第35話 夢一夜
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「・・・はぁ!?」
奇子の顔が怒りで醜く歪む。
「邪魔?私が?・・・殺さないで、親切にしてやったのに。人の善意を無碍にして、あげく邪魔呼ばわりしやがって・・・」
そう言いながら奇子は右手を掲げると、どこからともなく刀が出現して、その手に握った。
「組屋鞣造の『魂の皺』から読み取り出現させた武器よ」
その刀を振り回しつつ、奇子は話す。
「言っても誰ってカンジだろうけど。とにかく、この刀は使い手の意志を感じ取って、伸びたり縮んだり曲がったりするものらしいわよ。こんな風に・・・」
その瞬間。
「!」
その言葉通りに刀が伸びて、私の頬ギリギリを掠めた。
「鶴來さん!」
伏黒君が叫ぶ。
しかし、領域のことで手がいっぱいで私を助ける余裕はない。
「・・・・・・」
私は臆せず、ジッと奇子を見据えたまま、一歩前へ踏み出す。
臆したのは、奇子の方だ。
「・・・下がりなさいよ!今度は本当に叩き斬ってやるから!」
「・・・・・・」
だけど、私は下がらない。
一歩、また一歩と踏み出す。
「・・・こんのぉ・・・・」
奇子が刀を振り下ろすと、刃が鞭のようにしなり私の足を切りつけた。
「このぉ!」
更に刃がしなり私の腕を、頬を、胸元を、額を、身体中を切りつける。
「・・・・・・」
それでも私はまた一歩一歩進み、遂に奇子の前に詰め寄った。
「このっ・・・」
奇子の表情は、今は恐怖で歪んでいる。
そして、持っていた刀を私の胸元に突き刺した。
「鶴來さん!!」
伏黒君の悲痛な叫びが響く。
だけど、私は冷静だった。
(呪力で肉体を強化する・・・そして、刃をどこにも引かせない)
奇子を引き付けたまま、呪力を込めた右拳を、
「っっ!」
身体ごと投げ出すような渾身の力で、奇子のこめかみに叩き込んだ。
「がっ・・・!」
奇子の身体は頭から地面に叩きつけられ、そのまま全身を痙攣させて気絶してしまった。
「・・・例え夢でも、呪術高専に通ってたのは伊達じゃないんだから」
と言いながら、私は胸元から刀を引き抜き、反転術式で傷の治療を始めた。
そして伏黒君の方を見ると、
「・・・・・・」
その伏黒君はポカンと呆気に取られていた。
「・・・何?」
「いや、随分強くなったんだなと」
と、伏黒君は組んでいた両手を解き、領域を解除した。
「領域が崩れていく」
そう呟いて、伏黒君は周囲を見回した。
私もそれにつられて見回す。
呪術高専の敷地内の風景は、少しずつ、ツギハギの鏡張りの空間に戻っていく。
パズルのピースを一枚ずつ裏返しにするように。
「・・・・・・」
帰るんだ。
もう夢は終わる。
私は、もう目覚めたんだ。
そう思っていた時だった。
「和紗・・・!」
名前を呼ばれて、振り返る。
私は息を飲んだ。
階段を上り切って息を切らした悟君が、そこにいた。
「・・・悟君・・・」
しかしその姿も、最後の一枚の鏡に変わる。
そして。
パリイィィィン・・・・
全ての鏡に亀裂が走り、割れて、欠片が宙を舞う。
そのひとつひとつに、この夢の中の記憶が映っている。
初めて出会った時のこと。
淹れてくれた甘すぎるココア。
USJで遊んだこと。
みんなでよく集まった食堂。
演劇『ロミオとジュリエット』の練習。
沖縄で見た海。
思いが食い違ってケンカしたこと。
大切な友達を失ったこと。
高層ビルから見た夜景。
夢を教えてくれたこと。
好きだと言ってくれたこと。
交わした口づけも。
そのひとつひとつが、鮮明に映って光っている。
(さよなら)
私は心の中で何度も口にしていた。
さよなら。
さよなら。
やがて、辺りの風景は光に溶けてやがて何も見えなくなった。
「う・・・」
意識が戻ると、私は床に倒れ込んでいた。
ゆっくり半身を起こし、辺りを見回す。
そこは駅のコンコース内だった。
戻ってきた。
今度こそわかる。
これは、現実なんだって。
「鶴來さん」
伏黒君が私の方へ手を差し伸べる。
「・・・ありがとう」
私がその手を取ると、伏黒君は引っ張って立たせてくれた。
だけど、よろけて伏黒君に寄りかかってしまう。
伏黒君は慌てて私を抱き留める。
「大丈夫ですか?」
「・・・・・・」
「怪我を・・・」
と、言葉の途中で伏黒君は口を噤んだ。
「・・・っ、う、うぅ~・・・」
私は伏黒君の肩に顔を埋めて泣いた。
すると、伏黒君はそっと右手で私の頭を撫でた。
「・・・おかえりなさい」
ただ、その一言だけを口にして。
そう、私は帰ってきた。
五条さんのいない、この混沌とした世界に。
