第35話 夢一夜
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私は眉を顰め訝しく思いながら、男の子を振り向いた。
男の子は私の思いなど知る由もなく、立ち上がり、
「行きましょう。立てますか?」
と、私に手を差し伸べる。
「・・・・・・」
私がその手を凝視するだけで取ろうとしないので、今度は男の子の方が眉を顰めた。
「大丈夫ですか。どこか怪我を・・・」
「・・・大丈夫」
と私は答えた。
だけど、男の子はまだ心配そうに私の顔を伺いながら、
「・・・新田さんに聞いたんです。鶴來さんが京都の親戚のところに向かったと」
と言った。
私は男の子の顔を見返す。
私が京都に?
一体、彼は何を言ってるんだろう。
男の子は私の目を見据えて、続けた。
「それが何か引っ掛かって」
「・・・・・・」
「こういう事態になった今、鶴來さんなら真っ先に糠田が森に向かうはずだと思ったから。何かあったのかと心配でここに」
糠田が森。
その言葉を聞いて、鼓動がドクンと強く響いた。
そう、私の故郷は糠田が森だ。
そこには、おじいちゃんとお父さんがいて・・・。
「・・・どうして京都に行こうと?」
男の子に尋ねられて、私はハッと息を飲んだ。
「京都に何か目的が?」
「・・・・・・」
京都。
目的だなんて、そんなの知らない。
初対面の男の子に意味不明なことを質問されて、いくら夢でも脈絡がなさすぎる。
「・・・観光にでも行こうと思ってたんじゃない?」
と私は笑いながら言った。
「あなたに心配してもらうことなんて何もないわ」
すると、男の子はより深刻な表情になって、
「誤魔化すなよ」
と厳しい声で言った。
私は少し驚いて肩を震わせる。
「何かあったんだな」
男の子は続けた。
「・・・『死滅回游』と関わりが?」
その言葉に、再び鼓動が強く鳴り響く。
「死滅・・・回游・・・」
そして。
『知ってる?』
傑君の話し声が脳裏に響く。
『本来なら生息するはずのない海域に流されて、環境に適応出来ず、元の海にも戻れず、死んでいく魚達がいることを』
こんな会話、いつしたんだろう。
『そういった魚達を死滅回游魚と呼ぶそうだ』
そう語る傑君の額には、手術痕がはしっている。
・・・いや、彼は傑君じゃない。
『その者達に、生き残りと進化を懸けて、殺し合いをしてもらう』
彼の名は。
「・・・・・・!」
私は一気に大きく息を呑んだ。
まるで濁流に飲まれていたところ、水面から顔を上げたように。
「私・・・」
息が苦しい。
空気と一緒に、濁流の水も飲み込んでしまったかのように。
「私は・・・!」
「鶴來さん!」
男の子が私を落ち着かせようと肩に手を置く。
私は彼の顔を見返し、
「伏黒君・・・!」
と名前を呼んだ。
「私の領域展開『暎魂蓮蓮夢苑』は」
そこへ突然、女の子の声が響き渡った。
「領域内に引き込んだ時点で、対象者は『魂の皺』に刻まれた記憶と願望の世界に落ち、領域を解除しても被呪者の意識はそのまま目覚めることはない」
私と伏黒君は声の方を振り向く。
そこには、虹色をした長い髪の女の子がいた。
「だけど、『魂の皺』には不安や苦悩も刻まれている。それがバグを起こして、目覚めちゃうことがあるのよねぇ」
そう言いながら、彼女は私達に近づいて来る。
私と伏黒君は警戒して身構える。
「まっ、術式も回復したことだし。今度こそ目覚めないように、もっと甘ぁい夢を見せてあげる」
そして、両の手の親指と人差し指を合わせて円を作る。
同時に、伏黒君も身構える。しかし、
「『領域展開』」
伏黒君よりも早く、女の子が唱える。
「『暎魂蓮蓮夢苑』」
その次の瞬間、
「伏黒君!」
伏黒君は弾き飛ばされ、私は再び鏡張りの球体に閉じ込められた。
男の子は私の思いなど知る由もなく、立ち上がり、
「行きましょう。立てますか?」
と、私に手を差し伸べる。
「・・・・・・」
私がその手を凝視するだけで取ろうとしないので、今度は男の子の方が眉を顰めた。
「大丈夫ですか。どこか怪我を・・・」
「・・・大丈夫」
と私は答えた。
だけど、男の子はまだ心配そうに私の顔を伺いながら、
「・・・新田さんに聞いたんです。鶴來さんが京都の親戚のところに向かったと」
と言った。
私は男の子の顔を見返す。
私が京都に?
