第37話 香志和彌神社
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「京都タワー付近の結界はいつ出現したんだ?」
グツグツと煮える水炊きの鍋を囲む中、九十九さんが東堂君に尋ねた。
「11月1日、午前0時丁度。清水寺を中心に半径5キロメートル程のものだ。結界が張られた場所に元々いた人々は、全員結界内から脱出している」
「ふむ?」
「その全員が、夢の中で長髪に袈裟姿の男から一度きりの選択として結界内から出られることを知らされるという体験をしている」
「袈裟姿・・・」
私はハッと息を飲んだ。
羂索だ。
九十九さんも同じことを思ったようで、
「夏油君が・・・」
と呟いた。
「やはり、『死滅回游』関連のものか」
「何のための結界なんだろう」
「おそらく、泳者 をあそこに集めて閉じ込め闘わせるためのものだろう。さながら古代ローマのコロッセオのようにね」
「・・・悪趣味だわ」
「いかにもヤツがやりそうことだよ。ところで、葵」
九十九さんが東堂君に向かって言った。
「これから状況がどう動くかはまだ読めないが、必ずオマエの力が必要になる時が来る。・・・その時はいけるよね?」
「勿論です、師匠 。だが・・・」
言いながら、東堂君は包帯が巻かれた左手を撫でた。
「だが・・・『不義遊戯』を失った今の俺に、どれほどの働きができるか・・・」
それきり、口を噤んで黙り込んだ。
悲痛な面持ちに、私の胸も痛くなる。
「葵・・・」
と、九十九さんは東堂君に身を寄せる。
右手を伸ばし、そのまま頭でも撫でて慰めるのかと思いきや、
「バカヤローーーーッ!」
九十九さんは張り手で、東堂君の頬をぶん殴った。
東堂君は吹き飛ばされ、そのまま襖に突っ込んで倒れてしまった。
九十九さんは激昂しながら、
「『不義遊戯』を失ったからなんだ!?オマエは術式頼りの呪術師なのか?違うだろ!?私はそんな軟弱な弟子を育てたつもりはない!」
「つ、九十九さん。東堂君は重傷なんですよ」
「オマエは、術式なしでも闘えるはずだ!それに、拍手とは魂の喝采!左手を失ったからといって、消えることはない!」
「・・・・・・」
ダメだ。諫めようとしたけど、聞いちゃいない。
「師匠 ・・・」
すると、東堂君がムクリと身体を起こした。
「すみません・・・!つい弱気になってしまった。そうだ、師匠 が俺に叩き込んでくれたのは術式だけではなかった・・・!どんな困難にも熱く燃え滾る闘魂・・・それこそが、俺が持ちうる最強の武器・・・!」
「そうだ!思い出したか?」
「はいっ!!」
と、二人はガシッと固く握手をしあう。
そんな二人のことを、
(なんだかなー・・・)
私は唖然として見守っていた。
夜は更けて、いよいよ『香志和彌神社』へ出発する時が来た。
「じゃ、行ってくるよ」
と、九十九さんと私はバイクに乗り込む。
「Ms.鶴來」
東堂君が言った。
「Good Luck」
そして、組んだ両腕の隙間から、ピッと立てた親指を覗かせた。
私が頷くと、バイクは発進した。
ヴロロロ・・・
それから間もなく『香志和彌神社』へと到着した。
僅かな灯篭が灯す仄かな明かりの中に、鳥居と、その奥に百段の階段が浮かびあがる。その階段のふもとに、百度石が鎮座している。
「よーし、到着」
と九十九さんはバイクを停めて降りた。
「『逆詣』だからスタート地点は本殿からだ。行こう」
そして、階段を上っていく。
私もその後に続いた。
以前来た時は青々と生い茂っていた境内の木々が、黄色や赤色に色づいて、落ちた葉が辺りに散らばっている。
「・・・・・・」
私は、五条さんとふたりでここへ来た時のことを思い出していた。
あの時は、五条さんが私の前からいなくなってしまうなんて想像もしてなかった。
何も知らなかったあの時の自分たちを思うと、切なさで胸が痛む。
