第35話 夢一夜
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その笑顔が嬉しくて、私は笑った。
「明日は土曜日だし、改めて皆でお祝いしようか」
「あ、悪ぃ。明日は実家に帰るように言われてんの」
「あ、そうなの」
「うん。『五条悟爆誕祭』が催されるからさ」
「へー・・・」
この年になっても実家で誕生会って、微笑ましいな。
っていうか、それを嫌がらない五条さんも意外というか可愛いというか。
「・・・なんか、本当に悟君ってお坊ちゃまなんだね」
「あ?オ・・・僕のこと馬鹿にしてんの?」
「いや、そうじゃなくて。愛情と関心を一身に受けてすくすくと育った感じが・・・」
そう言いながら、私は妙に納得してた。
だから、この人はどれだけ露悪的に振舞っていても、結局は人に優しくて人を助けることを厭わないんだ。
「・・・・・・」
私は手を伸ばして、五条さんの口元についたクリームを拭った。
すると五条さんは驚いた顔で私を見返した。
「口元にクリームのヒゲがついてたよ」
とイタズラっぽく笑って、私はその手を引っ込めようとした。
だけど。
五条さんが私の手を取って、それを引き留めた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しばらくの間、私と五条さんは見つめ合う。
そして、五条さんはゆっくり顔を私の方へ近づける。
「ちょっと!?」
私は慌ててもう片方の手で五条さんの顔を押しやりそれを制した。
「何するの!?」
「いやぁ、てっきりそういうことかと」
「そういうことってどういうことよ」
「お祝いのキス、みたいな?」
「・・・なにそれ、馬鹿じゃない」
と、私は頬を赤くして顔を逸らした。
すると五条さんは私の手を放して、
「・・・でも割と本気で、オ・・・僕は期待してたんだけど」
と言った。
私は眉をひそめて振り返る。
「・・・さっきから何なの、それ」
「ん?」
「一人称『僕』がすごくぎごちないんだけど」
「しょうがねーだろ、まだ慣れないんだからよ」
「どういう風の吹き回しなの。急に・・・」
すると、五条さんは一瞬黙り込み遠くを見つめながら言った。
「だって、一人称『俺』じゃ威圧感あって良くないんだろ」
「ん・・・?」
言ったことの意味が分からず小首を傾げると、
「・・・教師になりたいんだ」
五条さんは言った。
「強く聡い仲間を育てる。そして、もう誰も置き去りにしない・・・独りにさせない」
その言葉を聞き終わると、夜風がまた強く吹いて私達をあおった。
だけど、寒くなんかない。
心に炎が灯ったように熱く、身体も火照っている感覚がする。
ずっと心の中にこびりついていた錆びのようなものが、溶けて消えていく感覚がする。
すると、五条さんが照れ臭そうに口を尖らせて言った。
「このことは他の誰にも話すなよ。どうせ無理だとか向いてないだとか馬鹿にするに決まってるからな・・・」
「馬鹿になんてしないよ」
「そう言うオマエは笑ってるじゃねーか」
「・・・嬉しいんだよ」
だけど、どうしてだろう。
涙が溢れて零れる。
「・・・すごくいいと思う。悟君が先生って」
これ以上は言葉が続かず、私は涙を拭った。
傑君が残したものは、寂しさや悲しみやそんなものばかりじゃなかった。
もっと大きな、かけがえのないものもあったんだ。
だからこそ、やっぱり傍にいてあげて欲しかった。
見届けてあげて欲しかった。
それが、叶わないとわかっても尚。
「・・・和紗」
五条さんが、私を両腕で抱き締める。
包み込むように優しく。
「好きだ」
それはずっと聞きたくて、でも、聞いてはいけなかった言葉。
私をここに、永遠に閉じ込める呪いとなるから。
「オマエの心が、他の誰かのものでもいい」
抱き締めた両腕に力が籠る。
「ずっと、俺の傍にいてくれ」
これは、存在しない記憶。
私の中に存在する、別の記憶に生きるもう一人の私が言う。
私は、ここにはいない存在なのだと。
もう一人の私は、ずっとこの世界から一線を引いていて、心の中では決してみんなを名前で呼ばなかった。
だけど。
悟君の体温と鼓動が伝わってくる。
それを感じているのは、今ここにいる私。
「・・・うん」
私は両手を悟君の背中に回して抱き返した。
「ずっと傍にいる」
私は言った。