つづく
奇子の顔が怒りで醜く歪む。
「邪魔?私が?・・・殺さないで、親切にしてやったのに。人の善意を無碍にして、あげく邪魔呼ばわりしやがって・・・」
そう言いながら奇子は右手を掲げると、どこからともなく刀が出現して、その手に握った。
「組屋鞣造の『魂の皺』から読み取り出現させた武器よ」
その刀を振り回しつつ、奇子は話す。
「言っても誰ってカンジだろうけど。とにかく、この刀は使い手の意志を感じ取って、伸びたり縮んだり曲がったりするものらしいわよ。こんな風に・・・」
その瞬間。
「!」
その言葉通りに刀が伸びて、私の頬ギリギリを掠めた。
「鶴來さん!」
伏黒君が叫ぶ。
しかし、領域のことで手がいっぱいで私を助ける余裕はない。
「・・・・・・」
私は臆せず、ジッと奇子を見据えたまま、一歩前へ踏み出す。
臆したのは、奇子の方だ。
「・・・下がりなさいよ!今度は本当に叩き斬ってやるから!」
「・・・・・・」
だけど、私は下がらない。
一歩、また一歩と踏み出す。
「・・・こんのぉ・・・・」
奇子が刀を振り下ろすと、刃が鞭のようにしなり私の足を切りつけた。
「このぉ!」
更に刃がしなり私の腕を、頬を、胸元を、額を、身体中を切りつける。
「・・・・・・」
それでも私はまた一歩一歩進み、遂に奇子の前に詰め寄った。
「このっ・・・」
奇子の表情は、今は恐怖で歪んでいる。
そして、持っていた刀を私の胸元に突き刺した。
「鶴來さん!!」
伏黒君の悲痛な叫びが響く。
だけど、私は冷静だった。
(呪力で肉体を強化する・・・そして、刃をどこにも引かせない)
奇子を引き付けたまま、呪力を込めた右拳を、
「っっ!」
身体ごと投げ出すような渾身の力で、奇子のこめかみに叩き込んだ。
「がっ・・・!」
奇子の身体は頭から地面に叩きつけられ、そのまま全身を痙攣させて気絶してしまった。
「・・・例え夢でも、呪術高専に通ってたのは伊達じゃないんだから」
と言いながら、私は胸元から刀を引き抜き、反転術式で傷の治療を始めた。
そして伏黒君の方を見ると、
「・・・・・・」
その伏黒君はポカンと呆気に取られていた。
「・・・何?」
「いや、随分強くなったんだなと」
と、伏黒君は組んでいた両手を解き、領域を解除した。
「領域が崩れていく」
そう呟いて、伏黒君は周囲を見回した。
私もそれにつられて見回す。
呪術高専の敷地内の風景は、少しずつ、ツギハギの鏡張りの空間に戻っていく。
パズルのピースを一枚ずつ裏返しにするように。
「・・・・・・」
帰るんだ。
もう夢は終わる。
私は、もう目覚めたんだ。
そう思っていた時だった。
「和紗・・・!」
名前を呼ばれて、振り返る。
私は息を飲んだ。
階段を上り切って息を切らした悟君が、そこにいた。
「・・・悟君・・・」
しかしその姿も、最後の一枚の鏡に変わる。
そして。
パリイィィィン・・・・
全ての鏡に亀裂が走り、割れて、欠片が宙を舞う。
そのひとつひとつに、この夢の中の記憶が映っている。
初めて出会った時のこと。
淹れてくれた甘すぎるココア。
USJで遊んだこと。
みんなでよく集まった食堂。
演劇『ロミオとジュリエット』の練習。
沖縄で見た海。
思いが食い違ってケンカしたこと。
大切な友達を失ったこと。
高層ビルから見た夜景。
夢を教えてくれたこと。
好きだと言ってくれたこと。
交わした口づけも。
そのひとつひとつが、鮮明に映って光っている。
(さよなら)
私は心の中で何度も口にしていた。
さよなら。
さよなら。
やがて、辺りの風景は光に溶けてやがて何も見えなくなった。
「う・・・」
意識が戻ると、私は床に倒れ込んでいた。
ゆっくり半身を起こし、辺りを見回す。
そこは駅のコンコース内だった。
戻ってきた。
今度こそわかる。
これは、現実なんだって。
「鶴來さん」
伏黒君が私の方へ手を差し伸べる。
「・・・ありがとう」
私がその手を取ると、伏黒君は引っ張って立たせてくれた。
だけど、よろけて伏黒君に寄りかかってしまう。
伏黒君は慌てて私を抱き留める。
「大丈夫ですか?」
「・・・・・・」
「怪我を・・・」
と、言葉の途中で伏黒君は口を噤んだ。
「・・・っ、う、うぅ~・・・」
私は伏黒君の肩に顔を埋めて泣いた。
すると、伏黒君はそっと右手で私の頭を撫でた。
「・・・おかえりなさい」
ただ、その一言だけを口にして。
そう、私は帰ってきた。
五条さんのいない、この混沌とした世界に。
つづく
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