第37話 香志和彌神社
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そう言って、お母さんはさめざめと泣き出した。
私は何も返すことが出来ない。
これは『縛り』を断つための、試練でも妨げでもない。
偽ることのない、お母さんの本心だ。
それは、どんなものより辛いものだった。
責め立てられることではなくて、お母さんの行いを無碍にして、悲しませてしまっていることが。
『思い出せ。何故、自分が術式 を欲するのか』
そんな時、九十九さんに言われた事を思い出した。
私は、スッと首を立ててお母さんに言った。
「・・・ごめんなさい」
お母さんはやはり泣き続けるだけで、応えない。
「でも、お母さんがあの時私を庇って守ってくれたから、私は五条さんに出会えた」
すると、お母さんは俯いていた顔を上げた。
私はお母さんの顔を真っ直ぐに見据えながら続けた。
「私の大切な人なの」
「・・・・・・」
「五条さんといると、張り詰めて強張ってた心が解けて、深く呼吸が出来て、私は私のままでいられるの」
「・・・・・・」
「五条さんがいるから、私は何があっても立ち向かって生きていこうって思える」
「・・・・・・」
「お母さんは見てない?夏に一緒に『香志和彌神社』に来たんだよ?」
「・・・・・・」
「って、見てるわけないか・・・」
「・・・わよ」
「え?」
お母さんは涙目のままニヤッと笑った。
「見てたわよ。背の高い白髪の人でしょう?」
「え」
マジでか。
「そういえば私に挨拶してたわねぇ、あの人。お婿さんになるとかなんとか言って」
「覚えてるんだ」
「あっ!その後、あの人ってば和紗にチューして・・・」
「し、してない!してないよ!?見間違い!!」
そんな余計なことまで見てたの!?
「そっかそっかぁ」
お母さんは涙を拭いながら言った。
「和紗も、もうそういう年頃なのかぁ・・・」
「・・・・・・」
「・・・ランドセル姿は見れなかったけれど、こうして恋バナを聞けたのなら、私がしたことも意味があったのかな」
そう言った後、お母さんは少し考え込むように視線を下ろした。
そして、尋ねてきた。
「耕嗣郎さんは・・・」
「え」
「耕嗣郎さんは、今どうしてるの・・・?」
本当のことを言うべきか、私は少しの間考えた。
本当のことを言えば、お母さんをまた悲しませるかもしれない。
・・・でも。
「お父さんは、今神戸で洋菓子のお店をしているの」
「・・・・・・」
「そして、新しい家族と暮らしてる」
すると、お母さんは少し驚いた顔をした。
そして、
「そっか」
安心したような、でも、やっぱり寂しそうな微笑みを浮かべて言った。
「そっかぁ。耕嗣郎さん、ちゃんと、大丈夫なのね」
その一言に、お母さんのお父さんへの複雑な思いを伺い知れた。
私は少し困ったように微笑んだ。
「大丈夫かは・・・わからないけど」
「それじゃあ、和紗は今、耕嗣郎さんとは・・・」
「・・・別々に暮らしてる」
「え」
「ずっと前から。お母さんが亡くなってからしばらくして、ずっと。私は、糠田が森でおじいちゃんと一緒に暮らしていた」
すると、お母さんの顔はみるみる曇っていった。
「そんな・・・」
「でも、私は大丈夫だから!」
私は慌ててフォローするように言った。
「寂しく思うこともあったけれど、今はもう大丈夫」
「・・・・・・」
お母さんはまだ納得していないようだったけれど、ひとつ息を吐いて何も言わなかった。ただ、
「耕嗣郎さん・・・やっぱり、耕造さんとうまくいかなかったのね」
と呟いた。
それを聞いて、私は短く息を飲んだ。
「お母さん知ってたの?お父さんとおじいちゃんが仲が悪いこと」
するとお母さんは一瞬気まずそうな表情を浮かべた後、
「うん・・・。『つるぎ庵』のことも『額多ヶ守』のことも、お父さんから聞いていたわ」
思いがけないことに、私は驚いていた。
「・・・和紗も知っているのね。『糠田が森』の呪いのこと」
「・・・うん」
尋ねられて、私は頷く。
