第38話 額多之君
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「まさかこのまま仙台に行くつもりじゃないだろうね」
目抜通りに出たあたりで、九十九さんが言った。
私は立ち止まり、九十九さんの方を振り向いた。
九十九さんは厳しい表情で私を見つめ返す。
「今度ばかりは私も賛成しかねるね。このまま仙台に行くの無謀だ。私達はあまりにも『死滅回游』について知らな過ぎる」
「じゃあどうしろと?」
「一度東京に戻って、呪術高専で伏黒君達の帰りを待つ。合流したら、天元と接触する。そして情報を集める」
「・・・・・・」
「それに、術式を取り戻したとはいえ、まだ使いこなせていないと自分でもわかってるだろ?修行が必要だ。術式だけじゃなく、体術とか白兵戦に備えて鍛える必要がある」
「・・・・・・」
「そう焦るな、和紗」
闘う為の力を手に入れたはずなのに、私はまだ無力だ。
今すぐ駆けつけて助けたいのに。
紗樹ちゃんのことも。
五条さんのことだって。
歯がゆい思いのまま、私と九十九さんは東京に戻った。
呪術高専に戻ったのは、その日の夕方のことだった。
まだ伏黒君達は戻っていなかった。
「はぁ~~~、つっかれたぁ」
さすがに疲れ果てて、九十九さん共々娯楽室のソファに倒れ込んでいたら、
「和紗」
硝子さんが駆けつけてきた。
「硝子さん」
私はムクリと身体を起こした。
硝子さんは私の顔を見ると、ホッとしたようにひとつ溜息を吐いた。
「どこで何してたかはもう訊かないよ」
「・・・・・・」
「おかえり」
そして、今度は九十九さんに向かって言った。
「九十九さん、和紗を変なことに巻き込まないで下さいよ」
「とんでもない。巻き込まれてるのは私の方だよ~」
「・・・すみません」
ふたりの会話に私はいたたまれなく小さくなる。
しかし、すぐにハッとして尋ねた。
「硝子さん!陵 先生は・・・陵先生がここに運ばれてきませんでしたか?」
「あぁ、そのことを伝えに来たんだ」
硝子さんは頷きつつ言った。
「彼のことは医務室で保護しているよ」
その言葉を聞いた後、私はすぐに医務室へ駆けつけた。
そっとドアを開けて中を伺う。
陵先生は眠っているのか静かだ。
私はそっと中に入り、物音を立てないように後ろ手でドアを閉めた。
「先生・・・」
部屋に置かれたベッドに歩み寄る。
陵先生は静かな寝息を立てて眠っている。
顔こそ小さな切り傷だらけだけれど、思ったより顔色は良い。
私は安堵の息を吐いた。
(よく無事で・・・)
あの苛烈な渋谷をよく生き残ってくれた。
その一方で、先生のお母様と弟の祐平さんのことが過ぎった。
先生は二人と会えたのだろうか。
「う・・・」
声が聞こえて、私は我に返った。
見ると、目を覚ました陵先生と目が合った。
「鶴來さん・・・」
「陵先生」
私は身を乗り出し呼びかけた。
「よかった、目が覚めて」
だけど、まだ意識が朦朧としているのか陵先生は反応を示さない。
私は引き続き呼びかけた。
「ここは呪術高専です。一度来たことありますよね」
「・・・・・・」
「先生、渋谷で倒れていたのを助けられたんです。ラルゥっていう人に。九十九さんのお友達で。あ、九十九さんっていうのは・・・」
「・・・渋谷・・・」
そう呟くと、
「あ、あ、うぁ、わあああああっ・・・!」
陵先生は、両手で顔を覆って嗚咽した。
「先生?」
私は驚きながらも、陵先生に呼びかけた。
「大丈夫ですか?」
「あぁっ・・・あぁ~~っ・・・」
「陵先生・・・」
しばらく嗚咽が続いた後、
「・・・母さんと祐平は死んだ・・・」
消え入りそうな声で、陵先生は言った。
それを聞いて、私の顔は強張る。
「目の前にいた。声を掛けて、二人が振り向いた時だった。急に、辺りがバラバラになって吹き飛んで・・・」
「・・・・・・」
聞いていると、自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
だけど、それは想定外ではなかった。
『俺は、渋谷で沢山の人を殺した』
