第35話 夢一夜
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「ちょっ・・・」
私は驚いて振り返る。
悟君は目を閉じたまま、だけどさっきよりも顔が近い。
「・・・・・・」
私は更にしゃがみ込んで、もう一度腕の下を潜ろうと試みる。
が。
「ちょっと!?」
やっぱり悟君もしゃがみ込み、更に下に手をついて阻んだ。
目を閉じたまま、更に顔を近づける。
「も~っ!」
遂には二人とも地面に座り込む姿になって、顔は鼻先が触れ合うほどに近い。
悟君は依然として目を閉じている。
「悟君・・・」
「・・・・・・」
「退いて。学校、遅刻しちゃう・・・」
「じゃあ、早くキスして」
「・・・・・・」
「そしたら、ここから退いて、学校に行って、勉強も頑張るから」
「・・・・・・」
私は観念して、そっと瞼を伏せて、唇を近づけた。
プルルル・・・
不意打ちに携帯電話の音が鳴り、唇が触れ合う前に、思わず私も悟君も目を開けた。
「ったく、誰だよ。無視無視!さ、チューしよ」
と、もう一度目を閉じ顔を近づけるけれど、
「待って」
私は悟君を押しのけてそれを制した。
「お父さんからだ」
鳴ったのは私の携帯電話で、お父さんからの着信だった。
すると悟君は眉を顰めた。
「こんな時間に?」
「何かあったのかも・・・」
すると悟君はガッカリという様に溜息を吐いた後、立ちあがり、私の手を引いて立ち上がらせた。
そして、私は電話に応答した。
「もしもし、お父さん?」
やや間があって、
「・・・和紗・・・」
お父さんの暗く沈んだ声が返ってきた。
ただならぬ様子に私は驚き、尋ねた。
「お父さん?どうしたの」
すぐに返事は返って来ず、しばらくしてから、
「紗樹が消えた」
と言った。
唐突に出てきた聞きなれない名前に、私は戸惑う。
それを機に、お父さんは堰を切ったように一気に話し始めた。
「3日前に、突然意識を亡くして寝たきりになっていた。それが、今朝になって姿を消していた。探しても探しても、どこにもいない」
「お父さん・・・」
「一体どうすれば・・・。紗樹・・・紗樹・・・!」
そう言うと、お父さんは『紗樹』という名前を連呼して、嗚咽を零し始めた。
私は声を掛けるけれど、呼びかけは届かない。
お父さんはもう、私の存在など忘れてしまっているようだった。
「・・・・・・」
突然電話をかけてきて、嗚咽しながら、知らない名前を呼ぶお父さん。
それが少し不気味に感じて、まるで、奇妙な夢を見ているようだ。
(・・・夢・・・)
今朝見た『夢』の女の子の言葉を思い出す。
『『魂の皺』には不安や苦悩も刻まれている。それがバグを起こして、目覚めちゃうことがあるのよねぇ』
まだ電話先でお父さんが嗚咽し続けるのを聞き流しながら、呆然として悟君を見遣った。
悟君もまた、私を見返す。
「和紗?」
携帯電話を握る手が、力を失いゆっくり降りて行く。
携帯電話には、悟君からもらったストラップをつけている。
トンボ硝子の中に白い金魚を閉じ込めたストラップ。
携帯電話が手からするりと抜け落ちた。
地面に落ちて、トンボ硝子にヒビが入った。
『領域展開』
それと同時に。
『嵌合暗翳庭』
本堂へ上がる階段の最上段辺りに、突如、黒い影が螺旋を描きながら噴き出てきた。
ドドドド・・・
「・・・!」
私は驚いてその方向を見上げる。
しかし、
「ヒビ入っちゃったな」
異変に気付くことなく、悟君は私の携帯電話を拾って手渡した。
そして、私が驚いた顔をしているのを見て、
「どした?そんな顔して。UFOでも見た?」
と本堂の方に視線を向けた。
だけど、影の螺旋は見えていないようだ。
「親父さん、何て?」
悟君が尋ねた。
私は、無言で悟君を見返す。
