらわがここにいる」
すると、きよはフッと笑みを浮かべた後気を失ったようで、眠りに落ちていった。
屋敷に戻り、きよを布団に寝かしつけた後。
間を置かず、三人の見知らぬ顔の男たちが屋敷を尋ねてきた。
「ここにひとり小娘が来なかったか。齢は十を数えたぐらいの」
男達は素性を明かすこともせず、突然そう切り出した。
何か急いでいるとも見えたが、
「無礼者。まずはおぬしたちが名乗るのが人に物を尋ねる際の礼儀であろう」
と額多之君は叱責した。
すると三人のうちの一番若い者が「何だと」とカッして突っかかってきたが、
「それはすまない。俺達はこの先にある村のもんだ」
年長者と思しき男がそれを制して、事情を話し始めた。
「村のとある家のもんが、町に出稼ぎに行って、疫病を持ち帰って来やがったんだ。その家族を隔離して家も封鎖してたんだがな、一家は皆死んじまってな。家ごと燃やそうとしたら、娘がひとりいねぇって話になってな。どうやら逃げ出しちまったらしい。病を撒き散らされるようなことになったらたまらん。とっつかまえようと探してるのさ」
話を聞いていて、血の気が引いていくのがわかった。
疫病というおそろしい響き。
そして、この連中はきよを「始末」するために探しているということに。
それでも、精一杯冷静を装って知らないと答えて男たちを追い返した。
「ひ、姫様」
まつが狼狽えながら言った。
「きよはここに置いて、私達も避難しましょう」
「まつ、おぬし一人で行け。わらわはここに残る」
「何を言って・・・!疫病ですよ?このままじゃ私達も・・・!」
「まつ」
額多之君は言った。
「これは、わらわの罪であり罰であり報いであり・・・そして幸せなのじゃ」
「姫様」
「このまま、きよもわらわも病に倒れようとも、こうすることが、祈る事よりもなによりも、わらわの取るべき行いなのじゃ」
「・・・・・・」
「行け。きよは、わらわが看る」
と、額多之君はきよの傍に座り込み、額にあてた布を水につけて冷やし直す。
「~~~っっ、ああ、もう!」
まつは水桶を乱暴に取り上げた後、
「汲み直して来ます!」
と立ち去って行った。
それから寝ずの番で、額多之君はきよの看病を続けた。
まつも距離を取りながらも、その手助けを続けた。
きよの熱はなかなか下がらず、咳も絶え間なく続いた。
そんな状態が三日三晩続いたある日。
「ゴホッ、ゴホッ」
ついに額多之君にも病が伝染ってしまったらしく、咳が出始めた。全身が熱く、重い。
(まずい・・・)
朦朧としながらも、きよの額の布を取り替えた時だった。
「姫・・・さ、ま」
ずっと気を失っていたきよが、うっすらと目を開いた。
「きよ・・・」
もっと喜びたいのに、身体が重く意識もおぼつかない。
それでも、これだけは伝えなければ。
額多之君は、きよの手を手繰り自分の頬に寄せて言った。
「わらわの子になれ。家族になろう」
すると、きよは弱弱しくも「うん」と頷いた。
それを見た額多之君は、ふっと微笑んだ後、緩やかに意識を失っていった。
額多之君は縁側から飛び降りると、きよの元まで走っていった。
駆けつけると、きよは嬉しそうにふっと笑った後、ふらりと額多之君に倒れかかった。
「きよ!」
なんとか抱き留めると、額多之君は驚き息を飲んだ。
きよの身体が燃えるように熱い。
「
「まつ、きよの身体が熱い」
「え・・・」
「屋敷に運ぶ。まつは身体を冷やす水を用意しておくれ」
「は、はい」
まつは一足先に屋敷へ戻っていく。
額多之君はまるで焼いた炭のように熱いきよの身体を抱き上げて、覚束ない足取りでその後に続いた。
「・・・
はぁはぁと荒い息遣いの合間に、きよが話し始めた。
「父が町から帰ってから・・・熱を出して、そしたら
「話さなくていい。体力をうしなうぞ」
「看病したけど・・・みんな動かなくなって・・・」
「もういい」
額多之君は断ち切る様に言った。
「お前はもう何も不安がることはない。わらわがここにいる」
すると、きよはフッと笑みを浮かべた後気を失ったようで、眠りに落ちていった。
屋敷に戻り、きよを布団に寝かしつけた後。
間を置かず、三人の見知らぬ顔の男たちが屋敷を尋ねてきた。
「ここにひとり小娘が来なかったか。齢は十を数えたぐらいの」
男達は素性を明かすこともせず、突然そう切り出した。
何か急いでいるとも見えたが、
「無礼者。まずはおぬしたちが名乗るのが人に物を尋ねる際の礼儀であろう」
と額多之君は叱責した。
すると三人のうちの一番若い者が「何だと」とカッして突っかかってきたが、
「それはすまない。俺達はこの先にある村のもんだ」
年長者と思しき男がそれを制して、事情を話し始めた。
「村のとある家のもんが、町に出稼ぎに行って、疫病を持ち帰って来やがったんだ。その家族を隔離して家も封鎖してたんだがな、一家は皆死んじまってな。家ごと燃やそうとしたら、娘がひとりいねぇって話になってな。どうやら逃げ出しちまったらしい。病を撒き散らされるようなことになったらたまらん。とっつかまえようと探してるのさ」
話を聞いていて、血の気が引いていくのがわかった。
疫病というおそろしい響き。
そして、この連中はきよを「始末」するために探しているということに。
それでも、精一杯冷静を装って知らないと答えて男たちを追い返した。
「ひ、姫様」
まつが狼狽えながら言った。
「きよはここに置いて、私達も避難しましょう」
「まつ、おぬし一人で行け。わらわはここに残る」
「何を言って・・・!疫病ですよ?このままじゃ私達も・・・!」
「まつ」
額多之君は言った。
「これは、わらわの罪であり罰であり報いであり・・・そして幸せなのじゃ」
「姫様」
「このまま、きよもわらわも病に倒れようとも、こうすることが、祈る事よりもなによりも、わらわの取るべき行いなのじゃ」
「・・・・・・」
「行け。きよは、わらわが看る」
と、額多之君はきよの傍に座り込み、額にあてた布を水につけて冷やし直す。
「~~~っっ、ああ、もう!」
まつは水桶を乱暴に取り上げた後、
「汲み直して来ます!」
と立ち去って行った。
それから寝ずの番で、額多之君はきよの看病を続けた。
まつも距離を取りながらも、その手助けを続けた。
きよの熱はなかなか下がらず、咳も絶え間なく続いた。
そんな状態が三日三晩続いたある日。
「ゴホッ、ゴホッ」
ついに額多之君にも病が伝染ってしまったらしく、咳が出始めた。全身が熱く、重い。
(まずい・・・)
朦朧としながらも、きよの額の布を取り替えた時だった。
「姫・・・さ、ま」
ずっと気を失っていたきよが、うっすらと目を開いた。
「きよ・・・」
もっと喜びたいのに、身体が重く意識もおぼつかない。
それでも、これだけは伝えなければ。
額多之君は、きよの手を手繰り自分の頬に寄せて言った。
「わらわの子になれ。家族になろう」
すると、きよは弱弱しくも「うん」と頷いた。
それを見た額多之君は、ふっと微笑んだ後、緩やかに意識を失っていった。