第35話 夢一夜
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退院して一週間が過ぎた。
数日の入院生活の間に体力は著しく衰えてしまっていた。
「・・・はぁ」
本堂への石段を上がっている途中で息が上がってしまって、私はそのままそこに腰かけた。
退院して以来、放課後はリハビリとして石段の昇降運動をルーティンにしている。
「・・・・・・」
身体がずっしりと重く感じる。
それはただ体力の衰えだけじゃない。
心が鉛の様に重くて、身体を引きずっているのだ。
「・・・っ」
私は両手で自分の頬をパンパンと叩いて活を入れた。
そして立ち上がり、再び石段を上がろうとした時だった。
「何してんの?」
という声が聞こえてきて、私は上段の方を見上げた。
するとそこには、
「直哉さん」
そう、禪院直哉がいたのだ。
「おひさ~。交流会以来やな」
と薄ら笑いを浮かべながら、直哉さんは石段を下りてくる。
「どうしてここに」
私が警戒しながら尋ねると、
「禪院家の者として、こっちの学校に用事があったんや。次期当主は色々と大変やねん」
と直哉さんは私のひとつ上の段で立ち止まった。
そして、私を見下ろしながら言った。
「ま、今はそっちの方がもっと大変やろうけどな」
その含みのある言い方に、私は不可解に思い眉をひそめた。
すると、直哉さんは口元を釣り上げて底意地悪そうな笑みを浮かべた。
「ずいぶんとやらかしてもうたなぁ、夏油君」
その言葉に、私は凍り付いたように表情を失った。
「やっぱりなぁ、いつかは何かやらかすと思っててん、ああいう優等生タイプは」
「・・・・・・」
「ああいう奴らは内に鬱憤を貯め込むからな、いつかどっかでプッツンすんねん。綺麗事だけで呪術師やってけるほど、現実は甘くない」
「・・・・・・」
「でも、まさか自分の両親まで手にかけるとはなぁ」
それを聞いて私は、
「・・・え」
そう呟いて、呆然と直哉さんの顔を見上げた。
すると直哉さんは少し驚いた顔をして、
「あれ?ひょっとして知らんかったん?」
そしてすぐに、薄ら笑いを浮かべて続けた。
「夏油君、自分の親も殺してもうてん」
それを聞いても、すぐには理解できなかった。
ただ。
『両親は、私の誇りだよ。私は、彼らに私を誇りに思ってもらえるように呪術師をしている』
かつて傑君が語っていた言葉が、脳裏にリフレインしていた。
リフレインは虚ろに響く。
ガクリと身体の力が抜けて、私はそのまま後ろに倒れそうになった。
その時、誰かが私の背中を支えた。
「・・・・・・」
私は後ろを振り返り、その人を見上げた。
「直哉」
その人は五条さんだった。
五条さんは私の背中に手を添えたまま隣に立ち、直哉さんに言った。
「余計なことペラペラしゃべんじゃねーよ」
「悟君」
直哉さんは態度を下手に急変させた。
「いやあ~、まさか知らんと思わんかってんて。だって、夏油君の話題で呪術界は持ちきりやん?知らんって知ってたら、こんな胸糞悪いこと話さへんよ」
「黙れ」
五条さんの口調は静かだが、明らかな怒りが込められていた。
「さっさと消えろ」
すると、ずっと直哉さんの顔に張り付いていた軽薄な笑みが消えた。
「・・・言われんでも消えるよ。もう用事は済んだしな」
そして、コツコツと音を立てながら石段を降り始める。
私達の隣を通り過ぎたところで、もう一度立ち止まり振り返ると、
「ほな、さいなら」
と、やはり軽薄な口調で言い残し去っていった。
「・・・・・・」
私は五条さんから少し距離を取った。
すると五条さんは私の背中を支えてくれていた手をそっと降ろした。
「・・・こないだは悪かった」
五条さんは言った。
「あんな風に怒鳴りつけて。辛い目に遭ったのは、オマエの方なのに」
「・・・・・・」
もはやそんなことはどうでもよかった。
「・・・本当なの?」
私は呟くように尋ねて、五条さんの顔を見上げた。
