第36話 告白
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唐突な変化に、私は戸惑い不穏なものを感じる。
「いつ帰って来たんですか」
伏黒君が尋ねた。
「帰ってきたのは今朝だよ。『渋谷事変』のことは向こうで知った。こんなことなら、もっと早く帰って来るべきだった。みんなが、こんな、傷つけられる前に・・・」
と、乙骨君は答えながら、眠っている真希ちゃんに毛布を掛け直す。そして、
「狗巻君の腕だって・・・」
と、低くくぐもった声で言った。
その言葉に、私は息を呑んだ。
「両面宿儺」
乙骨君は続けた。
「狗巻君が言ってた。宿儺が渋谷にいた人々ごと街を壊滅させたって。狗巻君は、自分を責めていた。自分の喉がもっと耐えていたら、もっと多くの人を呪言で逃がせたはずだって。・・・自分だってあんなにも深く傷ついたのに・・・」
そう話す声には、明らかな怒りが込められている。
さっき悠仁君の名前を口にした時と同じだ。
この人は知っている。
悠仁君の中に宿儺がいることを。
「違うの」
私は無意識のうちに言葉を発していた。
「渋谷でのことは、狗巻君のことは、宿儺が・・・!」
「わかってます」
乙骨君が私の言葉を遮った。
その目は暗く、冷たい。
その威圧感に、私は口をつぐんで黙り込んでしまう。
そうかと思えば乙骨君はニッコリと笑って、
「虎杖君のせいじゃない」
と言った。しかし、本心はその表情から読み取ることは出来ない。
「そろそろ行かなくちゃ」
乙骨君が言った。
「総監部に呼び出しされてるんです。あまり待たせてると怒られちゃう」
「総監部・・・」
その名を聞いて、あの理不尽な通達の数々を思い出す。
──虎杖悠仁の死刑執行猶予を取り消し速やかな死刑の執行を決定する──
「じゃあ、伏黒君、和紗さん。みんなをお願いします」
と、乙骨君は背中の物を背負い直し病室を後にした。
「ま、待って!」
私は乙骨君を追いかけて病室を走り出た。
だけど、伏黒君が追いかけてきて私の腕を掴んで引き留めた。
「大丈夫です」
「でも乙骨君、総監部に行くって。総監部は悠仁君を・・・。あの人は悠仁君の中に宿儺があることを知ってるんでしょ?それに、狗巻君の腕のことも悠仁君のせいだって思ってる・・・!もし総監部があの人に悠仁君の死刑執行を命令したら・・・」
「だから大丈夫です」
「大丈夫って何が?悠仁君が殺されてもいいの!?」
「落ち着いて話を聞けよ」
と軽く言い合いになっていたら、廊下を歩く看護師さんに「静かに」と叱られてしまった。
私と伏黒君は慌てて口を噤んだ。
「・・・とりあえず、デイルームに行きましょう」
と、伏黒君は掴んだ私の腕をそのまま引いて歩き出した。だけど、強引さはなくその腕は優しい。
「・・・・・・」
私はいくらか冷静になって、手を引かれるまま伏黒君の後に続いた。
デイルームに到着すると、伏黒君は私をテーブル席に着かせた。
「どうぞ」
それから自販機で紙コップのコーヒー買って私の前に差し、向かいに座った。
「乙骨先輩は渋谷の件が虎杖のせいだとは思っていない」
伏黒君が言った。
「それでも総監部の呼び出しに応じたのは、きっと自分以外の誰かが虎杖の処刑人に任命させないようにだ。自分が処刑人に任命された方が、虎杖を見逃すため立ち回りがし易いからな」
「・・・・・・」
「大丈夫。あの人は信頼に値する人だ」
「悠仁君が、今何処にいるかわかってるのかな」
と私が言うと、伏黒君は首を横に振った。
「おそらく総監部もわかってない」
「じゃあ、ひょっとしたら東京を離れてるかも・・・」
私が最後に悠仁君に会ったのは、もう4日も前のことだ。
東京を離れてどこか遠くへ逃れているのかもしれない。
むしろ、そうだといい。
だけど。
「いや、おそらくまだ東京にいる。『渋谷事変』直後、ある人が虎杖と接触したと聞いた。その時、アイツは羂索が放った呪霊を放っておけないと話してたそうだ。だから、おそらく今も東京のどこかで呪霊狩りを・・・」
「ある人・・・?」
それは一体誰。
そう尋ねようとした時だった。
「恵」
ラウンジに声が響いて、私と伏黒君はそちらを振り返った。
そこには、車椅子に乗った女の子がいた。
長い前髪を真ん中で分けたポニーテール。
柔和な微笑みを浮かべた目元。
たおやかで、でもどこか凛とした雰囲気をたたえた女の子だ。
「津美紀」
