第38話 額多之君
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「・・・僕は『みささぎ』のお陰で助かったんだと思う。でも気を失って、目を覚ましたら・・・辺りは建物も大勢いた人も・・・母さんも祐平も・・・消えて、何もなくなっていて・・・」
と、ここまで話して陵先生は再びむせび泣き続けた。
「・・・・・・」
かける言葉がなくて、私は陵先生の手にそっと自分の手を重ねた。
すると、陵先生はゆっくりと私の方へ視線を向けた。
私は、ただ黙って陵先生を見返した。
その時だった。
「・・・っ」
ガバッと起き上がって、陵先生は私の腰元に縋りつく様に抱きついた。
思わぬ行動に、私は驚き戸惑い立ち尽くす。
「う、うぅ、う、うわぁあぁぁあ・・・」
陵先生の慟哭が、身体に伝わってきて心が痛む。
それでも私はかける言葉を見つけられなくて、言葉の代わりに両手で陵先生を抱き締めた。
それからほどなくして、陵先生は私に縋りついたまま再び眠りに落ちてしまった。
私は陵先生の身体をベッドに横たわらせて、そっと掛け布団をかけた。
「・・・おやすみなさい」
これくらいのことしか言えない自分が情けない。
私は、物音を立てないようにして部屋を出た。
「和紗~!」
部屋を出るなり、九十九さんがこちらに駆けつけてきた。
「どう?彼の様子は」
「少しだけ話が出来ました。でも、すぐにまた眠ってしまって」
「そっか。家入医師も安静に過ごしていれば次第に回復するって言ってたよ」
「はい・・・」
でも、身体の傷は治っても心は・・・。
「回復と言えばぁ」
と九十九さんが唐突に話を切り出してきて、私はハタと顔を上げた。
「え?」
「彼女も無事退院したそうだよ」
「え・・・」
「真希?真依?どっちだったっけ?禪院家のお嬢様が退院して戻って来たって」
「真希ちゃんが?」
「あ、そうそう。真希の方だ」
「高専にいるんですか?」
「うん、道場にいるって」
と九十九さんが言い終わらぬうちに、私は駆けだして道場の方へ向かっていた。
道場に辿り着き扉を開くと、ブンブンと何かが風を斬る音が聞こえてきた。
見て見ると、真希ちゃんが槍を振り回しているのが見えた。
「真希ちゃん・・・」
長かった髪は短くなっていて、身体中の火傷の痕は残っている。美しい顔にもそれは残っていて、顔の半分をガーゼが覆っていた。
だけど、以前と変わらない力強い動きを見て、私は嬉しくて思わず涙ぐんでいた。
そんな時だった。
カランと音を立てて槍を落とし、真希ちゃんは片膝をついてしまった。
私は慌てて真希ちゃんに駆け寄った。
「真希ちゃん」
呼びかけると、真希ちゃんが顔を上げてこちらを見た。
「和紗さん・・・」
真希ちゃんは驚いて眼鏡の奥の左目を丸めた。
私は微笑んだ後、真希ちゃんに肩を貸して立ちあがるのを助ける。
「駄目だよ、無茶したら。退院したばかりなんでしょ」
「和紗さん、どうしてここに。故郷に帰ったんじゃ」
「帰らないよ」
「でも、悟は・・・」
「私はここにいるよ。私は高専の皆が大切だもん」
私は言った。
「皆は、五条さんの夢だもの。五条さんがいない今、尚更一緒にいて皆の力になりたい」
すると、真希ちゃんは「そうか」と頷いた。
そして、話を続けた。
「そうだ、礼を言いたかった。渋谷で和紗さんが反転術式で応急措置を続けてくれたから助かったんだって、家入さんが・・・」
「ううん、お礼なんて。真依ちゃんとは会えた?」
「あぁ、退院後少しだけ。京都校の連中は京都に戻ったから」
「そうなんだ」
ふっと思い出して、私は言った。
「そうだ、乙骨君に会ったよ。病院で。真希ちゃんのことお見舞いに来てたの」
「憂太が?」
「うん。とても心配してた真希ちゃんのこと」
「憂太は今何処に?」
「伏黒君と一緒に悠仁君を探してて・・・」
