第36話 告白
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車椅子に乗って、新田さんに押してもらいながら、私達は病院の屋上庭園へ出た。
「ここはあきる野市にある病院ッス」
新田さんが言った。
呪術高専の負傷者の多くが、この病院に運び込まれているらしい。
『渋谷事変』の後、東京は一部を除いて壊滅状態となり、呪霊達が跋扈する無法地帯となっている。
辛うじて難を免れたのは、この病院があるあきる野市、青梅市、奥多摩の村町、八王子市・町田市の一部そして島嶼部のみ。
「狗巻さんや禪院さん、猪野さんや伊地知さんもここに入院してるッス。容体も快方に向かってるッス」
「そうなんですか」
私はホッと安堵する。
しかし、すぐに別の事柄が脳裏を過った。
「・・・野薔薇ちゃんと、七海さんは・・・」
私がそう溢すように言うと、硝子さんと新田さんの表情が曇った。
それで、わかった。私は改めて自分に言い聞かせた。
受け入れ難い事実を受け入れなければならないことを。
「・・・・・・」
膝の上でグッと両手で拳を握った。
冷たい風が私達の間を通り過ぎた。
「ここは風が気持ちいいけど冷えるッスね。温かい飲み物買って来るッス」
と、新田さんはこの場を離れた。
二人になり、私と硝子さんの間には沈黙が続いた。
「『死滅回游』のこと」
それを破ったのは、硝子さんの方だった。
「関わるなって言っても、アンタは聞かないんだろうね」
「・・・・・・・」
「五条がよく愚痴ってたよ。和紗はああ見えて無鉄砲で、自分の言う事を全く聞かない。ハラハラさせられて困るって」
それを聞いて、私は少し笑った。
つられるように硝子さんも笑った。
だけどすぐに真顔になって、
「それでも、敢えて言うよ。和紗、『死滅回游』に関わるな。父親と妹のことも、他の連中に任せればいい」
「・・・・・・」
「和紗がこれ以上、呪いの闘いに巻き込まれることは、五条だって望んでいない。それに私も・・・」
そこまで話すと、硝子さんは私から目を逸らした。
「・・・これ以上、一緒にいた人間をただ見送るだけになりたくない」
そう言ったのを聞いた瞬間。
現在の硝子さんに、昔の硝子さんの面影が重なった。
(あぁ、そうだ)
五条さん達のことを、誰よりも近くで長い間ずっと見てきたのは硝子さんなんだ。
きっと、今、誰よりも辛いのも。
「・・・硝子さん」
私は身体にグッと力を入れて、車椅子から立ち上がった。
そして、俯く硝子さんの頭を撫でようとしたけれど、
「わぁっ!?」
よろめいて、硝子さんに抱きつく形になってしまった。
硝子さんは驚きながらも私を抱き留めた。
「ったく、何してんの・・・」
「・・・大丈夫だよ」
私は硝子さんに抱きついたまま言った。
「硝子をこれ以上独りにさせない。私は必ず生きて帰るし、悟君も帰ってくるから」
この時だけは、私の意識は奇子の領域で見た夢の続きに戻っていたようだ。
そんなことを知る由もない硝子さんは、不思議そうに言った。
「呼び捨て?っていうか悟君って」
そして、悲しそうに笑った。
翌日になると、私は自力歩行出来るまで回復した。
それで、他の入院しているみんなの様子を伺おうと病室を訪ねることにした。
伊地知さんと猪野さんは同じ病室にいた。
「和紗ちゃん!」
「鶴來さん・・・」
私が入室するなり、二人が起き上がり出迎えてくれた。
私は慌ててそれを制する。
「そのままでいいですから!無理に起き上がらないで」
「大丈夫!俺達、明日には退院するから」
猪野さんが言った。
確かに二人ともすっかり回復した様子だ。
しかし猪野さんの右目瞼はすっかり塞がってしまっている。
自分の方が痛ましい姿にも関わらず、猪野さんは私を気遣うように尋ねた。
「和紗ちゃんこそ大丈夫なの?」
「はい、私も近日中には退院・・・」
答えながらふと思った。
猪野さんは、七海さんのことを知っているのだろうか。
猪野さんはあれほど七海さんのことを慕っていた。
七海さんが亡くなったことを知ったら・・・。
「和紗ちゃん、七海さんのことは?」
と、猪野さんが口を開いた。
まるで私の考えていることを先回りするように。
私は驚いて猪野さんの顔を見返した。
猪野さんは真っ直ぐな目で私を見据えていた。
それでわかった。
猪野さんはすでに知っていて、その事実を受け入れているのだ。
