第35話 夢一夜
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「さっき、直哉さんが言ったこと・・・」
五条さんは答えない。
それで、直哉さんの話した事が事実なのだと理解した。
私は五条さんから顔を逸らした。
力なく涙が流れた。
それを拭う力もない。
私がそばにいて見ていた傑君は、一体誰だったのだろう。
私は、何も見えていなかった。
五条さんの言った通り、何もわかっていなかったんだ。
「・・・・・・」
涙が流れるままに立ち尽くしていたら、背中に再び手が触れるのを感じた。
私は再び五条さんの顔を見上げた。
「・・・・・・」
五条さんは前を見据えたままで視線は交わらず、言葉もない。
だけど、その手はそっと寄り添うように優しい。
「悟君・・・」
涙声でそう零し、私は堪えきれず五条さんの身体に寄りかかった。
五条さんはやはり言葉はないまま、もう片方の手も背中に添えて私を抱き留めた。
怒りと、悲しみと、憎しみと、無力さと、不甲斐なさと、失望と、寂しさと。
それでも、否定しきれない傑君を親しく思う気持ちも。
心に溢れて溺れそうなほどの感情が、五条さんの手から伝わって来る。
今この時、私達は互いの抱え込んだ感情を分かち合っていた。
こんなことになって、やっと。
プルルル・・・
携帯電話の音が鳴る。
五条さんの電話だ。
だけど、五条さんは私を抱き留めたまま応答しようとしない。
なので、私は身体を五条さんから離して、
「・・・電話」
と応答するように促した。
すると、五条さんは少し億劫そうにしながらズボンのポケットから携帯電話を取り出した。
「・・・もしもし」
とボソボソとした声で応答した直後、
「・・・!」
瞬時に、五条さんの表情が緊迫した。
そして、
「・・・そこにまだいるのか」
と打ち震える声で言う。
「とっ捕まえてろ。どこにも行かせんな」
ただならぬ様子に、涙を拭っていた私も緊迫する。
五条さんはすぐに電話を切ると、何も言わず駆け出した。
「悟君!?」
五条さんは振り返ることなく、走って行ってしまった。
(まさか・・・)
遠ざかる後ろ姿を見ながら、私は予感していた。
そして、その予感は当たっていた。
だけど、同時に抱いた淡い期待とは程遠い顛末を迎えることになった。
寮に戻ると、ほどなくして硝子さんが戻ってきた。
「夏油に会ったよ」
私と顔を合わせるなり、硝子さんは言った。
やっぱりと思った。
さっきの電話は、傑君がいたことを報せるものだったのだ。
「・・・・・・」
元気そうだった?
あれ以上痩せてなかった?
目のクマは?
ちゃんと眠れてそうだった?
彼はもう友達じゃないのに。もはや残虐な行為を犯した呪詛師なのに。
そんなことが気がかりで尋ねそうになってしまう。
「思いのほか元気だったよ。こっちが拍子抜けするくらい」
先回りするように、硝子さんが言った。
「吹っ切れたみたいににこやかでさ。こっちの気も知らないで」
でも、それ以上は触れなかった。
「・・・五条ももうすぐ戻って来るんじゃないかな」
そう言い残して、硝子さんは自分の部屋へ入っていった。
それから、私は五条さんが戻るのを待った。
陽が傾き始めた頃、一度部屋を訪ねたけれど戻ってなかった。
電話をしても応答はない。
落ち着かず高専の敷地内をウロウロとしていると、さっき一緒にいた本堂への石段に腰かけているのを見かけた。
「・・・・・・」
五条さんは俯いて微動だにせず、下段から見上げている私に気づく様子はない。
そばに行こうと石段に足をかけた時だった。
「何故追わなかった」
上から夜蛾さんが降りて来た。
少し間を置いてから、
「・・・それ・・・聞きます?」
と五条さんが口を開いた。
「・・・いや、いい。悪かった」
と夜蛾さんが言った後、しばらく沈黙が続いた。
「先生」
五条さんが再び口を開いた。
「俺強いよね?」
夜蛾さんはそう尋ねられて答える。
「あぁ。生意気にもな」
「でも、俺だけ強くても駄目らしいよ」