悟君は私の表情を伺いながら、もう一度尋ねた。
「深刻なカンジ?」
私は驚いて振り返る。
悟君は目を閉じたまま、だけどさっきよりも顔が近い。
「・・・・・・」
私は更にしゃがみ込んで、もう一度腕の下を潜ろうと試みる。
が。
「ちょっと!?」
やっぱり悟君もしゃがみ込み、更に下に手をついて阻んだ。
目を閉じたまま、更に顔を近づける。
「も~っ!」
遂には二人とも地面に座り込む姿になって、顔は鼻先が触れ合うほどに近い。
悟君は依然として目を閉じている。
「悟君・・・」
「・・・・・・」
「退いて。学校、遅刻しちゃう・・・」
「じゃあ、早くキスして」
「・・・・・・」
「そしたら、ここから退いて、学校に行って、勉強も頑張るから」
「・・・・・・」
私は観念して、そっと瞼を伏せて、唇を近づけた。
プルルル・・・
不意打ちに携帯電話の音が鳴り、唇が触れ合う前に、思わず私も悟君も目を開けた。
「ったく、誰だよ。無視無視!さ、チューしよ」
と、もう一度目を閉じ顔を近づけるけれど、
「待って」
私は悟君を押しのけてそれを制した。
「お父さんからだ」
鳴ったのは私の携帯電話で、お父さんからの着信だった。
すると悟君は眉を顰めた。
「こんな時間に?」
「何かあったのかも・・・」
すると悟君はガッカリという様に溜息を吐いた後、立ちあがり、私の手を引いて立ち上がらせた。
そして、私は電話に応答した。
「もしもし、お父さん?」
やや間があって、
「・・・和紗・・・」
お父さんの暗く沈んだ声が返ってきた。
ただならぬ様子に私は驚き、尋ねた。
「お父さん?どうしたの」
すぐに返事は返って来ず、しばらくしてから、
「紗樹が消えた」
と言った。
唐突に出てきた聞きなれない名前に、私は戸惑う。
それを機に、お父さんは堰を切ったように一気に話し始めた。
「3日前に、突然意識を亡くして寝たきりになっていた。それが、今朝になって姿を消していた。探しても探しても、どこにもいない」
「お父さん・・・」
「一体どうすれば・・・。紗樹・・・紗樹・・・!」
そう言うと、お父さんは『紗樹』という名前を連呼して、嗚咽を零し始めた。
私は声を掛けるけれど、呼びかけは届かない。
お父さんはもう、私の存在など忘れてしまっているようだった。
「・・・・・・」
突然電話をかけてきて、嗚咽しながら、知らない名前を呼ぶお父さん。
それが少し不気味に感じて、まるで、奇妙な夢を見ているようだ。
(・・・夢・・・)
今朝見た『夢』の女の子の言葉を思い出す。
『『魂の皺』には不安や苦悩も刻まれている。それがバグを起こして、目覚めちゃうことがあるのよねぇ』
まだ電話先でお父さんが嗚咽し続けるのを聞き流しながら、呆然として悟君を見遣った。
悟君もまた、私を見返す。
「和紗?」
携帯電話を握る手が、力を失いゆっくり降りて行く。
携帯電話には、悟君からもらったストラップをつけている。
トンボ硝子の中に白い金魚を閉じ込めたストラップ。
携帯電話が手からするりと抜け落ちた。
地面に落ちて、トンボ硝子にヒビが入った。
『領域展開』
それと同時に。
『嵌合暗翳庭』
本堂へ上がる階段の最上段辺りに、突如、黒い影が螺旋を描きながら噴き出てきた。
ドドドド・・・
「・・・!」
私は驚いてその方向を見上げる。
しかし、
「ヒビ入っちゃったな」
異変に気付くことなく、悟君は私の携帯電話を拾って手渡した。
そして、私が驚いた顔をしているのを見て、
「どした?そんな顔して。UFOでも見た?」
と本堂の方に視線を向けた。
だけど、影の螺旋は見えていないようだ。
「親父さん、何て?」
悟君が尋ねた。
私は、無言で悟君を見返す。
悟君は私の表情を伺いながら、もう一度尋ねた。
「深刻なカンジ?」