「・・・はい」
と私が頷くと、猪野さんは「そっか」と小さく呟いて目を閉じた。
「ここはあきる野市にある病院ッス」
新田さんが言った。
呪術高専の負傷者の多くが、この病院に運び込まれているらしい。
『渋谷事変』の後、東京は一部を除いて壊滅状態となり、呪霊達が跋扈する無法地帯となっている。
辛うじて難を免れたのは、この病院があるあきる野市、青梅市、奥多摩の村町、八王子市・町田市の一部そして島嶼部のみ。
「狗巻さんや禪院さん、猪野さんや伊地知さんもここに入院してるッス。容体も快方に向かってるッス」
「そうなんですか」
私はホッと安堵する。
しかし、すぐに別の事柄が脳裏を過った。
「・・・野薔薇ちゃんと、七海さんは・・・」
私がそう溢すように言うと、硝子さんと新田さんの表情が曇った。
それで、わかった。私は改めて自分に言い聞かせた。
受け入れ難い事実を受け入れなければならないことを。
「・・・・・・」
膝の上でグッと両手で拳を握った。
冷たい風が私達の間を通り過ぎた。
「ここは風が気持ちいいけど冷えるッスね。温かい飲み物買って来るッス」
と、新田さんはこの場を離れた。
二人になり、私と硝子さんの間には沈黙が続いた。
「『死滅回游』のこと」
それを破ったのは、硝子さんの方だった。
「関わるなって言っても、アンタは聞かないんだろうね」
「・・・・・・・」
「五条がよく愚痴ってたよ。和紗はああ見えて無鉄砲で、自分の言う事を全く聞かない。ハラハラさせられて困るって」
それを聞いて、私は少し笑った。
つられるように硝子さんも笑った。
だけどすぐに真顔になって、
「それでも、敢えて言うよ。和紗、『死滅回游』に関わるな。父親と妹のことも、他の連中に任せればいい」
「・・・・・・」
「和紗がこれ以上、呪いの闘いに巻き込まれることは、五条だって望んでいない。それに私も・・・」
そこまで話すと、硝子さんは私から目を逸らした。
「・・・これ以上、一緒にいた人間をただ見送るだけになりたくない」
そう言ったのを聞いた瞬間。
現在の硝子さんに、昔の硝子さんの面影が重なった。
(あぁ、そうだ)
五条さん達のことを、誰よりも近くで長い間ずっと見てきたのは硝子さんなんだ。
きっと、今、誰よりも辛いのも。
「・・・硝子さん」
私は身体にグッと力を入れて、車椅子から立ち上がった。
そして、俯く硝子さんの頭を撫でようとしたけれど、
「わぁっ!?」
よろめいて、硝子さんに抱きつく形になってしまった。
硝子さんは驚きながらも私を抱き留めた。
「ったく、何してんの・・・」
「・・・大丈夫だよ」
私は硝子さんに抱きついたまま言った。
「硝子をこれ以上独りにさせない。私は必ず生きて帰るし、悟君も帰ってくるから」
この時だけは、私の意識は奇子の領域で見た夢の続きに戻っていたようだ。
そんなことを知る由もない硝子さんは、不思議そうに言った。
「呼び捨て?っていうか悟君って」
そして、悲しそうに笑った。
翌日になると、私は自力歩行出来るまで回復した。
それで、他の入院しているみんなの様子を伺おうと病室を訪ねることにした。
伊地知さんと猪野さんは同じ病室にいた。
「和紗ちゃん!」
「鶴來さん・・・」
私が入室するなり、二人が起き上がり出迎えてくれた。
私は慌ててそれを制する。
「そのままでいいですから!無理に起き上がらないで」
「大丈夫!俺達、明日には退院するから」
猪野さんが言った。
確かに二人ともすっかり回復した様子だ。
しかし猪野さんの右目瞼はすっかり塞がってしまっている。
自分の方が痛ましい姿にも関わらず、猪野さんは私を気遣うように尋ねた。
「和紗ちゃんこそ大丈夫なの?」
「はい、私も近日中には退院・・・」
答えながらふと思った。
猪野さんは、七海さんのことを知っているのだろうか。
猪野さんはあれほど七海さんのことを慕っていた。
七海さんが亡くなったことを知ったら・・・。
「和紗ちゃん、七海さんのことは?」
と、猪野さんが口を開いた。
まるで私の考えていることを先回りするように。
私は驚いて猪野さんの顔を見返した。
猪野さんは真っ直ぐな目で私を見据えていた。
それでわかった。
猪野さんはすでに知っていて、その事実を受け入れているのだ。
「・・・はい」
と私が頷くと、猪野さんは「そっか」と小さく呟いて目を閉じた。