視線が合うと、五条さんは動揺した様にピクリと眉を動かした。
数日の入院生活の間に体力は著しく衰えてしまっていた。
「・・・はぁ」
本堂への石段を上がっている途中で息が上がってしまって、私はそのままそこに腰かけた。
退院して以来、放課後はリハビリとして石段の昇降運動をルーティンにしている。
「・・・・・・」
身体がずっしりと重く感じる。
それはただ体力の衰えだけじゃない。
心が鉛の様に重くて、身体を引きずっているのだ。
「・・・っ」
私は両手で自分の頬をパンパンと叩いて活を入れた。
そして立ち上がり、再び石段を上がろうとした時だった。
「何してんの?」
という声が聞こえてきて、私は上段の方を見上げた。
するとそこには、
「直哉さん」
そう、禪院直哉がいたのだ。
「おひさ~。交流会以来やな」
と薄ら笑いを浮かべながら、直哉さんは石段を下りてくる。
「どうしてここに」
私が警戒しながら尋ねると、
「禪院家の者として、こっちの学校に用事があったんや。次期当主は色々と大変やねん」
と直哉さんは私のひとつ上の段で立ち止まった。
そして、私を見下ろしながら言った。
「ま、今はそっちの方がもっと大変やろうけどな」
その含みのある言い方に、私は不可解に思い眉をひそめた。
すると、直哉さんは口元を釣り上げて底意地悪そうな笑みを浮かべた。
「ずいぶんとやらかしてもうたなぁ、夏油君」
その言葉に、私は凍り付いたように表情を失った。
「やっぱりなぁ、いつかは何かやらかすと思っててん、ああいう優等生タイプは」
「・・・・・・」
「ああいう奴らは内に鬱憤を貯め込むからな、いつかどっかでプッツンすんねん。綺麗事だけで呪術師やってけるほど、現実は甘くない」
「・・・・・・」
「でも、まさか自分の両親まで手にかけるとはなぁ」
それを聞いて私は、
「・・・え」
そう呟いて、呆然と直哉さんの顔を見上げた。
すると直哉さんは少し驚いた顔をして、
「あれ?ひょっとして知らんかったん?」
そしてすぐに、薄ら笑いを浮かべて続けた。
「夏油君、自分の親も殺してもうてん」
それを聞いても、すぐには理解できなかった。
ただ。
『両親は、私の誇りだよ。私は、彼らに私を誇りに思ってもらえるように呪術師をしている』
かつて傑君が語っていた言葉が、脳裏にリフレインしていた。
リフレインは虚ろに響く。
ガクリと身体の力が抜けて、私はそのまま後ろに倒れそうになった。
その時、誰かが私の背中を支えた。
「・・・・・・」
私は後ろを振り返り、その人を見上げた。
「直哉」
その人は五条さんだった。
五条さんは私の背中に手を添えたまま隣に立ち、直哉さんに言った。
「余計なことペラペラしゃべんじゃねーよ」
「悟君」
直哉さんは態度を下手に急変させた。
「いやあ~、まさか知らんと思わんかってんて。だって、夏油君の話題で呪術界は持ちきりやん?知らんって知ってたら、こんな胸糞悪いこと話さへんよ」
「黙れ」
五条さんの口調は静かだが、明らかな怒りが込められていた。
「さっさと消えろ」
すると、ずっと直哉さんの顔に張り付いていた軽薄な笑みが消えた。
「・・・言われんでも消えるよ。もう用事は済んだしな」
そして、コツコツと音を立てながら石段を降り始める。
私達の隣を通り過ぎたところで、もう一度立ち止まり振り返ると、
「ほな、さいなら」
と、やはり軽薄な口調で言い残し去っていった。
「・・・・・・」
私は五条さんから少し距離を取った。
すると五条さんは私の背中を支えてくれていた手をそっと降ろした。
「・・・こないだは悪かった」
五条さんは言った。
「あんな風に怒鳴りつけて。辛い目に遭ったのは、オマエの方なのに」
「・・・・・・」
もはやそんなことはどうでもよかった。
「・・・本当なの?」
私は呟くように尋ねて、五条さんの顔を見上げた。
視線が合うと、五条さんは動揺した様にピクリと眉を動かした。