第35話 夢一夜
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「・・・なんでも・・・」
何でもない。だから、学校に行こう。
そう言おうとした時だった。
「鶴來さん!」
本堂の方から、大声で叫ぶ声が聞こえてきた。
「領域に穴を開けて、外へ出られるようにする・・・!こっちへ走ってきてください!!」
この声は、夢の中に出てきた男の子の声だ。
思わず私は本堂の方を振り返る。
男の子は、必死に呼びかけてくる。
「人ひとりが通れるほどの穴だ・・・。もって数十秒・・・早く、急げ・・・!」
私はギュッと目を目を閉じて、声を無視して顔を背ける。
「和紗?」
悟君が不思議そうな顔をして、私を見つめる。
やはり、この男の子の声も悟君には聞こえていないようだ。
「・・・・・・」
私は悟君の手を握った。
「急ごう、悟君」
すると悟君は一瞬驚きながらも、すぐに笑って私の手を握り返した。
そして、私達は走り出す。
(夢なんだ。そう、夢なんだ)
走りながら、私は自分に言い聞かせていた。
(全部夢なんだ。渋谷の事も、『死滅回游』も、お父さん達の事も、全部・・・)
「いつまで逃げるつもりだよ」
私の考えを断絶するように男の子が言った。
思わず私は足を止めた。
するりと、私と悟君の手が離れる。
「夢の中に逃げて続けて・・・。アンタは、そんな柔な女じゃないだろ」
悟君が、立ち止まりこちらを振り返る。
私の異変を感じて、少し不安そうな顔で。
「いい加減、目を醒ませよ」
・・・そうだ、私はずっと夢の中にいるんだ。
あなたがずっと、胸の中に大切にしまい込んだ青い春の日々の中に。
本当なら私が、存在しない記憶の中に。
・・・それでも・・・。
それでも。
「・・・悟君」
私は悟君に歩み寄り、首元に両手を伸ばして抱きついた。
悟君は戸惑いながらも、私を抱き返して、
「ん?」
と、優しく応える。
「・・・・・・」
気持ちが揺らぐのを感じながら、私は声を絞り出すように言った。
「・・・必ず助け出すから」
存在しない記憶。
それでも、私の中にもあなたの青い春の記憶はあるから。
「傑君のことも、必ず取り戻すから」
私は両手を放し、悟君の目を見つめて言った。
「だから、待っていて・・・!」
そして、顔を逸らし駆け出そうとした時だった。
「和紗!」
悟君が私の手首を掴み、引き留める。
「・・・っ」
私はそれを振り解き、本堂に向かって走った。
何度も名前を呼ばれたけれど、決して振り向かなかった。
「はっ・・・は・・・はっ、はぁ・・・」
向かい風が、涙を切る。
だけど、立ち止まって涙を拭う時間など与えられていない。
「はっ・・・はぁ・・・っっ・・・」
涙が流れるままに、私は走り続けた。
影の螺旋は次第に小さくなり始めていた。
途中何度も躓きながら、本堂への階段を駆け上る。
最上段へたどり着くと、
「伏黒君!」
私はその名を呼んだ。
ゴリゴリゴリ・・・
影の螺旋の中央に、伏黒君は手を組み空間を削り取ろうと必死に領域を展開している。
私の呼びかけに振り向くと、
「鶴來さん・・・!」
少し安堵した表情を見せた。
しかしそれも束の間で、
「俺の足下に結界の縁がある・・・!そこへ飛び込め!」
と早口で私に説明した。
「・・・・・・」
私は無言で頷き、伏黒君の元へ駆け寄る。
しかし、
「ちょーっと待った!」
私と伏黒君の間に、虹色の髪の女の子が入り込んできた。
「・・・奇子」
と私は彼女の名前を呼んだ。
「どこへ行こうって言うのよ」
奇子は言った。
「現実の世界に戻っても、アンタも私も居場所なんて無い。出来る事も何もない。このままいつまでも甘い夢を見てりゃいいのよ!なのに・・・」
「出来る出来ないとか、居場所があるとか無いとか、関係ない」
