第35話 夢一夜
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夕飯を食べ終えて、私達は高専に戻った。
「では、先生には私が報告してきます」
と、伊地知さんは私達と別れた。
私と五条さんは寮の方へ歩き出す。
「ったく、あんま伊地知を甘やかすなよ」
五条さんが言った。
「ちょっと褒めるとすぐ調子のるんだからな、アイツは」
「悟君が厳し過ぎるんだよ」
「オ・・・じゃなくて僕のは可愛い後輩を思っての愛のムチだよ」
「・・・・・・」
私はふと足を止めた。
「今・・・」
「僕」って言った?
そう尋ねようとしたら、五条さんも足を止めた。
しかしその視線は私を見透かして、ある一点に向けられている。
「・・・・・・」
つられて私もその方向を見た。
そこはゴミ捨て場で、ホイールが錆びつきチェーンが外れたボロボロの自転車が捨てられている。
それは、かつて傑君と二人乗りしていた自転車だった。
「・・・・・・」
五条さんはしばらく立ち尽くして自転車を眺めた後、何も言わず再び歩き始めた。
五条さんは変わった。
ううん、変わったんじゃなくて、大人になろうとしているんだ。
切なさや寂しさを胸に押し込めたままで。
ふと見せるそんな表情に、私は心を揺さぶられる。
「大丈夫?」
その度、何度も確かめるように尋ねたくなって、何度もその言葉を飲み込んだ。
大丈夫だなんて、それこそデリカシーのない言葉だから。
「・・・・・・」
私も何も言わず、五条さんの後に続いた。
そして寮に戻り、
「じゃあな」
と五条さんは自分の部屋に戻り、
「うん、お疲れ様」
と私も自分の部屋へ向かい階段を上がった。
自分の部屋に戻る前に、硝子さんの部屋に立ち寄った。
コンコンとドアをノックすると、
「どうぞ~」
ドアの向う側から声が返ってきた。
なので、私はドアを開けて部屋に入った。
「あ、和紗。おかえり~」
と言いながらも、硝子さんは机に噛り付く様にして勉強している。
そんな硝子さんを見たことがないので、私は戸惑い目を瞬かせる。
「何してるの?」
「勉強。見てわかんない?」
「勉強はわかるけど・・・何の?」
「医学」
「え!?」
私は驚きの声を上げた。
「医学って、お医者さんの?」
「そ」
「なんでまた・・・」
「高専卒業したら、医学部に入って学び直ししようと思って」
硝子さんは書く手をそのままに言った。
「今から勉強しないとしんどいかなーと思って。それで予習ってワケ」
「そっか・・・」
この調子だと「あのこと」も忘れているだろうな。
念押したいけれど、なんだかそれも申し訳ない気がして言い出せない。
「ごめんね、ジャマして」
「別に。っていうか何か用があるんじゃないの?」
「ううん、帰ったよって報告したかっただけだから。勉強頑張ってね」
それだけ言い残して、私は自分の部屋に戻った。
その晩遅く、日付が変わる5分前。
私は小さな箱を携えて、五条さんの部屋のドアをそっとノックした。
「・・・・・・」
だけど、何の反応もない。
もう眠っているのかもしれない。
(そっか。仕方ないよね。また明日にすればいいか)
そう思って踵を返し、ドアの前から離れた。
ひたひたと廊下を歩き、自分の部屋へ向かう。
しかしその途中でふと思い当たって、部屋には戻らず屋上まで向かった。
「寒・・・」
屋上へのドアを開けると、冷たい夜風が吹き付けてきた。
屋上へ出て辺りを見回していると、
「どうしたんだよ」
頭上から声を掛けられた。
振り返り見上げると、昇降口の屋根の上に腰かける五条さんがいた。
いつしかと同じように。
「悟君を探してたの」
と私が言うと、五条さんは少し驚いたように目を丸めた。
だけどすぐにニッと笑って、
「こんな夜更けに?何の用なワケ?」
と屋根から飛び降りスタッと着地した。
「んー・・・、ちょっとね」
と私は携帯電話で時刻を気にしながら応える。
そして、心の中で密かにカウントダウンを始めた。
(10、9、8・・・)
「では、先生には私が報告してきます」
と、伊地知さんは私達と別れた。
私と五条さんは寮の方へ歩き出す。
「ったく、あんま伊地知を甘やかすなよ」
五条さんが言った。
「ちょっと褒めるとすぐ調子のるんだからな、アイツは」
「悟君が厳し過ぎるんだよ」
「オ・・・じゃなくて僕のは可愛い後輩を思っての愛のムチだよ」
「・・・・・・」
私はふと足を止めた。
「今・・・」
「僕」って言った?