と、伏黒君が言った。
その名前を聞いて、私は瞬時に理解した。
(伏黒君のお姉さん)
「いつ帰って来たんですか」
伏黒君が尋ねた。
「帰ってきたのは今朝だよ。『渋谷事変』のことは向こうで知った。こんなことなら、もっと早く帰って来るべきだった。みんなが、こんな、傷つけられる前に・・・」
と、乙骨君は答えながら、眠っている真希ちゃんに毛布を掛け直す。そして、
「狗巻君の腕だって・・・」
と、低くくぐもった声で言った。
その言葉に、私は息を呑んだ。
「両面宿儺」
乙骨君は続けた。
「狗巻君が言ってた。宿儺が渋谷にいた人々ごと街を壊滅させたって。狗巻君は、自分を責めていた。自分の喉がもっと耐えていたら、もっと多くの人を呪言で逃がせたはずだって。・・・自分だってあんなにも深く傷ついたのに・・・」
そう話す声には、明らかな怒りが込められている。
さっき悠仁君の名前を口にした時と同じだ。
この人は知っている。
悠仁君の中に宿儺がいることを。
「違うの」
私は無意識のうちに言葉を発していた。
「渋谷でのことは、狗巻君のことは、宿儺が・・・!」
「わかってます」
乙骨君が私の言葉を遮った。
その目は暗く、冷たい。
その威圧感に、私は口をつぐんで黙り込んでしまう。
そうかと思えば乙骨君はニッコリと笑って、
「虎杖君のせいじゃない」
と言った。しかし、本心はその表情から読み取ることは出来ない。
「そろそろ行かなくちゃ」
乙骨君が言った。
「総監部に呼び出しされてるんです。あまり待たせてると怒られちゃう」
「総監部・・・」
その名を聞いて、あの理不尽な通達の数々を思い出す。
──虎杖悠仁の死刑執行猶予を取り消し速やかな死刑の執行を決定する──
「じゃあ、伏黒君、和紗さん。みんなをお願いします」
と、乙骨君は背中の物を背負い直し病室を後にした。
「ま、待って!」
私は乙骨君を追いかけて病室を走り出た。
だけど、伏黒君が追いかけてきて私の腕を掴んで引き留めた。
「大丈夫です」
「でも乙骨君、総監部に行くって。総監部は悠仁君を・・・。あの人は悠仁君の中に宿儺があることを知ってるんでしょ?それに、狗巻君の腕のことも悠仁君のせいだって思ってる・・・!もし総監部があの人に悠仁君の死刑執行を命令したら・・・」
「だから大丈夫です」
「大丈夫って何が?悠仁君が殺されてもいいの!?」
「落ち着いて話を聞けよ」
と軽く言い合いになっていたら、廊下を歩く看護師さんに「静かに」と叱られてしまった。
私と伏黒君は慌てて口を噤んだ。
「・・・とりあえず、デイルームに行きましょう」
と、伏黒君は掴んだ私の腕をそのまま引いて歩き出した。だけど、強引さはなくその腕は優しい。
「・・・・・・」
私はいくらか冷静になって、手を引かれるまま伏黒君の後に続いた。
デイルームに到着すると、伏黒君は私をテーブル席に着かせた。
「どうぞ」
それから自販機で紙コップのコーヒー買って私の前に差し、向かいに座った。
「乙骨先輩は渋谷の件が虎杖のせいだとは思っていない」
伏黒君が言った。
「それでも総監部の呼び出しに応じたのは、きっと自分以外の誰かが虎杖の処刑人に任命させないようにだ。自分が処刑人に任命された方が、虎杖を見逃すため立ち回りがし易いからな」
「・・・・・・」
「大丈夫。あの人は信頼に値する人だ」
「悠仁君が、今何処にいるかわかってるのかな」
と私が言うと、伏黒君は首を横に振った。
「おそらく総監部もわかってない」
「じゃあ、ひょっとしたら東京を離れてるかも・・・」
私が最後に悠仁君に会ったのは、もう4日も前のことだ。
東京を離れてどこか遠くへ逃れているのかもしれない。
むしろ、そうだといい。
だけど。
「いや、おそらくまだ東京にいる。『渋谷事変』直後、ある人が虎杖と接触したと聞いた。その時、アイツは羂索が放った呪霊を放っておけないと話してたそうだ。だから、おそらく今も東京のどこかで呪霊狩りを・・・」
「ある人・・・?」
それは一体誰。
そう尋ねようとした時だった。
「恵」
ラウンジに声が響いて、私と伏黒君はそちらを振り返った。
そこには、車椅子に乗った女の子がいた。
長い前髪を真ん中で分けたポニーテール。
柔和な微笑みを浮かべた目元。
たおやかで、でもどこか凛とした雰囲気をたたえた女の子だ。
「津美紀」
と、伏黒君が言った。
その名前を聞いて、私は瞬時に理解した。
(伏黒君のお姉さん)