「悠仁を?アイツ、高専に戻ってないんですか?」
「あ・・・」
言ってから、口が滑ったと思った。
宿儺の渋谷での所業の責任を感じて姿を消したなんて話せないのに。
と、ここまで話して陵先生は再びむせび泣き続けた。
「・・・・・・」
かける言葉がなくて、私は陵先生の手にそっと自分の手を重ねた。
すると、陵先生はゆっくりと私の方へ視線を向けた。
私は、ただ黙って陵先生を見返した。
その時だった。
「・・・っ」
ガバッと起き上がって、陵先生は私の腰元に縋りつく様に抱きついた。
思わぬ行動に、私は驚き戸惑い立ち尽くす。
「う、うぅ、う、うわぁあぁぁあ・・・」
陵先生の慟哭が、身体に伝わってきて心が痛む。
それでも私はかける言葉を見つけられなくて、言葉の代わりに両手で陵先生を抱き締めた。
それからほどなくして、陵先生は私に縋りついたまま再び眠りに落ちてしまった。
私は陵先生の身体をベッドに横たわらせて、そっと掛け布団をかけた。
「・・・おやすみなさい」
これくらいのことしか言えない自分が情けない。
私は、物音を立てないようにして部屋を出た。
「和紗~!」
部屋を出るなり、九十九さんがこちらに駆けつけてきた。
「どう?彼の様子は」
「少しだけ話が出来ました。でも、すぐにまた眠ってしまって」
「そっか。家入医師も安静に過ごしていれば次第に回復するって言ってたよ」
「はい・・・」
でも、身体の傷は治っても心は・・・。
「回復と言えばぁ」
と九十九さんが唐突に話を切り出してきて、私はハタと顔を上げた。
「え?」
「彼女も無事退院したそうだよ」
「え・・・」
「真希?真依?どっちだったっけ?禪院家のお嬢様が退院して戻って来たって」
「真希ちゃんが?」
「あ、そうそう。真希の方だ」
「高専にいるんですか?」
「うん、道場にいるって」
と九十九さんが言い終わらぬうちに、私は駆けだして道場の方へ向かっていた。
道場に辿り着き扉を開くと、ブンブンと何かが風を斬る音が聞こえてきた。
見て見ると、真希ちゃんが槍を振り回しているのが見えた。
「真希ちゃん・・・」
長かった髪は短くなっていて、身体中の火傷の痕は残っている。美しい顔にもそれは残っていて、顔の半分をガーゼが覆っていた。
だけど、以前と変わらない力強い動きを見て、私は嬉しくて思わず涙ぐんでいた。
そんな時だった。
カランと音を立てて槍を落とし、真希ちゃんは片膝をついてしまった。
私は慌てて真希ちゃんに駆け寄った。
「真希ちゃん」
呼びかけると、真希ちゃんが顔を上げてこちらを見た。
「和紗さん・・・」
真希ちゃんは驚いて眼鏡の奥の左目を丸めた。
私は微笑んだ後、真希ちゃんに肩を貸して立ちあがるのを助ける。
「駄目だよ、無茶したら。退院したばかりなんでしょ」
「和紗さん、どうしてここに。故郷に帰ったんじゃ」
「帰らないよ」
「でも、悟は・・・」
「私はここにいるよ。私は高専の皆が大切だもん」
私は言った。
「皆は、五条さんの夢だもの。五条さんがいない今、尚更一緒にいて皆の力になりたい」
すると、真希ちゃんは「そうか」と頷いた。
そして、話を続けた。
「そうだ、礼を言いたかった。渋谷で和紗さんが反転術式で応急措置を続けてくれたから助かったんだって、家入さんが・・・」
「ううん、お礼なんて。真依ちゃんとは会えた?」
「あぁ、退院後少しだけ。京都校の連中は京都に戻ったから」
「そうなんだ」
ふっと思い出して、私は言った。
「そうだ、乙骨君に会ったよ。病院で。真希ちゃんのことお見舞いに来てたの」
「憂太が?」
「うん。とても心配してた真希ちゃんのこと」
「憂太は今何処に?」
「伏黒君と一緒に悠仁君を探してて・・・」
「悠仁を?アイツ、高専に戻ってないんですか?」
「あ・・・」
言ってから、口が滑ったと思った。
宿儺の渋谷での所業の責任を感じて姿を消したなんて話せないのに。