第37話 香志和彌神社
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「私が付き添えるのはここまでだ」
本殿の前に来て、九十九さんが言った。
「今から『帳』を降ろす。百度詣りは他人から見られず行うことで効果を高める。『逆詣』もしかり」
「・・・・・・」
私一人で・・・。
元々一人でここへ来るつもりだったし、どんなことが起ころうとも覚悟していたはずなのに、今更になって心細さを感じている。
「和紗」
九十九さんに呼びかけられ、私はハッと我に返る。
「これからどんなことが起きようとも、忘れるな。思い出せ。何故、自分が術式 を欲するのか」
「・・・・・・」
その言葉に、背中を叩かれた気がした。
「はい」
私は深く頷いた。
すると、九十九さんはフッと微笑んだ。
「あ」
ふと思いついた。
「サトルは預けた方がいいですか?」
「そうだねー。私とお留守番しよう」
と、九十九さんは私からサトルを受け取ると、すぐに真剣な表情に戻り、
「『闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え』」
と、印を組み詠唱した。
ズズズ・・・
黒い幕が神社の本殿上空から垂れ流された墨汁の様に落ちて周囲を包む。
私と九十九さんの間にも『帳』が降りてきて、九十九さんと外の景色は見えなくなった。
「・・・・・・」
私はひとつ深呼吸をして、本殿に向かう。
ひとつ礼をして、柏手を打ち、手を合わせた。その後、裸足になって踵を返し階段に向かった。
階段を埋め尽くす落ち葉を踏みつけて転ばないように、注意しながらひとつひとつ降りて行く。
冷やりとした石段の感触を足の裏に感じる。
最下段を降りて百度石のところで折り返し、今度は石段をひとつひとつ登っていく。
(お母さん・・・)
上りながら、お母さんのことを思った。
この行為がもたらす自分の運命をわかっていたら、お母さんは最後まで続けていたのだろうか。
知らず知らずのうちだとしても、覚悟の上だとしても、今私がしている行為は、きっとお母さんの思いを踏みにじっている。
(・・・ごめんね)
往復を続けるうちに、次第に足裏かじかんできて皮膚の感覚が失われていった。
さらに続けていくと、疲労で膝が小刻みに震え出し、呼吸も上がりだしてきた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
意識もボンヤリしてきて、何も考えずただひたすら階段の上り下りを繰り返す。唯一考えていたことは、今が何往復目かという事だけだった。
「はぁっ・・・はあっ・・・」
肩を上下させながら、階段を降りて行く。
その時だった。
スッ・・・
誰かが私の横を通り過ぎる気配がした。
「!」
立ち止まり、後ろを振り返る。
だけど、そこには誰もいない。
当たり前だ。
『帳』が降りているんだから。
気のせいだ。
「・・・・・・」
私は気を取り直し、再び階段を降りる。
何段か降りて行くうちに、ふと気づいた。
階段に落ちていた落ち葉が、消えていることに。
「・・・・・・」
再び立ち止まり顔を上げて境内の木々を見まわした。
黄色や赤に色づいていた木々は、いつのまにか深い緑色に変わっている。
「え・・・」
秋色だった境内から、明らかに季節が変わっている。
何か異変が起きている。
私はにわかに身じろいだ。
だけど、立ち止まるわけにはいかない。
日付変更までに『逆詣』を終えなければならないのだ。
私は警戒しながら、再び歩き出した。
「はっ・・・はっ・・・」
百回目だ。
これで階段を上り切れば、最後だ。
だけど、ここで重要なのは。
「・・・・・・」
私はポケットから懐中時計を取り出した。
九十九さんのものだ。
スマホを失くしたことを話したら、貸してもらったのだ。
時計は、日付変更まであと五分余りを示していた。
時間に合わせるように、噛み締めるようにゆっくりと、一段一段を上っていく。
そして、最後の一段を日付が変わると同時に上り切った。
「・・・・・・」