足が、止まってしまう。
だけど。
『でも、和紗のお母さんはここにいるような気がするよ』
『きっと今も、和紗のことを見てる』
その言葉に、今に意識が戻る。
(そうだ、行かなきゃ)
お母さんに会いに行かなきゃ。
私の術式 を返してもらうために。
グツグツと煮える水炊きの鍋を囲む中、九十九さんが東堂君に尋ねた。
「11月1日、午前0時丁度。清水寺を中心に半径5キロメートル程のものだ。結界が張られた場所に元々いた人々は、全員結界内から脱出している」
「ふむ?」
「その全員が、夢の中で長髪に袈裟姿の男から一度きりの選択として結界内から出られることを知らされるという体験をしている」
「袈裟姿・・・」
私はハッと息を飲んだ。
羂索だ。
九十九さんも同じことを思ったようで、
「夏油君が・・・」
と呟いた。
「やはり、『死滅回游』関連のものか」
「何のための結界なんだろう」
「おそらく、
「・・・悪趣味だわ」
「いかにもヤツがやりそうことだよ。ところで、葵」
九十九さんが東堂君に向かって言った。
「これから状況がどう動くかはまだ読めないが、必ずオマエの力が必要になる時が来る。・・・その時はいけるよね?」
「勿論です、
言いながら、東堂君は包帯が巻かれた左手を撫でた。
「だが・・・『不義遊戯』を失った今の俺に、どれほどの働きができるか・・・」
それきり、口を噤んで黙り込んだ。
悲痛な面持ちに、私の胸も痛くなる。
「葵・・・」
と、九十九さんは東堂君に身を寄せる。
右手を伸ばし、そのまま頭でも撫でて慰めるのかと思いきや、
「バカヤローーーーッ!」
九十九さんは張り手で、東堂君の頬をぶん殴った。
東堂君は吹き飛ばされ、そのまま襖に突っ込んで倒れてしまった。
九十九さんは激昂しながら、
「『不義遊戯』を失ったからなんだ!?オマエは術式頼りの呪術師なのか?違うだろ!?私はそんな軟弱な弟子を育てたつもりはない!」
「つ、九十九さん。東堂君は重傷なんですよ」
「オマエは、術式なしでも闘えるはずだ!それに、拍手とは魂の喝采!左手を失ったからといって、消えることはない!」
「・・・・・・」
ダメだ。諫めようとしたけど、聞いちゃいない。
「
すると、東堂君がムクリと身体を起こした。
「すみません・・・!つい弱気になってしまった。そうだ、
「そうだ!思い出したか?」
「はいっ!!」
と、二人はガシッと固く握手をしあう。
そんな二人のことを、
(なんだかなー・・・)
私は唖然として見守っていた。
夜は更けて、いよいよ『香志和彌神社』へ出発する時が来た。
「じゃ、行ってくるよ」
と、九十九さんと私はバイクに乗り込む。
「Ms.鶴來」
東堂君が言った。
「Good Luck」
そして、組んだ両腕の隙間から、ピッと立てた親指を覗かせた。
私が頷くと、バイクは発進した。
ヴロロロ・・・
それから間もなく『香志和彌神社』へと到着した。
僅かな灯篭が灯す仄かな明かりの中に、鳥居と、その奥に百段の階段が浮かびあがる。その階段のふもとに、百度石が鎮座している。
「よーし、到着」
と九十九さんはバイクを停めて降りた。
「『逆詣』だからスタート地点は本殿からだ。行こう」
そして、階段を上っていく。
私もその後に続いた。
以前来た時は青々と生い茂っていた境内の木々が、黄色や赤色に色づいて、落ちた葉が辺りに散らばっている。
「・・・・・・」
私は、五条さんとふたりでここへ来た時のことを思い出していた。
あの時は、五条さんが私の前からいなくなってしまうなんて想像もしてなかった。
何も知らなかったあの時の自分たちを思うと、切なさで胸が痛む。
足が、止まってしまう。
だけど。
『でも、和紗のお母さんはここにいるような気がするよ』
『きっと今も、和紗のことを見てる』
その言葉に、今に意識が戻る。
(そうだ、行かなきゃ)
お母さんに会いに行かなきゃ。
私の