そう言うと、五条さんは俯いていた顔をようやく上げた。
「俺が救えるのは、他人に救われる準備がある奴だけだ」
五条さんは答えない。
それで、直哉さんの話した事が事実なのだと理解した。
私は五条さんから顔を逸らした。
力なく涙が流れた。
それを拭う力もない。
私がそばにいて見ていた傑君は、一体誰だったのだろう。
私は、何も見えていなかった。
五条さんの言った通り、何もわかっていなかったんだ。
「・・・・・・」
涙が流れるままに立ち尽くしていたら、背中に再び手が触れるのを感じた。
私は再び五条さんの顔を見上げた。
「・・・・・・」
五条さんは前を見据えたままで視線は交わらず、言葉もない。
だけど、その手はそっと寄り添うように優しい。
「悟君・・・」
涙声でそう零し、私は堪えきれず五条さんの身体に寄りかかった。
五条さんはやはり言葉はないまま、もう片方の手も背中に添えて私を抱き留めた。
怒りと、悲しみと、憎しみと、無力さと、不甲斐なさと、失望と、寂しさと。
それでも、否定しきれない傑君を親しく思う気持ちも。
心に溢れて溺れそうなほどの感情が、五条さんの手から伝わって来る。
今この時、私達は互いの抱え込んだ感情を分かち合っていた。
こんなことになって、やっと。
プルルル・・・
携帯電話の音が鳴る。
五条さんの電話だ。
だけど、五条さんは私を抱き留めたまま応答しようとしない。
なので、私は身体を五条さんから離して、
「・・・電話」
と応答するように促した。
すると、五条さんは少し億劫そうにしながらズボンのポケットから携帯電話を取り出した。
「・・・もしもし」
とボソボソとした声で応答した直後、
「・・・!」
瞬時に、五条さんの表情が緊迫した。
そして、
「・・・そこにまだいるのか」
と打ち震える声で言う。
「とっ捕まえてろ。どこにも行かせんな」
ただならぬ様子に、涙を拭っていた私も緊迫する。
五条さんはすぐに電話を切ると、何も言わず駆け出した。
「悟君!?」
五条さんは振り返ることなく、走って行ってしまった。
(まさか・・・)
遠ざかる後ろ姿を見ながら、私は予感していた。
そして、その予感は当たっていた。
だけど、同時に抱いた淡い期待とは程遠い顛末を迎えることになった。
寮に戻ると、ほどなくして硝子さんが戻ってきた。
「夏油に会ったよ」
私と顔を合わせるなり、硝子さんは言った。
やっぱりと思った。
さっきの電話は、傑君がいたことを報せるものだったのだ。
「・・・・・・」
元気そうだった?
あれ以上痩せてなかった?
目のクマは?
ちゃんと眠れてそうだった?
彼はもう友達じゃないのに。もはや残虐な行為を犯した呪詛師なのに。
そんなことが気がかりで尋ねそうになってしまう。
「思いのほか元気だったよ。こっちが拍子抜けするくらい」
先回りするように、硝子さんが言った。
「吹っ切れたみたいににこやかでさ。こっちの気も知らないで」
でも、それ以上は触れなかった。
「・・・五条ももうすぐ戻って来るんじゃないかな」
そう言い残して、硝子さんは自分の部屋へ入っていった。
それから、私は五条さんが戻るのを待った。
陽が傾き始めた頃、一度部屋を訪ねたけれど戻ってなかった。
電話をしても応答はない。
落ち着かず高専の敷地内をウロウロとしていると、さっき一緒にいた本堂への石段に腰かけているのを見かけた。
「・・・・・・」
五条さんは俯いて微動だにせず、下段から見上げている私に気づく様子はない。
そばに行こうと石段に足をかけた時だった。
「何故追わなかった」
上から夜蛾さんが降りて来た。
少し間を置いてから、
「・・・それ・・・聞きます?」
と五条さんが口を開いた。
「・・・いや、いい。悪かった」
と夜蛾さんが言った後、しばらく沈黙が続いた。
「先生」
五条さんが再び口を開いた。
「俺強いよね?」
夜蛾さんはそう尋ねられて答える。
「あぁ。生意気にもな」
「でも、俺だけ強くても駄目らしいよ」
そう言うと、五条さんは俯いていた顔をようやく上げた。
「俺が救えるのは、他人に救われる準備がある奴だけだ」