すると、お母さんの表情が再び険しいものになった。
「それなら尚更、和紗にこの力を渡すわけにはいかないわ」
私は何も返すことが出来ない。
これは『縛り』を断つための、試練でも妨げでもない。
偽ることのない、お母さんの本心だ。
それは、どんなものより辛いものだった。
責め立てられることではなくて、お母さんの行いを無碍にして、悲しませてしまっていることが。
『思い出せ。何故、自分が
そんな時、九十九さんに言われた事を思い出した。
私は、スッと首を立ててお母さんに言った。
「・・・ごめんなさい」
お母さんはやはり泣き続けるだけで、応えない。
「でも、お母さんがあの時私を庇って守ってくれたから、私は五条さんに出会えた」
すると、お母さんは俯いていた顔を上げた。
私はお母さんの顔を真っ直ぐに見据えながら続けた。
「私の大切な人なの」
「・・・・・・」
「五条さんといると、張り詰めて強張ってた心が解けて、深く呼吸が出来て、私は私のままでいられるの」
「・・・・・・」
「五条さんがいるから、私は何があっても立ち向かって生きていこうって思える」
「・・・・・・」
「お母さんは見てない?夏に一緒に『香志和彌神社』に来たんだよ?」
「・・・・・・」
「って、見てるわけないか・・・」
「・・・わよ」
「え?」
お母さんは涙目のままニヤッと笑った。
「見てたわよ。背の高い白髪の人でしょう?」
「え」
マジでか。
「そういえば私に挨拶してたわねぇ、あの人。お婿さんになるとかなんとか言って」
「覚えてるんだ」
「あっ!その後、あの人ってば和紗にチューして・・・」
「し、してない!してないよ!?見間違い!!」
そんな余計なことまで見てたの!?
「そっかそっかぁ」
お母さんは涙を拭いながら言った。
「和紗も、もうそういう年頃なのかぁ・・・」
「・・・・・・」
「・・・ランドセル姿は見れなかったけれど、こうして恋バナを聞けたのなら、私がしたことも意味があったのかな」
そう言った後、お母さんは少し考え込むように視線を下ろした。
そして、尋ねてきた。
「耕嗣郎さんは・・・」
「え」
「耕嗣郎さんは、今どうしてるの・・・?」
本当のことを言うべきか、私は少しの間考えた。
本当のことを言えば、お母さんをまた悲しませるかもしれない。
・・・でも。
「お父さんは、今神戸で洋菓子のお店をしているの」
「・・・・・・」
「そして、新しい家族と暮らしてる」
すると、お母さんは少し驚いた顔をした。
そして、
「そっか」
安心したような、でも、やっぱり寂しそうな微笑みを浮かべて言った。
「そっかぁ。耕嗣郎さん、ちゃんと、大丈夫なのね」
その一言に、お母さんのお父さんへの複雑な思いを伺い知れた。
私は少し困ったように微笑んだ。
「大丈夫かは・・・わからないけど」
「それじゃあ、和紗は今、耕嗣郎さんとは・・・」
「・・・別々に暮らしてる」
「え」
「ずっと前から。お母さんが亡くなってからしばらくして、ずっと。私は、糠田が森でおじいちゃんと一緒に暮らしていた」
すると、お母さんの顔はみるみる曇っていった。
「そんな・・・」
「でも、私は大丈夫だから!」
私は慌ててフォローするように言った。
「寂しく思うこともあったけれど、今はもう大丈夫」
「・・・・・・」
お母さんはまだ納得していないようだったけれど、ひとつ息を吐いて何も言わなかった。ただ、
「耕嗣郎さん・・・やっぱり、耕造さんとうまくいかなかったのね」
と呟いた。
それを聞いて、私は短く息を飲んだ。
「お母さん知ってたの?お父さんとおじいちゃんが仲が悪いこと」
するとお母さんは一瞬気まずそうな表情を浮かべた後、
「うん・・・。『つるぎ庵』のことも『額多ヶ守』のことも、お父さんから聞いていたわ」
思いがけないことに、私は驚いていた。
「・・・和紗も知っているのね。『糠田が森』の呪いのこと」
「・・・うん」
尋ねられて、私は頷く。
すると、お母さんの表情が再び険しいものになった。
「それなら尚更、和紗にこの力を渡すわけにはいかないわ」