そう尋ねようとしたら、五条さんも足を止めた。
しかしその視線は私を見透かして、ある一点に向けられている。
「・・・・・・」
つられて私もその方向を見た。
そこはゴミ捨て場で、ホイールが錆びつきチェーンが外れたボロボロの自転車が捨てられている。
それは、かつて傑君と二人乗りしていた自転車だった。
「・・・・・・」
五条さんはしばらく立ち尽くして自転車を眺めた後、何も言わず再び歩き始めた。
五条さんは変わった。
ううん、変わったんじゃなくて、大人になろうとしているんだ。
切なさや寂しさを胸に押し込めたままで。
ふと見せるそんな表情に、私は心を揺さぶられる。
「大丈夫?」
その度、何度も確かめるように尋ねたくなって、何度もその言葉を飲み込んだ。
大丈夫だなんて、それこそデリカシーのない言葉だから。
「・・・・・・」
私も何も言わず、五条さんの後に続いた。
そして寮に戻り、
「じゃあな」
と五条さんは自分の部屋に戻り、
「うん、お疲れ様」
と私も自分の部屋へ向かい階段を上がった。
自分の部屋に戻る前に、硝子さんの部屋に立ち寄った。
コンコンとドアをノックすると、
「どうぞ~」
ドアの向う側から声が返ってきた。
なので、私はドアを開けて部屋に入った。
「あ、和紗。おかえり~」
と言いながらも、硝子さんは机に噛り付く様にして勉強している。
そんな硝子さんを見たことがないので、私は戸惑い目を瞬かせる。
「何してるの?」
「勉強。見てわかんない?」
「勉強はわかるけど・・・何の?」
「医学」
「え!?」
私は驚きの声を上げた。
「医学って、お医者さんの?」
「そ」
「なんでまた・・・」
「高専卒業したら、医学部に入って学び直ししようと思って」
硝子さんは書く手をそのままに言った。
「今から勉強しないとしんどいかなーと思って。それで予習ってワケ」
「そっか・・・」
この調子だと「あのこと」も忘れているだろうな。
念押したいけれど、なんだかそれも申し訳ない気がして言い出せない。
「ごめんね、ジャマして」
「別に。っていうか何か用があるんじゃないの?」
「ううん、帰ったよって報告したかっただけだから。勉強頑張ってね」
それだけ言い残して、私は自分の部屋に戻った。
その晩遅く、日付が変わる5分前。
私は小さな箱を携えて、五条さんの部屋のドアをそっとノックした。
「・・・・・・」
だけど、何の反応もない。
もう眠っているのかもしれない。
(そっか。仕方ないよね。また明日にすればいいか)
そう思って踵を返し、ドアの前から離れた。
ひたひたと廊下を歩き、自分の部屋へ向かう。
しかしその途中でふと思い当たって、部屋には戻らず屋上まで向かった。
「寒・・・」
屋上へのドアを開けると、冷たい夜風が吹き付けてきた。
屋上へ出て辺りを見回していると、
「どうしたんだよ」
頭上から声を掛けられた。
振り返り見上げると、昇降口の屋根の上に腰かける五条さんがいた。
いつしかと同じように。
「悟君を探してたの」
と私が言うと、五条さんは少し驚いたように目を丸めた。
だけどすぐにニッと笑って、
「こんな夜更けに?何の用なワケ?」
と屋根から飛び降りスタッと着地した。
「んー・・・、ちょっとね」
と私は携帯電話で時刻を気にしながら応える。
そして、心の中で密かにカウントダウンを始めた。
(10、9、8・・・)