警戒しながら辺りを見回す。
木々の色は、依然として緑色のままだ。
だけど、それ以外に異変はない。
本殿の前に来て、九十九さんが言った。
「今から『帳』を降ろす。百度詣りは他人から見られず行うことで効果を高める。『逆詣』もしかり」
「・・・・・・」
私一人で・・・。
元々一人でここへ来るつもりだったし、どんなことが起ころうとも覚悟していたはずなのに、今更になって心細さを感じている。
「和紗」
九十九さんに呼びかけられ、私はハッと我に返る。
「これからどんなことが起きようとも、忘れるな。思い出せ。何故、自分が
「・・・・・・」
その言葉に、背中を叩かれた気がした。
「はい」
私は深く頷いた。
すると、九十九さんはフッと微笑んだ。
「あ」
ふと思いついた。
「サトルは預けた方がいいですか?」
「そうだねー。私とお留守番しよう」
と、九十九さんは私からサトルを受け取ると、すぐに真剣な表情に戻り、
「『闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え』」
と、印を組み詠唱した。
ズズズ・・・
黒い幕が神社の本殿上空から垂れ流された墨汁の様に落ちて周囲を包む。
私と九十九さんの間にも『帳』が降りてきて、九十九さんと外の景色は見えなくなった。
「・・・・・・」
私はひとつ深呼吸をして、本殿に向かう。
ひとつ礼をして、柏手を打ち、手を合わせた。その後、裸足になって踵を返し階段に向かった。
階段を埋め尽くす落ち葉を踏みつけて転ばないように、注意しながらひとつひとつ降りて行く。
冷やりとした石段の感触を足の裏に感じる。
最下段を降りて百度石のところで折り返し、今度は石段をひとつひとつ登っていく。
(お母さん・・・)
上りながら、お母さんのことを思った。
この行為がもたらす自分の運命をわかっていたら、お母さんは最後まで続けていたのだろうか。
知らず知らずのうちだとしても、覚悟の上だとしても、今私がしている行為は、きっとお母さんの思いを踏みにじっている。
(・・・ごめんね)
往復を続けるうちに、次第に足裏かじかんできて皮膚の感覚が失われていった。
さらに続けていくと、疲労で膝が小刻みに震え出し、呼吸も上がりだしてきた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
意識もボンヤリしてきて、何も考えずただひたすら階段の上り下りを繰り返す。唯一考えていたことは、今が何往復目かという事だけだった。
「はぁっ・・・はあっ・・・」
肩を上下させながら、階段を降りて行く。
その時だった。
スッ・・・
誰かが私の横を通り過ぎる気配がした。
「!」
立ち止まり、後ろを振り返る。
だけど、そこには誰もいない。
当たり前だ。
『帳』が降りているんだから。
気のせいだ。
「・・・・・・」
私は気を取り直し、再び階段を降りる。
何段か降りて行くうちに、ふと気づいた。
階段に落ちていた落ち葉が、消えていることに。
「・・・・・・」
再び立ち止まり顔を上げて境内の木々を見まわした。
黄色や赤に色づいていた木々は、いつのまにか深い緑色に変わっている。
「え・・・」
秋色だった境内から、明らかに季節が変わっている。
何か異変が起きている。
私はにわかに身じろいだ。
だけど、立ち止まるわけにはいかない。
日付変更までに『逆詣』を終えなければならないのだ。
私は警戒しながら、再び歩き出した。
「はっ・・・はっ・・・」
百回目だ。
これで階段を上り切れば、最後だ。
だけど、ここで重要なのは。
「・・・・・・」
私はポケットから懐中時計を取り出した。
九十九さんのものだ。
スマホを失くしたことを話したら、貸してもらったのだ。
時計は、日付変更まであと五分余りを示していた。
時間に合わせるように、噛み締めるようにゆっくりと、一段一段を上っていく。
そして、最後の一段を日付が変わると同時に上り切った。
「・・・・・・」
警戒しながら辺りを見回す。
木々の色は、依然として緑色のままだ。
だけど、それ以外に異変はない。