私は両の手に呪力を込めて、身構えた。
「そこを退いて、邪魔だから」
何でもない。だから、学校に行こう。
そう言おうとした時だった。
「鶴來さん!」
本堂の方から、大声で叫ぶ声が聞こえてきた。
「領域に穴を開けて、外へ出られるようにする・・・!こっちへ走ってきてください!!」
この声は、夢の中に出てきた男の子の声だ。
思わず私は本堂の方を振り返る。
男の子は、必死に呼びかけてくる。
「人ひとりが通れるほどの穴だ・・・。もって数十秒・・・早く、急げ・・・!」
私はギュッと目を目を閉じて、声を無視して顔を背ける。
「和紗?」
悟君が不思議そうな顔をして、私を見つめる。
やはり、この男の子の声も悟君には聞こえていないようだ。
「・・・・・・」
私は悟君の手を握った。
「急ごう、悟君」
すると悟君は一瞬驚きながらも、すぐに笑って私の手を握り返した。
そして、私達は走り出す。
(夢なんだ。そう、夢なんだ)
走りながら、私は自分に言い聞かせていた。
(全部夢なんだ。渋谷の事も、『死滅回游』も、お父さん達の事も、全部・・・)
「いつまで逃げるつもりだよ」
私の考えを断絶するように男の子が言った。
思わず私は足を止めた。
するりと、私と悟君の手が離れる。
「夢の中に逃げて続けて・・・。アンタは、そんな柔な女じゃないだろ」
悟君が、立ち止まりこちらを振り返る。
私の異変を感じて、少し不安そうな顔で。
「いい加減、目を醒ませよ」
・・・そうだ、私はずっと夢の中にいるんだ。
あなたがずっと、胸の中に大切にしまい込んだ青い春の日々の中に。
本当なら私が、存在しない記憶の中に。
・・・それでも・・・。
それでも。
「・・・悟君」
私は悟君に歩み寄り、首元に両手を伸ばして抱きついた。
悟君は戸惑いながらも、私を抱き返して、
「ん?」
と、優しく応える。
「・・・・・・」
気持ちが揺らぐのを感じながら、私は声を絞り出すように言った。
「・・・必ず助け出すから」
存在しない記憶。
それでも、私の中にもあなたの青い春の記憶はあるから。
「傑君のことも、必ず取り戻すから」
私は両手を放し、悟君の目を見つめて言った。
「だから、待っていて・・・!」
そして、顔を逸らし駆け出そうとした時だった。
「和紗!」
悟君が私の手首を掴み、引き留める。
「・・・っ」
私はそれを振り解き、本堂に向かって走った。
何度も名前を呼ばれたけれど、決して振り向かなかった。
「はっ・・・は・・・はっ、はぁ・・・」
向かい風が、涙を切る。
だけど、立ち止まって涙を拭う時間など与えられていない。
「はっ・・・はぁ・・・っっ・・・」
涙が流れるままに、私は走り続けた。
影の螺旋は次第に小さくなり始めていた。
途中何度も躓きながら、本堂への階段を駆け上る。
最上段へたどり着くと、
「伏黒君!」
私はその名を呼んだ。
ゴリゴリゴリ・・・
影の螺旋の中央に、伏黒君は手を組み空間を削り取ろうと必死に領域を展開している。
私の呼びかけに振り向くと、
「鶴來さん・・・!」
少し安堵した表情を見せた。
しかしそれも束の間で、
「俺の足下に結界の縁がある・・・!そこへ飛び込め!」
と早口で私に説明した。
「・・・・・・」
私は無言で頷き、伏黒君の元へ駆け寄る。
しかし、
「ちょーっと待った!」
私と伏黒君の間に、虹色の髪の女の子が入り込んできた。
「・・・奇子」
と私は彼女の名前を呼んだ。
「どこへ行こうって言うのよ」
奇子は言った。
「現実の世界に戻っても、アンタも私も居場所なんて無い。出来る事も何もない。このままいつまでも甘い夢を見てりゃいいのよ!なのに・・・」
「出来る出来ないとか、居場所があるとか無いとか、関係ない」
私は両の手に呪力を込めて、身構えた。
「そこを退いて、邪魔だから」