「ずっと悟君の傍にいる」
もう一人の私は、遠ざかって消えて行った。
「心もあげるから」
「明日は土曜日だし、改めて皆でお祝いしようか」
「あ、悪ぃ。明日は実家に帰るように言われてんの」
「あ、そうなの」
「うん。『五条悟爆誕祭』が催されるからさ」
「へー・・・」
この年になっても実家で誕生会って、微笑ましいな。
っていうか、それを嫌がらない五条さんも意外というか可愛いというか。
「・・・なんか、本当に悟君ってお坊ちゃまなんだね」
「あ?オ・・・僕のこと馬鹿にしてんの?」
「いや、そうじゃなくて。愛情と関心を一身に受けてすくすくと育った感じが・・・」
そう言いながら、私は妙に納得してた。
だから、この人はどれだけ露悪的に振舞っていても、結局は人に優しくて人を助けることを厭わないんだ。
「・・・・・・」
私は手を伸ばして、五条さんの口元についたクリームを拭った。
すると五条さんは驚いた顔で私を見返した。
「口元にクリームのヒゲがついてたよ」
とイタズラっぽく笑って、私はその手を引っ込めようとした。
だけど。
五条さんが私の手を取って、それを引き留めた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しばらくの間、私と五条さんは見つめ合う。
そして、五条さんはゆっくり顔を私の方へ近づける。
「ちょっと!?」
私は慌ててもう片方の手で五条さんの顔を押しやりそれを制した。
「何するの!?」
「いやぁ、てっきりそういうことかと」
「そういうことってどういうことよ」
「お祝いのキス、みたいな?」
「・・・なにそれ、馬鹿じゃない」
と、私は頬を赤くして顔を逸らした。
すると五条さんは私の手を放して、
「・・・でも割と本気で、オ・・・僕は期待してたんだけど」
と言った。
私は眉をひそめて振り返る。
「・・・さっきから何なの、それ」
「ん?」
「一人称『僕』がすごくぎごちないんだけど」
「しょうがねーだろ、まだ慣れないんだからよ」
「どういう風の吹き回しなの。急に・・・」
すると、五条さんは一瞬黙り込み遠くを見つめながら言った。
「だって、一人称『俺』じゃ威圧感あって良くないんだろ」
「ん・・・?」
言ったことの意味が分からず小首を傾げると、
「・・・教師になりたいんだ」
五条さんは言った。
「強く聡い仲間を育てる。そして、もう誰も置き去りにしない・・・独りにさせない」
その言葉を聞き終わると、夜風がまた強く吹いて私達をあおった。
だけど、寒くなんかない。
心に炎が灯ったように熱く、身体も火照っている感覚がする。
ずっと心の中にこびりついていた錆びのようなものが、溶けて消えていく感覚がする。
すると、五条さんが照れ臭そうに口を尖らせて言った。
「このことは他の誰にも話すなよ。どうせ無理だとか向いてないだとか馬鹿にするに決まってるからな・・・」
「馬鹿になんてしないよ」
「そう言うオマエは笑ってるじゃねーか」
「・・・嬉しいんだよ」
だけど、どうしてだろう。
涙が溢れて零れる。
「・・・すごくいいと思う。悟君が先生って」
これ以上は言葉が続かず、私は涙を拭った。
傑君が残したものは、寂しさや悲しみやそんなものばかりじゃなかった。
もっと大きな、かけがえのないものもあったんだ。
だからこそ、やっぱり傍にいてあげて欲しかった。
見届けてあげて欲しかった。
それが、叶わないとわかっても尚。
「・・・和紗」
五条さんが、私を両腕で抱き締める。
包み込むように優しく。
「好きだ」
それはずっと聞きたくて、でも、聞いてはいけなかった言葉。
私をここに、永遠に閉じ込める呪いとなるから。
「オマエの心が、他の誰かのものでもいい」
抱き締めた両腕に力が籠る。
「ずっと、俺の傍にいてくれ」
これは、存在しない記憶。
私の中に存在する、別の記憶に生きるもう一人の私が言う。
私は、ここにはいない存在なのだと。
もう一人の私は、ずっとこの世界から一線を引いていて、心の中では決してみんなを名前で呼ばなかった。
だけど。
悟君の体温と鼓動が伝わってくる。
それを感じているのは、今ここにいる私。
「・・・うん」
私は両手を悟君の背中に回して抱き返した。
「ずっと傍にいる」
私は言った。
「ずっと悟君の傍にいる」
もう一人の私は、遠ざかって消えて行った。
「心もあげるから」