『久方振りに、有象無象の人間共を屠った』
悠仁君と宿儺の言葉。
出来ることならば、知りたくなかった事実だった。
目抜通りに出たあたりで、九十九さんが言った。
私は立ち止まり、九十九さんの方を振り向いた。
九十九さんは厳しい表情で私を見つめ返す。
「今度ばかりは私も賛成しかねるね。このまま仙台に行くの無謀だ。私達はあまりにも『死滅回游』について知らな過ぎる」
「じゃあどうしろと?」
「一度東京に戻って、呪術高専で伏黒君達の帰りを待つ。合流したら、天元と接触する。そして情報を集める」
「・・・・・・」
「それに、術式を取り戻したとはいえ、まだ使いこなせていないと自分でもわかってるだろ?修行が必要だ。術式だけじゃなく、体術とか白兵戦に備えて鍛える必要がある」
「・・・・・・」
「そう焦るな、和紗」
闘う為の力を手に入れたはずなのに、私はまだ無力だ。
今すぐ駆けつけて助けたいのに。
紗樹ちゃんのことも。
五条さんのことだって。
歯がゆい思いのまま、私と九十九さんは東京に戻った。
呪術高専に戻ったのは、その日の夕方のことだった。
まだ伏黒君達は戻っていなかった。
「はぁ~~~、つっかれたぁ」
さすがに疲れ果てて、九十九さん共々娯楽室のソファに倒れ込んでいたら、
「和紗」
硝子さんが駆けつけてきた。
「硝子さん」
私はムクリと身体を起こした。
硝子さんは私の顔を見ると、ホッとしたようにひとつ溜息を吐いた。
「どこで何してたかはもう訊かないよ」
「・・・・・・」
「おかえり」
そして、今度は九十九さんに向かって言った。
「九十九さん、和紗を変なことに巻き込まないで下さいよ」
「とんでもない。巻き込まれてるのは私の方だよ~」
「・・・すみません」
ふたりの会話に私はいたたまれなく小さくなる。
しかし、すぐにハッとして尋ねた。
「硝子さん!
「あぁ、そのことを伝えに来たんだ」
硝子さんは頷きつつ言った。
「彼のことは医務室で保護しているよ」
その言葉を聞いた後、私はすぐに医務室へ駆けつけた。
そっとドアを開けて中を伺う。
陵先生は眠っているのか静かだ。
私はそっと中に入り、物音を立てないように後ろ手でドアを閉めた。
「先生・・・」
部屋に置かれたベッドに歩み寄る。
陵先生は静かな寝息を立てて眠っている。
顔こそ小さな切り傷だらけだけれど、思ったより顔色は良い。
私は安堵の息を吐いた。
(よく無事で・・・)
あの苛烈な渋谷をよく生き残ってくれた。
その一方で、先生のお母様と弟の祐平さんのことが過ぎった。
先生は二人と会えたのだろうか。
「う・・・」
声が聞こえて、私は我に返った。
見ると、目を覚ました陵先生と目が合った。
「鶴來さん・・・」
「陵先生」
私は身を乗り出し呼びかけた。
「よかった、目が覚めて」
だけど、まだ意識が朦朧としているのか陵先生は反応を示さない。
私は引き続き呼びかけた。
「ここは呪術高専です。一度来たことありますよね」
「・・・・・・」
「先生、渋谷で倒れていたのを助けられたんです。ラルゥっていう人に。九十九さんのお友達で。あ、九十九さんっていうのは・・・」
「・・・渋谷・・・」
そう呟くと、
「あ、あ、うぁ、わあああああっ・・・!」
陵先生は、両手で顔を覆って嗚咽した。
「先生?」
私は驚きながらも、陵先生に呼びかけた。
「大丈夫ですか?」
「あぁっ・・・あぁ~~っ・・・」
「陵先生・・・」
しばらく嗚咽が続いた後、
「・・・母さんと祐平は死んだ・・・」
消え入りそうな声で、陵先生は言った。
それを聞いて、私の顔は強張る。
「目の前にいた。声を掛けて、二人が振り向いた時だった。急に、辺りがバラバラになって吹き飛んで・・・」
「・・・・・・」
聞いていると、自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
だけど、それは想定外ではなかった。
『俺は、渋谷で沢山の人を殺した』
『久方振りに、有象無象の人間共を屠った』
悠仁君と宿儺の言葉。
出来ることならば、知りたくなかった事実だった。