一体、彼は何を言ってるんだろう。
男の子は私の目を見据えて、続けた。
「それが何か引っ掛かって」
「・・・・・・」
「こういう事態になった今、鶴來さんなら真っ先に糠田が森に向かうはずだと思ったから。何かあったのかと心配でここに」
糠田が森。
その言葉を聞いて、鼓動がドクンと強く響いた。
そう、私の故郷は糠田が森だ。
そこには、おじいちゃんとお父さんがいて・・・。
「・・・どうして京都に行こうと?」
男の子に尋ねられて、私はハッと息を飲んだ。
「京都に何か目的が?」
「・・・・・・」
京都。
目的だなんて、そんなの知らない。
初対面の男の子に意味不明なことを質問されて、いくら夢でも脈絡がなさすぎる。
「・・・観光にでも行こうと思ってたんじゃない?」
と私は笑いながら言った。
「あなたに心配してもらうことなんて何もないわ」
すると、男の子はより深刻な表情になって、
「誤魔化すなよ」
と厳しい声で言った。
私は少し驚いて肩を震わせる。
「何かあったんだな」
男の子は続けた。
「・・・『死滅回游』と関わりが?」
その言葉に、再び鼓動が強く鳴り響く。
「死滅・・・回游・・・」
そして。
『知ってる?』
傑君の話し声が脳裏に響く。
『本来なら生息するはずのない海域に流されて、環境に適応出来ず、元の海にも戻れず、死んでいく魚達がいることを』
こんな会話、いつしたんだろう。
『そういった魚達を死滅回游魚と呼ぶそうだ』
そう語る傑君の額には、手術痕がはしっている。
・・・いや、彼は傑君じゃない。
『その者達に、生き残りと進化を懸けて、殺し合いをしてもらう』
彼の名は。
「・・・・・・!」
私は一気に大きく息を呑んだ。
まるで濁流に飲まれていたところ、水面から顔を上げたように。
「私・・・」
息が苦しい。
空気と一緒に、濁流の水も飲み込んでしまったかのように。
「私は・・・!」
「鶴來さん!」
男の子が私を落ち着かせようと肩に手を置く。
私は彼の顔を見返し、
「伏黒君・・・!」
と名前を呼んだ。
「私の領域展開『暎魂蓮蓮夢苑』は」
そこへ突然、女の子の声が響き渡った。
「領域内に引き込んだ時点で、対象者は『魂の皺』に刻まれた記憶と願望の世界に落ち、領域を解除しても被呪者の意識はそのまま目覚めることはない」
私と伏黒君は声の方を振り向く。
そこには、虹色をした長い髪の女の子がいた。
「だけど、『魂の皺』には不安や苦悩も刻まれている。それがバグを起こして、目覚めちゃうことがあるのよねぇ」
そう言いながら、彼女は私達に近づいて来る。
私と伏黒君は警戒して身構える。
「まっ、術式も回復したことだし。今度こそ目覚めないように、もっと甘ぁい夢を見せてあげる」
そして、両の手の親指と人差し指を合わせて円を作る。
同時に、伏黒君も身構える。しかし、
「『領域展開』」
伏黒君よりも早く、女の子が唱える。
「『暎魂蓮蓮夢苑』」
その次の瞬間、
「伏黒君!」
伏黒君は弾き飛ばされ、私は再び鏡張りの球体に閉じ込められた。